37話
「お待ちしてました、高島さん。」
「こんにちは、松下さん。」
高島は松下の前に座ると、すぐに従業員を呼んだ。
「すみません、アイスコーヒーを。」
従業員が下がると、松下はじっと彼を見つめ、何気なく尋ねた。
「今日はメロンソーダじゃないんですね。」
「気分です。コーヒーだって飲みますよ。」
「そうですか。」
2人は少し沈黙した。
「また松下さんから連絡がくる気がしてました。」
「そうでしょうね。こちらも色々調べましたよ。」
「何をですか?」
「あなたの事をです。」
「僕の事を?」
「はい。」
「何故ですか?」
「気になったからです。」
「なるほど。シンプルな理由ですね。何か分かりましたか。」
「はい。」
「へえ。」
「紺野真尋さんをご存知ですね?」
「先程、見舞いに行ってきました。」
隠す気はない。松下はより警戒心を強めた。
「紺野さんはどうでしたか?」
「昏睡状態です。意識が戻らず、今も眠っています。」
「昏睡状態⋯。」
「失敗したのか、それとも自ら何かしたのか、それは分かりません。本人に聞いてみないと。」
「失敗?何をですか?」
「ご存知でしょう?呪術ですよ。」
高島が頼んだアイスコーヒーが運ばれてきた。高島の口から“呪術”の言葉が飛び出し、松下は自分の鼓動が速くなったのを感じた。
「呪術とは、何ですか?」
「調べたんじゃないんですか?」
「そうだとしても、直接あなたの口から説明していただきたい。」
「字の通りですよ。呪う術です。」
「呪う、とは?」
「うーん、それは意外と難しい質問ですね。」
高島はアイスコーヒーを何口か飲んだ。
「まあ、基本的に悪い事なんじゃないでしょうか。呪い、ですから。」
「あなたはそんな物が存在すると思っているんですか?」
「はい。存在しますよ。」
「存在するんですね。」
「松下さんは見たんでしょう?呪術を。紺野真尋から。」
「あなたのお姉さんですか?」
「そうです、そうです。」
高島は何も隠すつもりはないようだった。
「あなた家系は、どうやらその“呪術”と関係が深いようですね。」
「らしいですね。詳しい事はよく知りませんが。」
「知らないんですか?」
「はい。僕は父の事も母の事も大嫌いでしたので、昔の事はほとんど聞いていません。そうだったらしい、という事くらいしか。」
「ご両親も、亡くなっていますね。」
「はい。」
高島が笑った。
「お父様の会社はどうですか?」
「別に経営に問題はないようですよ。順調みたいです。」
「一族経営ですよね?」
「だとしても優秀な方々が揃っていますから。父がいなくなっても何の問題もありません。むしろ、邪魔だったかもしれませんね、あんな人。」
「高島さん。この間ははぐらかされましたが、今はどんなお仕事を?」
「⋯実は高島開発で、事務の仕事をしています。もっと上の役職に行けたんですが、お断りしました。周りはやりづらいでしょうね。僕が事務なんかしてるので。」
「何故、この間は教えてくれなかったんですか?」
「恥ずかしかったんですよ。これだけ父の文句を言っておいて、父の会社で働いているなんて。」
「高島開発の名前を出したくなかったのではないですか?」
「違いますよ。社名は出さず、事務職をしてますと言えるじゃないですか。」
「そうですか。」
松下もアイスコーヒーを口にした。
「松下さん、本題に入ってはいかがですか?」
「そうですか。分かりました。」
松下の瞳は、高島を捉えた。
「子供達を、どこへやったんですか?」
「僕が失踪事件の犯人だと?」
「はい。」
松下が間髪入れずに返答する。
「当時、警察には全て話しましたよ?」
「はい。」
「保護者の皆様にも、全てお話ししました。」
「はい。」
「それでも、僕が何かしたと?」
「はい。」
「むむう。それは困りましたね。」
「私はジャーナリストです。現実で起こった事しか信用しません。そして、私は呪術を見ました。実際に体感もしました。私はその存在を信じています。」
「記事に出来るんですか?そんな話、誰も信用しませんよ。」
「だとしても、現実に呪術は存在する。」
「松下さんは、呪術で私が子供達をどうにかしたと思っているんですね。」
「そうです。違いますか?」
「松下さんは凄いですね。まるで名探偵じゃないですか。」
高島は余裕の表情を見せた。
「答えて下さい。」
「どうしたと言うんです?仮に僕が呪術を使えたとして。」
「それを教えて下さいよ。」
「僕が話すと?」
「話してくれないんですか?」
次の瞬間、高島が右手で指を鳴らした。
パチンと音が響く。
気が付くと松下は知らない部屋にいた。綺麗なダイニングテーブルの前に座っている。何が何だか分からない。松下は驚愕の表情を浮かべる。松下の前には先程と同じ様に、高島が座っていた。
「ようこそ、我が家へ。」




