36話
岩崎家を後にした3人は、目の前にあるの安田家の前に集まった。
「いいんですか、松下さん。」
美怜は松下の事を心配していた。
「岩崎さんは被害者だ。何も言う事はないよ。」
「どうするん、ですか?」
松下は美琴を見た。一体彼女はどんな事を目撃したのか。記憶障害になるほどの出来事。そして、その後に紺野真尋が行った洗脳と言う名の呪術。彼女はあまりにも苦しめられ過ぎていた。
「美琴さんは、もう関わらなくていい。美怜さんもだ。」
「そんな。」
「ここから先は確実に危険が伴う。私が1人で調査を続ける。」
「高島俊輔と、会うんですか?」
美琴が尋ねた。
「話を聞こうとは思ってる。でも安心して欲しい。決して2人きりでは会わない。必ず外で、人目のつく所で会うようにする。」
それでも、美琴は心配だった。自分に何かしたかもしれない男。そして自分の心を沈めたかもしれない男。底知れない恐怖を、かつての担任教師に美琴は抱いていた。嫌な予感がする。
「会わなくて、いいと思います。」
美琴が松下に答えた。
「会わなくてもいい?」
「危険を冒す、必要は無いです。松下さん。」
美琴は本気で止めている。松下には彼女の本気が伝わっていた。
「約束する。無理はしないし、危険と判断したらすぐに逃げるよ。」
「では、何かあれば、連絡して下さい。」
「分かったよ。君達はくれぐれも無理はしないでくれ。お父様やお母様のためにも。」
そう言われると、美怜と美琴は松下に頭を下げた。路駐していた車に乗ると、松下はそのまま去っていった。
自宅に戻った2人は、テーブルの上に散ったグラスを見た。
「もう何が何だか分かんない。」
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫じゃない。」
美怜にどっと疲れが押し寄せてきた。フラフラと歩き、美怜はソファに流れ込むように座り込んだ。
「私達、あの先生に殺されかけたって事?」
「分からない。先生が、何をしようと、していたのか。」
「呪術なんでしょ?私達、呪われかけたのかな。」
「⋯そうかもしれない。」
美琴も美怜の横に並んでソファに座った。
「美琴は今でも真相を知りたいの?」
「どうして?」
「とんでもない真相かもしれない。私達が思っている以上に。美琴が心配だよ、私は。」
「私は、知りたい。」
「呪いが絡んできても?」
「うん。」
「そっか。美琴は強いんだね。」
「強く、ないよ。」
「そんな事ないよ。」
「ただ知りたいの。みんなが、何処にいるのか。」
安田信之が荼毘に付されようとしていた。遺体の状態やここ数日の現状を考え、美怜と美琴は直葬で父親を見送る事にした。
喪服姿の2人が、棺を前に静かに涙を流した。美怜の手を、美琴は優しく握り締めた。
紺野真尋は入院を続けていた。昏睡状態が続いており、その原因は検査しても分からなかった。
ベッドで眠り続ける彼女の横に、彼はやって来た。
「姉さん。」
高島俊輔が語り掛ける。反応は無い。
「何をしてるの、姉さん。」
ひたすら彼女に語り掛ける。
「失敗したの?それとも、わざと?」
高島は彼女の顔に触れた。
「これからまた彼と会ってくるよ。」
再び訪れたカフェで、松下はテーブルにつき、アイスコーヒーを前に彼を待っていた。
周りには何人もの利用客が座っており、カフェは賑わっていた。
「お待たせしました。」
彼がやって来た。
「今日は時間にルーズですね。高島俊輔さん。」
高島が微笑み、白い歯を覗かせた。




