4話
【無事保護されたのは、立光星小学校4年2組に在籍する生徒の1人、安田美琴さん10歳。10日前に光星小学校で発生した、児童集団失踪事件において行方不明となっていた児童の1人です。美琴さんは本日午前6時半頃、光星小学校内にある校庭に1人でいる所を職員に発見されました。美琴さんは衰弱しているものの、特に目立った外傷は無く、命に別条は無いということです。
今回の事件では、光星小学校4年2組に在籍する全児童28人が突如として行方不明となるという異例の事態が起こり、現在も警察が総動員態勢で捜索に当たっています。行方不明になった児童らは、未だ発見されておりません。今回発見された安田美琴さんが、どのような経緯で10日間もの間行方不明になっていたのか、健康状態を考慮しながら、本人から詳しく話を聞くとのことです。
行方不明になっている児童達の安否が心配されますが、今のところ有力な手掛かりは見つかっておらず、児童達の目撃情報等も入ってきていないとのことです。】
『現在、我が署総動員体制で行方不明になった児童らを、全力を挙げて捜索しております。本日までに児童らの目撃情報やその他有力な情報は、こちらの署の方には入って来ておりません。もし何かありました、どんな些細な情報でも構いません。是非、情報提供の方にご協力頂ければと思います。』
【大規模な捜索が続く一方、学校側の責任問題を問う声も上がっており、事件発生の2日後には学内で保護者らへの説明会が行われました。】
以下、音声のみ。
『これだけの教職員がいて、何故誰も児童の事を目撃していないんですか!そんな事ありえるんですか!?』
『こんな事があれば誰かが気付くでしょう、普通。先生方は一体何をしていたのですか!』
『誘拐事件なら、誰かが校内に侵入したことになる。安全管理がなっていないんじゃないですか!?』
【保護者からは、時折激しい怒号が飛び出しました。】
『このような事態になったことを、心よりお詫び申し上げます。本当に申し訳ありませんでした。只今、警察の方々と密に連絡を取り合っております。生徒達が見つかるまで、全力で捜索に当たると仰ってくれております。どうか、どうかもう少しだけお待ち下さい。』
『ふざけるな!待てるわけないだろう!』
『ウチの子を返して!今すぐ!』
しかし、帰って来たのは美琴だけだった。その後、大規模な捜索の甲斐なく、行方不明になった児童達は誰1人として見つからなかった。
「美琴、気分は大丈夫?無理しないでね。」
「⋯うん。」
「そうだ。無理するなよ。」
「明日病院、行ける?」
美琴が頷く。
「良かった。先生、きっと驚くわよ!」
両親が喜ぶのも無理はない。あれから10年。美琴は心を閉ざし、何も喋らなくなった。一体美琴の身に何があったのか、誰も、何も分からなかった。
何故今、美琴は口を開いたのか。いや、開けるようになったのか。美怜はそんな事をふと考えていた。
安田家が美琴の変化に喜んでいた頃、岩崎葉子は家で1人、2階のとある部屋にいた。行方知らずの息子の部屋。あの日から何も変わっていない息子の部屋。
「亮太。」
岩崎葉子が小さな声で呟く。
「亮太、亮太、亮太、亮太、亮太、亮太、亮太。」
手元には2人で撮られた写真が手元に握られている。
「うぅぅぅぅあああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!」
奇声を上げたかと思うと、窓に近付き、カーテンを開けた。安田家の明かりが見える。その明かりを岩崎葉子はじっと見つめた。
「亮太⋯何処にいるの。亮太⋯。」
涙を流しながら、その明かりを見つめ続ける。そして小さく舌打ちをしながら、親指の爪をかじり始めた。
「何で⋯何で何で何で何で何で何で何で何で。何であの子だけ?何で?何で?何で?何で?」
彼女のスマートフォンが鳴る。
「はい。」
『今から行きたい。大丈夫?』
「⋯わかった。待ってる。」
『どうした?何かあった?』
「別に⋯その⋯何でもない。大丈夫。」
『明日で10年だろ?心穏やかな訳ないよな。』
「大丈夫。本当に大丈夫だから。ごめんなさい、悪いんだけど何か飲み物を買って来て貰える?」
『酒か?』
「そう。お酒がいい。」
『分かった。適当に何か買ってくよ。』
「ありがとう。じゃ、待ってる。」
スマートフォンを切ると、彼女は冷静に戻っていた。流れ出ていた涙を拭うと、部屋の明かりにを消し、下の階へと降りていく。
岩崎亮太の部屋は、再び漆黒と静寂の空間へと戻った。




