27話
美怜と美琴は重い足取りで、自宅への帰路についていた。
「不動産には連絡はしてある。けど、どうしようね。」
「⋯。」
2人はあっという間に自宅にたどり着いた。玄関の門には黄色いテープが張られている。
「お父さん。」
「ん?」
「いつ、会える、かな。」
「警察から連絡が来るよ。今はそれを待つしかない。」
「⋯。」
「何か⋯家、入りづらいね。」
「⋯うん。」
2人はその場から動けなかった。
「すいません。」
2人が後ろを振り返ると、岩崎家から出て来た松下が立っていた。
「あなたは。」
「どうも。」
松下が軽く会釈する。美琴は少しだけ美怜の後ろに隠れた。
「先日は急に押し掛けたりしてすいませんでした。今は、本当に軽率な行動だったと反省しています。」
美怜は警戒しながらも、謝罪の意を見せ頭を下げる松下に対して、少しだけ心を開いた。
「もういいんです。」
「美琴さんも、本当にすいませんでした。」
「⋯いえ。」
「聞きましたよ。ご両親の事。大丈夫ですか?」
「大丈夫⋯ではないですけど。何とかやって行くしかないです、妹と。」
「そうですか。」
「あの⋯えっと⋯。」
「松下です。あれ、名刺。」
「名刺?」
「郵便受けに入れておいたんですけど。」
美琴が郵便受けを開けると、確かに1枚の名刺が入っていた。それを確認し、美怜に見せた。
「すいません。家族全員、郵便受けをよく見てませんでした。バタバタしてて。」
「いえ、いいんです。」
「松下さんは何故ここに?また妹に取材ですか?」
「違います。岩崎さんと話していたんです。今、ちょっとした繋がりがありまして。」
「岩崎さんと?それはつまり。」
「はい。10年前の失踪事件について調べています。」
「やっぱり。」
「何か⋯。」
美琴が会話に入っきた。
「何か、分かりました、か?」
「分かりました。」
「「えっ。」」
美怜と美琴が思わず声を合わせる。
「本当、です、か?」
「分かったというより、まあその⋯推測です。」
「推測⋯。」
美怜が少しがっかりした表情を浮かべた。
「私、聞き、たいです。」
「ちょっと美琴。」
「多分いい気はしないと思います。岩崎さんも最初はそうでしたから。」
「どういう事ですか?」
「まあ、聞けば分かりますよ。」
自宅に入ると、驚いた事に焦げた匂いはしていなかった。美怜と美琴は恐る恐るリビングに入り、キッチンの方を確認する。信之が倒れ込んだそのままの形に、黒い焦げ跡が出来ていた。まるで影のように。
それを見ると、美怜は口を押さえ、トイレに走った。
「お姉、ちゃん⋯!」
「これは。」
松下がその影を見た。
「父は、ここで、死にまし、た。」
「こんな綺麗に人の形に沿って焦げがつくもんですかね。しかも焦げた匂いもほとんど無い。お父様は⋯焼身自殺を?」
美琴はゆっくりと頷いた。
「あり得ないです。」
美怜がトイレから戻って来た。
「父があんな事するなんて。」
「やはり、呪い。」
「呪い?どういう意味です?」
「そのままの意味ですよ。」
松下の話を静かに最後まで聞いた2人は、唖然としていた。
「松下さんは、ふざけてるんですか?」
「いえ、ふざけていません。ちなみに岩崎さんにも先程同じ様な事を言われました。」
「でしょうね。」
「呪い。」
美琴が呟いた。
「いや美琴、信じないで。」
「やっぱり信じてもらえませんか。」
「信じる訳ないじゃないですか。呪いだなんてそんな馬鹿馬鹿しい。」
「でも説明は出来てると思うんですが。」
「説明ってそんな⋯呪いのですか?じゃあ私達家族は呪いに苦しめられてきたって言うんですか?この10年間!?」
「美琴さんはどう思います?」
「あり得ない、けど。」
「けど?」
「完全に、否定、出来ない。」
「嘘でしょ美琴。」
「みんなが、一斉に、一瞬で、誰にも、見られず、消えた。人の、力で、どうにか、出来ない。」
「そう考えますよね。そうなんです。どう考えたって、現実的じゃない方法じゃないと、この失踪事件は成立しない。」
「警察が解決出来ていないんですよ?」
「警察が呪いを視野に捜索すると思います?」
「しませんよ。する訳ない。だからってそんな話。」
「でも笑えないでしょ?」
美怜は言い返せなくなってしまった。
「人を、操る、術が、あるんで、すか?」
「その術を高島家は使えたと思います。言い伝えによれば。」
「それなら、色々と、説明が⋯。」
「ちょっと待って待って待って。」
美怜が痺れを切らした。
「2人とも本気で言ってるの?私、今とっても疲れてるし悲しみで一杯だけど⋯そんな呪いなんて信じないよ!?当たり前でしょ!?お父さんは!?お父さんはじゃあ何で自殺なんかしたの!?呪い!?お父さんはその高島って人と何の関係もない!」
美琴が急に立ち上がった。
「美琴、急に驚かせないでよ。」
混濁した記憶の中。意識が暗闇へと落ちて行く。その最中に声が聞こえた気がした。美琴はその事をぼんやりと思い出した。
『思い出さない方が良い。悪い事は言わないから。』




