49話
美琴は高島に教えられた住所に向かって歩いていた。どうなるかは分からない。でも、行かないという選択肢は彼女の中には無かった。
その家はとても大きな一軒家で、御屋敷と言って差し支えないレベルだった。家の前に着くと、美琴は家の外観を凝視した。
『信じられない⋯。さあ、入って。』
美琴は以前ここで、誰かに声を掛けられた気がした。
そうだ。私はこの家を知っている。この家に来た事がある。美琴は直感でそう感じた。
いきなりインターホンの向こう側から声が聞こえてきた。
『美琴さん。待ってたよ。』
高島の声だった。
『門は開いてるよ。玄関から入ってきてくれるかな。』
美琴は門を開け、ゆっくりと玄関ドアまで進んだ。ドアを開けると、そこには高島が立っていた。
「よく来たね。いらっしゃい。」
「姉を、解放して下さい。」
「要件が早いね。まあ落ち着いて。どうぞ上がって。」
美琴は指示に従い、靴を脱いで家に上がった。高島に通されると、大きなリビングに案内された。
「とりあえず座って。今飲み物とお菓子を持ってくるよ。」
「いりません。」
「まあ、そう言わずに。座って。」
美琴は言われるがままに、ダイニングテーブル前のイスに座った。すぐに高島がキッチンから戻ってきた。美琴の前にメロンソーダとクッキーが入った容器が置かれた。
「どうぞ。」
美琴は高島を見た。
「姉を、解放して下さい。」
「それはまだ出来ないよ。」
「目的は、何ですか。」
「君と話す事だよ。」
「話す事など、ありません。」
「そんな事はないはずだ。何があったか、知りたいんでしょう?」
「私は⋯。」
「うん。」
「前に進みたい、だけなんです。」
「それは素晴らしい考えだね。」
高島はクッキーの入った個包装を一つ取り、それを開けてクッキーをボリボリと食べ始めた。
「美琴さんは真面目で、優等生だったと記憶してる。良い子だったよね。」
「みんな、良い子でした。」
「ああ、それは違う違う違う。困った子もチラホラいたし、ムカつく子もいたよ。」
「だからって、何かしていい訳じゃないです。」
美琴が高島を睨む。
「一体、みんなに何をしたんですか?」
「ここに来て思い出さない?」
高島は両手を広げた。
「美琴さんはここに来たんだよ、10年前に。」
美琴はじっと何かを堪えた表情を浮かべた。彼女は分かっていた。自分がかつて、この家に来た事を。
「私に、何をしたんですか⋯?」
「何をしたというか⋯うん⋯何も出来なかったんだよね⋯君には。」
「君には?みんなに⋯みんなには⋯。」
「みんなには悪い事をした、かな?うんまあ、そうだね。悪い事をした。でも、どうしても皆が必要だったんだ。」
「何に⋯必要だったの⋯何に⋯!?」
高島は薄ら笑いを浮かべながら美琴を見つめた。
「いやあああああああああああああああああっ!」
増渕のベッドの周りを、4年2組の児童達が取り囲んでいた。皆、瞳は真っ白で、無表情のまま増渕の事を見ていた。
増渕は訳が分からなかった。体を動かそうにも、縛られてはいないのに、手足が全く動かなかった。
「奈々さん。」
児童らの後ろに、高島が立っていた。
「何なのっ!?これ何なのっ!?」
「僕の教え子達だ。可愛いでしょ?」
「助けてっ!誰かっ!誰か助けてっ!」
「誰にも聞こえないから。無駄だから静かにして。」
「誰かっ!誰かっ!」
すると、増渕の体が大きく仰け反った。首が締まり、息が出来なくなった。
「がっ⋯あ⋯かっ⋯⋯!」
少しすると、増渕は苦しみから解放された。自分の身に何が起こったのか、何も分からなかった。
「静かかにして。分かった?」
「分かった⋯分かったから⋯。助けて⋯助けて⋯!」
「悪いけど、僕はまた学校に出なきゃ行けないんだ。今、大変な時でね。後はこの子達に任せるよ。」
そう言うと、高島はまるで授業を行うように、児童達に語り掛けた。
「さあ、みんな。お姉さんにおまじないをかけるよ。準備はいいね。せーの。」
「「「血哭影胎、虚無孕魔。血哭影胎、虚無孕魔。血哭影胎、虚無孕魔⋯。」」」
児童達が声を揃えて唱え始める。
「何なのよ!?何なのっ!」
「黙ってて。奈々さん。本当に、殺しちゃうよ?」
美琴は思い出していた。女性の目の前で、何かを唱えた事を。
「何かを、唱えた⋯私。」
「おお、思い出してきた?」
高島は嬉しそうに食い付いた。
「女性が、いた⋯。」
「そうそう。いいね。この家に来て、脳が刺激されてきたかな?」
「私は⋯みんなと⋯一緒にいた⋯。ここに来た⋯。」
「そうだよ。その通り。君はみんなと一緒にこの家に来たんだ。」
「あなたの⋯仕業⋯?」
「勿論だよ。」
部屋の外には紺野が立っていた。
「僕はまた出掛けるから。よろしくね。」
「⋯。」
「どうしたの?」
「本当にするの?」
「何を今更。怖気づいてるの?もう後戻りは出来ない。儀式には子供が必要なんだ。だから子供達を連れて来たんだよ。」
「まだ子供よ。10歳の子供。」
「だから?」




