30話
紺野真尋と高島俊輔に繋がりがあった。
美琴に悲しみと恐怖が襲って来た。本当に松下の言っていた事が本当なら、自分は失踪事件からずっと、2人に監視されてきたようなものではないか?母も、父も、2人に翻弄され続けたという事ではないか?
感情が込み上げてくる。それでも何とか美琴は冷静であろうとした。
「血縁者なんですね、高島俊輔と。」
松下が紺野に尋ねる。
「はい。しかし、高島幸一郎は私の事を認知せず、母に押し付けました。養育費だけは払っていたようですが。」
「お母様は?」
「私が成人する前に亡くなっています。母は1人で私の事を何とか育てようとしてくれていました。優しかったですよ。ただまあ、不倫したのは母ですから。自らで撒いた種です。」
「高島幸一郎とお母様はどうやって出会ったんですか?」
「夜の店のような所です。母はそういった仕事をしていたようですから。」
「では、高島俊輔とはどうやって出会ったんですか?」
『こんにちは。』
その男性は突然、紺野真尋の自宅アパートを訪ねてきた。自宅のモニターから紺野は尋ねた。
「どちら様ですか?」
『高島俊輔と申します。』
「高島?」
その苗字を聞いて、紺野は思わず声色を変えた。彼女は玄関まで出向き、恐る恐るドアを開けた。そこには高島が微笑みながら立っていた。
「高島⋯俊輔さん?」
「そうです。紺野真尋さんですね。初めまして。突然押し掛けてしまって申し訳ないです。」
「いえ⋯。」
「僕達は父親が一緒です。高島幸一郎。」
紺野は驚きを隠せなかった。
「じゃあ⋯。」
「僕達は兄妹です。やっと会えましたね。」
「俊輔さんは、今お幾つですか?」
「17歳です。」
紺野に出された温かい紅茶を飲みながら、高島は答えた。
「17歳。高校生ですか。」
「そうです。失礼ですが、紺野さんはお幾つですか?」
「今年26歳になりました。」
「僕は今年18歳になるので、8個違いですね。」
「⋯どうやって私の事を調べたんですか?」
「秘密です。」
「えっ。」
「冗談ですよ。父から聞きました。色んな手を使って。」
「色んな手?」
「あなたにもきっと使える。いや、もう使っていませんか?」
紺野に緊張感が走る。まるで高島は紺野の事を見透かしているようだった。
「どういう意味です。」
「闇降臨古詠、闇降臨古詠、闇降臨古詠⋯。」
高島が目を瞑って、何かを唱え始めた。カーテンが開いているというのに、部屋が徐々に暗くなり始めた。
紺野は部屋を見渡し、驚きの表情で高島を見た。
闇が降りてくる。そして、誰かが降りてくる。ひたひたと何者かの足音が紺野に忍び寄ってくる。現実か幻覚か、まるで部屋全体が揺れているようだった。
紺野が高島を見ると、高島の瞳が真っ黒に染まっていた。
「止めて!」
そう彼女が叫ぶと、高島の前に置かれたティーカップが粉々になった。高島は我に返ったように、元に戻った。
闇が、消えた。
紺野は荒くなった息を、何とか抑えようとした。その姿を見て
「やっぱり使えるんじゃないですか。」
と高島は笑い掛けた。
「何なんですか、これは。」
「呪術ですよ。あの、何か拭くものとかあります?」
「呪術?」
「はい。」
「何ですかそれは。」
「だから呪術⋯。」
「聞こえてます。呪術って何ですか?」
「文字通り、呪う術ですよ。高島家に伝わる秘術です。あなたも高島の血が流れている。だから使えるはずだ。ちゃんと学べばね。ティーカップを独学で割る事が出来たんだから、対したもんです。」
テーブルに散ったティーカップを紺野は見つめた。割れた破片が、またさらに細かく割れた。
「ほらね、凄いですよ。何か拭くものを⋯。」
「気付いてました。他の人間とは何かが違うと。」
「そうですか。あの、拭くもの⋯。」
「信じられません。こんな事が、現実にあるなんて。」
「世界のほとんどの人が信じないでしょうね。」
「あなたはもっと、何かが出来るんですか?」
紺野が高島に尋ねた。
「出来ます。」
「どんな事が?」
「誰も、想像が付かない事です。」
「本当に?」
美怜が驚愕の表情で紺野を見た。
「信じられませんよね。無理も無いです。」
「やはり⋯。」
話を聞いた松下が、ニヤリとした。
「現実に呪術が存在する⋯!」
松下はより紺野に近付いた。
「“呪術”というのはあくまで呼び名の1つに過ぎません。他には何でしょうね。“超能力”とか“念力”になるんでしょうか。」
「ならあなたは、“超能力”が使えるのか?」
そう言われた紺野が、目の前に置かれたグラスを見ると、グラスが粉々に割れた。3人が驚きの声を上げる。グラスの破片はそのままテーブルで宙に浮いており、その中に入っていたお茶も、まるで雲のように宙に舞っている。
「す、凄い⋯!」
松下がその様をまじまじと見つめる。
「信じられない⋯!こんな事って⋯。」
美怜が後ろに仰け反る。美琴も怯えていた。
「こんな物を見せられたら、信じるしかありませんよね。」
紺野がそう言うと、宙に浮いていた物が一斉にテーブルへと落ちた。
「きゃっ!」
美怜が叫ぶ。
「すみませんが、何か拭くものを貰えますか?」




