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35話

病院を出た美琴は、専用の駐車場で1人待っていた。美怜から、松下が車で迎えに行くと連絡があり、時間を潰していた。


今日の所は、紺野に何もしようがない。彼女は回復するのか。それとも⋯。


事件後、ここまで何かが大きく動いた事はない。失踪事件の答えへと、美琴達は確実に近付いていた。


呪術の存在という、あまりに信じがたい現実。こんな話、きっと誰も信用しない。


一体周りにどう説明すればいいのか。果たして警察は動いてくれるのか。美琴は不安と疑問で頭を悩ませた。


考えていると、1台の黒い車がやって来た。運転席に松下の姿が見えた。




ハンドルを握る松下の顔は、美琴から見て疲弊してるように感じた。


「申し訳ない。」


松下が急に謝ってきた。


「君達姉妹を危険な目に合わせてしまった。私のせいだ。」


「松下さんの、せいではないです。」


「紺野真尋の事を教えてくれたのは君だが、会う約束を取り付けようと提案したのは私だ。急かし過ぎた。危うく、どうなっていた事か。」


「悪いのは紺野先生、です。私も、驚きました。」


「君には辛いな。長年診てもらっていたんだろう?」


「はい。」


「高島俊輔との関係もある。とんでもない偶然で、君は彼女と巡り合ったんだな。」


「そのようです。」


「これからの事を考えなければ。」




岩崎の自宅。2人の間には静かな時間が流れていた。


「信じられませんよね。」


美怜が口を開いた。


「何度考えてみても、実際に見ても、信じられません。呪術の存在なんて。」


「私もよ。」


岩崎が答えた。


「息子は一体どうなってしまったのか。呪術とやらの話を聞いても、想像がつかないわ。」


「そうですね。」


「こんな事、家族の会の会合で話せる訳がない。絶対に無理よ。混乱を引き起こすだけ。」


美怜は以前から聞きたかった事を岩崎にぶつけた。


「会合では皆さん、どんな事を話すんですか?」


「自分の気持ちや、子供への想いよ。それを吐き出すの。」


「母は傷ついていたと思います。その会合に呼ばれなかったから。」


岩崎が美怜の方を見た。美怜の目はどこか冷たかった。


「呼べる訳がない。子供を失った方達の集まりよ。お母様は失ってない。行った所で、他の親御さん達から反感を買っていただけよ。」


「でも、母は酷い仕打ちを受けて来たはずです。周りの方々から。私には言わなかったけど。」


「何の事か分からないわ。」


美怜は少し声を大きくした。


「家に石を投げられて、窓ガラスが割れた事がありました。」


「そう。」


「不審な電話が掛かってきた事もあります。『お前が誘拐したんだろ』とか『息子は何処にいるんだ』とか。」


「いけない事だけど、気持ちは理解出来るわ。美怜ちゃんはには分からないでしょうけど。」


「岩崎さん達は、美琴の事を被害者だと思っていなさ過ぎるんです。美琴は本当に⋯本当に苦しんできました。美琴を支える父と母も、大変だったはずです。それでも⋯。」


美怜は溢れる感情を、ぐっと堪えた。


「不満一つ言わずに、私達の前では明るく振る舞っていました。私はただ、父と母にも仲間がいたらと思っただけです。」


美怜は冷静になろうと、目を瞑った。岩崎やその他の方々が辛く、苦しい日々を送ってきた事は、勿論理解していた。それでも、美怜は我慢が出来なかった。ずっと岩崎に伝えたかった。


「言いたいことは分かる。分かるけど、美怜ちゃんは私達の気持ちを理解出来ていない。これっぽっちもね。」


「そうですか。そうかもしれません。」


「子供が出来たら分かるわよ。きっと。」




高島俊輔は自宅の窓から外を見つめていた。彼には紺野に何が起きたのか、感覚的に理解していた。


「姉さん。」


彼の後ろで何かが動く。彼はそれに向かって優しく声を掛けた。


「心配しなくていいからね。大丈夫だよ。」




「これからどうするんですか?」


美怜が松下に尋ねた。


「高島俊輔にまた会うしかない。会うしかないが、危険過ぎる。」


「呪術師、ですもんね。」


美琴が松下をフォローする。


「そう。紺野真尋に呪術を教えたのが彼なら、彼の方がより強力な呪術を使うかもしれない。」


「強力な呪術⋯まるで漫画の世界の会話みたい。」


「私は、もう、関わりたくありません。」 


岩崎の言葉に1番驚いたのは松下だった。


「岩崎さん。何故ですか?ここまで突き止めたのに。」


「突き止めたのは呪術の存在であり、それを扱う者がいる事をでしょう。子供達とは関係ないじゃないですか。」


「関係ないと思いますか?本当に?」


「私は、生きなければならないんです。亮太のために。私が死んでしまったら、亮太が1人になってしまう。危険な事に首を突っ込むような事は避けなければいけないんです。」


「その危険の先に、亮太君がいるかもしれないのに。」


「ですから松下さんにお任せします。」


岩崎は松下に全てを預けた。美怜はそれが気に入らなかった。


「松下さん1人に危険な事へ首を突っ込めと言うんですか?」


「彼はジャーナリストです。」


「そんな言い方、酷いです岩崎さん。」


「いいんだ美怜さん、岩崎さんは正しい。」


岩崎はそう言いながらも、何処か気まずさを感じていた。3人から目線を外し、口を噤んた。


「私が必ず真相を突き止める。その時は全てを記事にさせてもらいます。いいですね?」

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