39話
松下からの連絡は一切無かった。
『私からの連絡が無ければ、何かあったと思ってもらって構わない。』
事前に松下から言われた言葉が美怜の頭を過ぎる。もしも松下の身に何かがあったのなら、犯人は見当がつく。そう、松下は彼に話を聞きに行ったのだ。
高島俊輔。美琴の担任教師だった男。そして、呪術と関係がある男。
松下は無事なのだろうか。しかし、連絡が無いという事は⋯。
美怜は嫌な予感しかしなかった。美琴も気になっているに違いない。
一体どうすればいいのか。美怜の答えは出なかった。
自室の窓から美琴は外を眺めていた。
松下からの連絡が無いという事は、彼に何かが起きたという事。美琴の恐れていた通りになってしまった。
事件の真相にもう少しで辿り着けると思っていた。しかし、そんな事は無かった。
もはや行動出来るのは、自分しかいない。でも、怖い。また自分が闇に落ちるかもしれない。
記憶障害を引き起こす程の何かが、自分の身に起きた事は間違いない。それも、呪術が関係している可能性が高い。
高島俊輔。美琴は彼の事を優しかったように記憶していた。あの先生が本当に失踪事件を引き起こした犯人なのか。
「お姉ちゃん。」
「何?」
「私、紺野先生に、会いに行って、来る。」
「どうして?昏睡状態なんでしょ?」
「それでも、会いに行くよ。」
「駄目。危険だよ。分かってるでしょ?」
「うん。」
「松下さんだって、どうなったのか⋯。高島俊輔と紺野は繋がってたんでしょ?もう⋯駄目だって⋯。」
「私が、動かないと。」
「何で?」
「だって⋯。」
「美琴に何かあったら、私は1人になる。」
美怜のその言葉に美琴は静かになった。
「辛いのは分かるよ。悲しくて、苦しいのもお姉ちゃん分かってるつもり。でもさ、だからって真相を追い求める必要ってあるの?」
「お姉ちゃん⋯。」
「何も気にせず、前に進んで行けばいい。それじゃ駄目なの?私は⋯私は普通がいいの、美琴。」
「普通⋯。」
その言葉は美琴の心に突き刺さった。
「私だって、普通が良いよ。」
「だったらもう止めようよ。私達は警察でも何でもない。」
「分かったよ。じゃあ、私だけでいい。」
「何それ。」
「お姉ちゃんは、大丈夫。」
「大丈夫って何?」
「ここにいて、いいから。家に帰っても、いいよ。」
「何言ってるの、美琴。」
「私は行く、から。」
「だから何でよ!」
「みんなを、見つけてあげたいの。」
「無理だよ。」
「亮太君だって、何処かにいる。きっと。」
「あなたは1人で何も出来ないでしょう!?」
ついに美怜が叫んだ。
「美琴。もう止めて。止めなさい。」
「⋯嫌。」
「⋯なんでよ。」
「私が、進むため。」
そう言うと美琴は美怜と目を合わさずに、家を出て行った。1人残された美怜はふと両親の遺影を見た。
電車を乗り継ぎ、病院に着いた美琴は入院病棟の受付へと向かった。
「すいません、紺野真尋さんの、お見舞いに来たんですが。」
自分と紺野の長年の関係を説明し、面会者記録簿に美琴は名前を書き込む。
「君も彼女のお見舞いに来たの?」
後ろから聞こえたその声に、美琴の名前を書く手が止まった。その声の主は、美琴の横に並んだ。
「すみません。紺野真尋の見舞いに来た者ですが。ええ、こちらの方とも知り合いです。」
男はそう言うと美琴の方を見た。
「ね?美琴さん。」
高島俊輔が笑った。
2人は並んで歩きながら、紺野の病室を目指した。
「久し振りですね。美琴さん。まさかこんな所で会うなんて。」
美琴は底知れぬ恐怖を感じ、歩いてはいたが、言葉は出せなかった。
「彼女がここに運ばれる時に、一緒に来てくれたんでしょう?どうもありがとう。僕と彼女の関係は、もう知っているんだよね?」
「⋯。」
聞きたい事は山程あるが、美琴は震えていた。
「彼女が迷惑を掛けたなら謝ります。ごめんなさい。美琴さん、まさか緊張してる?」
「あ⋯。」
「何かな?」
「あの⋯。」
「はい?」
「松下さんは、何処ですか?」
美琴がそう聞くと、彼の足が止まった。思わず美琴も足を止める。
「松下和之さんの事かな?」
美琴は頷いた。
「心配しないで。」
彼は再び歩き出した。
「もういないよ。」
その言葉を聞いて、美琴はその場に凍り付いた。
「あれ、行くんでしょ?お見舞い。ほら、一緒に行こう。」
高島が美琴に近付く。
「それにしても、本当に大きくなったね、美琴さん。何だか嬉しいよ。元担任として。」




