47話
「やあ。」
自宅近くの公園を散歩をしている増渕の前に、高島が急に現れた。
「俊ちゃん。」
「疲れてるね。ちゃんと眠れてる?」
「なん、何なの?」
彼女は歩き出した。高島の事を無視して。そんな彼女の後ろを、高島は歩いた。
「元気ないね、奈々さん。」
「⋯何処かに行って。」
「心配で様子を見に来たのに。」
「いい加減にしないと、警察呼ぶよ!?」
「彼、痛そうだった?」
そう言われると、増渕は足を止めた。
「えっ?」
「どんな感じだった?指でこう⋯両目を突き刺すのって。」
高島はいつもと変わらない笑顔で尋ねてきた。
「何で⋯。」
「舌も噛み切ったでしょ?痛そうだね、どっちも。」
「何で⋯知ってるの?」
増渕は唖然とした表情を浮かべながら、涙を浮かべた。
「だから言ったじゃない。心配だから来たんだって。」
「だから何で知ってるの!?」
「婚約者が自殺して可哀想に。奈々さんもこれでお母さんと同じ、シングルマザーの仲間入りだね。」
増渕は一気に血の気が引いた。何故、妊娠している事を知られているのか。
「どうして⋯。」
「孕んだんでしょ?あの男の子供を。良かったね、夢が叶って。」
「うぅ⋯うぅぅ⋯!何で⋯何で⋯俊ちゃんが⋯知ってるの⋯!?何で!?」
「ずっと見てたよ。このヤリマンが。」
高島はそう言うと彼女の元を去っていった。残された増渕はその場に泣き崩れ、自らの腹部に手を当てた。
「なーんてね。帰ると思った?」
彼女の耳元で高島が囁いた。公園には誰もいなくなっていた。
『明日、実行する。』
紺野のスマートフォンに彼からのメッセージが入る。紺野は返信を躊躇ったが、無駄だと悟っていた。
『分かった。今日の夜、そっちに行く。』
返信すると、紺野は診察室で大きな溜め息をついた。もはや、彼を止める術はない。ただ彼に従うほかなかった。
夜の20時頃、紺野は高島の家に着いた。
「いらっしゃい。」
「やるのね?」
「話が早いね、姉さん。」
「そのために来たのよ。」
「夕飯まだでしょう?何か食べる?」
「いらない。」
「仕事終わりでしょ?ちゃんと食べた方が⋯。」
「俊輔。本当にやるの?」
「やるよ。」
「上手く出来るの?」
「自信はある。準備もしてきた。」
「彼女は?」
「上にいるよ。」
紺野は2階を見上げた。
「心配?」
「当然でしょう。あなたがしようとしている事は、これまでに類を見ない強大な呪術行使よ。」
「ご先祖様はやった事がある。」
「でも失敗した。そして大惨事になった。」
「僕は失敗しない。姉さんもいるし。」
「私は⋯。」
「嫌なんでしょ?手伝うの。」
「⋯嫌よ。」
「子供に手を出すから?」
「そうよ。」
「じゃあ何で手伝うの?」
「断ったら私を殺すでしょ?」
「酷いな。そんな事しないよ。」
「⋯。」
「でも、協力した方がいいね。悪い事は言わないから。」
2階の一室。ベッドに増渕が眠っていた。
「この女ね。俊輔を捨てた女は。」
「そう。美人さんでしょう?」
「中身がクソってわけね。」
「姉さんも汚い言葉使うんだね。」
「時と場合による。」
紺野は増渕の顔を覗き込んだ。
「この女をさっさと殺してしまえばいいのに。」
「僕は殺したい訳じゃない。」
「でも、この女の恋人は殺したじゃない。」
「殺してない。彼は自殺だよ。」
高島は眠る増渕の腹部に手を当てた。
「子供か。良かったねぇ、奈々さん。」
「分からない。」
「何が?」
「子供よ。何故そんなに欲しがるの。」
「姉さんも、やっぱりいずれ欲しくなるんじゃない?」
「いらない。自分で自分の面倒を見るのが精一杯よ。」
紺野は腕を組み、軽蔑の目で増渕を睨みつけた。
「で、計画を教えて。失敗は許されない。」
「わかったよ。じゃあ兄妹仲良く、【高島魂犠魔生】について語り合おうか。」
時は2015年7月23日(木)、夜。
翌日、世間を揺るがす前代未聞の未解決事件、【光星小学校 児童集団失踪事件】が起こる事になる。




