41話
美怜がその場に崩れ落ちた。
「お姉ちゃん!」
すぐに美琴が駆け寄る。美怜の意識は無いようだった。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
どれだけ呼び掛けても反応が無い。美琴は美怜の脱ぎ捨てられた服を美怜に掛けた。
「お姉ちゃん!目を開けて!」
「⋯美琴?」
美怜が目を開けた。
「お姉ちゃん!」
「大きな声、出せるようになったんだね。」
「大丈夫!?」
「どうして私はすっぽんぽんなの⋯?」
美怜は自分に掛けられた服を、両手で握り締めた。
「あの男が⋯。」
「高島俊輔?」
「うん。」
「やっぱり。そんな気がした。」
「お姉ちゃんを、操ってた。」
「そうなんだ。」
「何も覚えてない?」
「覚えてない。」
「とにかく服を⋯。」
「本気なの?1人であの男の家に?」
「うん。」
「美琴。駄目だって。」
「断れない。お姉ちゃんを人質に取られてる。」
「構わない。」
「何言ってるの?」
「私はどうでもいい。」
「そんな事言わないで。」
「私は本気よ。」
美怜の真剣な眼差しに、美琴は圧倒された。
「お姉ちゃん。聞いて。」
「聞いてる。」
「お姉ちゃんは今、あの男の手の中にある。」
「だから?」
「お姉ちゃんを操って、他人を傷付けたら?」
それを言われて美怜は口を継ぐんだ。
「それは、美琴があの男の所に行ったって同じじゃない。」
「そうは思わない。あの人は、私に会えればいいんだよ。」
「⋯私も行く。」
「お姉ちゃん。」
「私も行く。」
「私は1人じゃ何も出来ないって言ったよね?」
「ごめん、あれは本気じゃない⋯。」
「ううん。お姉ちゃんの、言う通り。私は1人じゃ、何も出来ない。これまでずっとそう。お母さんと、お父さんに助けられてきた。生活も、学校も、何もかも。」
「美琴が悪い訳じゃない。」
「だから、今度は1人で。」
美琴も、真剣な眼差しで美怜を見た。
「私は1人で、ここで待ってろって言うの?」
「そう。」
「納得出来ない。」
「納得しなくてもいい。」
「もし、美琴に何かあったら?美琴が帰って来なかったら?その可能性があるでしょう、あの男に会うって事は。」
「帰ってくるよ。絶対。」
増渕奈々はもうすぐ定時だと言うのに、パソコン作業を行う手を休める事なく、働き続けていた。同じ経理部の人間が辞め、仕事量は圧倒的に増えていた。
「増渕さん、残業するの?」
他のスタッフが増渕に気遣いの言葉を掛けてきた。
「いえ、何とか定時で上がります。今日は何としても帰らなきゃなんです。」
定時になり、仕事を切り上げ、帰り支度をするスタッフが増えてきた。増渕も何とか切りの良い所まで作業を終わらせた。
「よしっ。」
増渕はパソコンの電源を急いで切り、デスクの周りを片付け始めた。荷物を鞄に詰め、時計を確認する。
「お疲れ様でした。」
挨拶をして、増渕はオフィスを後にした。彼女はすぐにエレベーターには乗らず、お手洗いへと向かった。鏡の前に立ち、化粧直しを始める。
よし、メイクはバッチリだ。
増渕は小走りでエレベーターに乗り、そのまま会社を出た。通りでタクシーを拾い、目的地を伝える。道路が混んでいない事を祈りながら、彼女はスマートフォンでメッセージを送った。
『今、出発した!』
すると既読が付き、すぐに返信が来た。
『了解!間もなく着きます!』
増渕はテンションが上がり、笑顔でスマートフォンを見つめた。
幸い道は混んでおらず、タクシーはスムーズに目的地である駅の近くに到着した。
『改札前にいるよ。』
メッセージを確認し、増渕は改札を目指した。駅は帰宅時間ということもあり、とても混雑していた。そんな人混みの中、彼女は彼を見つけた。
「ごめん、待った?」
「ううん、大丈夫!今着いた所だし。」
2人は手を繋ぎ、目的地のレストランへと歩き出した。
「仕事量が増えて、もう大変だよ。」
「そっか。人辞めたんだもんね。新しい人は入れないの?」
「今募集は掛けてるんだけど、どうなるかまだ分からないんだよね。仮に決まっても、すぐ入社するかどうか。」
「じゃあ、しばらくは大変だね。」
「だから私を癒して〜。」
増渕は彼の腕に抱きついた。




