38話
松下は混乱と共に恐怖を感じた。訳が分からない。間違いなくカフェにいたはずなのに、一瞬でどこだか分からないこの部屋に移動した。
目の前には先程と同じ様に高島が座っている。松下は何とか恐怖を抑えた。間違いなく、自分の身に何かが起きた。“呪術”が使われたに違いない。
「ここは何処だ。」
「僕の家です。正確には両親の家ですが。」
広々としたリビング。どう考えても豪邸だった。
「一体何をした。」
「えっ。」
「とぼけるな。」
松下の額に汗が伝う。
「松下さんを自宅に招待したんです。」
「どうやって?」
「さあ、どうやってでしょう。」
高島の目の前にはメロンソーダが注がれたグラスが置かれていた。
「松下さんは、最初からカフェなんかにいなかった、と言ったら驚きますか?」
松下の背筋が凍る。
「そうなのか?」
「どうでしょうね。」
「答えないか!」
松下がついに大声を上げた。
「びっくりした。落ち着いて下さい。せっかく松下さんが知りたがってる“呪術”を体感させてあげたのに。」
「呪術を使ったのか。」
「使いました。」
「どんな呪術を。」
「それは教えませんよ。分からないほうが、不気味で、怖くて、呪いって感じがするでしょう?」
高島は楽しんでいる様子だった。
「私を操ったのか?」
「だから教えませんって。」
「いつから操った?店に入る前からか?それとも途中からか?」
高島が松下を睨むと、松下は急な頭痛に襲われた。
「うぐっ⋯。」
そしてその頭痛は一瞬で治まった。
「しつこいですよ、松下さん。」
高島がメロンソーダを飲む。
「私をどうするつもりだ。」
「ここの方が松下さんも話しやすいかと思ったんです。僕なりの気遣いですよ。」
「⋯今のように。」
「はい?」
「今のように子供達の事を操ったのか。」
「おお、いい質問ですね。」
「暗示か、洗脳か。それすらも呪術だという事だな?紺野真尋も、長年彼女に⋯安田美琴に同じ様なことをしていた。」
「ほんと、探偵みたいですね、松下さん。」
「失踪ではない。お前が誘拐したんだ、子供達を。」
「28人もですか?」
「そうだ。」
「監視カメラはどうです?校内だけじゃない。街に設置されている監視カメラにも児童達の姿は映っていなかった。」
「紺野真尋と話した時。録音機を回していたのに、会話が全く録音されていなかった。君達の呪術は人だけではなく、無機物にも作用するんじゃないのか。」
「なるほど。」
「もはや君達が扱う呪術は超能力に近い。」
「児童達は誰にも見られていません。誰も見られずに、どう移動したんでしょうか。」
「それは⋯分からない。」
「あらら、そこは分からないんですね。」
「他はどうなんだ?」
高島はニヤニヤと微笑みを浮かべた。
「秘密です。」
「ふざけるな。」
「では質問です。仮に僕が児童達を誘拐したとして、その理由は何だと思いますか?」
松下は黙った。高島の質問は、この失踪事件の肝と言っても過言では無かった。もしこの事件が人為的に引き起こされた物だとしたら、果たして動機は何なのか。松下はまるで見当がつかなかった。
高島は余裕の表情で松下の事を見ていた。
「分からない。」
松下が答えた。
「そうですよね。分かる訳がない。」
高島がそう話すと、上の階からゴトッという鈍い音が聞こえた。松下が視線を上げる。
「誰かいるのか?」
「会いますか?」
「何?」
「会いますか?みんなに?」
高島が満面の笑みを見せた。
「みんなとは?」
高島は表情を変えない。そのまま立ち上がり、リビングのドアを開けた。
「どうぞ、こちらです。」
松下はゆっくりと立ち上がり、ドアに向かう。ゆっくりと歩み出した高島の後ろを、松下が追う。長く広い廊下。果たして部屋は幾つあるのだろうか。
階段に辿り着き、2階へと登っていく。登り切ると、また長い廊下に出た。その先にある扉へと高島は進んで行く。松下は覚悟を決め、彼の後を追うしかなかった。
自分はこの男に殺されるかもしれない。
そうだとしても、松下に残された他の選択肢は存在しなかった。恐らくこの男から逃れる術は無い。
「ここです。」
高島がドアの前で止まった。
「ここに何があるんだ。」
「その目で見て下さい。どうぞ、扉を開けて。」
松下は扉を見つめ、ドアノブへと手を伸ばした。ドアが開き、その先を松下は見た。
「うぁあぁあああああぁぁぁああっっっ!」
松下は叫び声を上げ、その場で腰を抜かした。
「ね、凄いでしょう?松下さんが記事に出来なくて残念です。」




