26話
松下が撮影した【高島秘録】の写真には、岩崎には読めない数多くの文字が記されていた。
「何が書かれているんですか?」
「呪いについてです。」
「はい?」
「土地や家に悪霊を憑かせる儀式の事や、呪詛返しの方法、人を欺く術などが載っているそうです。私も何が記載されているか分からなかったので、館のスタッフの方に説明してもらいました。」
「松下さん。」
「はい。」
「本気ですか?」
「岩崎さん。」
「呪いですって?」
岩崎が鼻で笑った。
「何かの縁かと思って取材をお願いしたのに。残念です。呪いだなんて、本気で言ってるんですか!?」
「聞いて下さい、岩崎さん。」
「もう今日はお帰り下さい。」
「これまで何の情報も無かったんでしょ!?」
岩崎が黙り込む。
「最後まで聞いて下さいよ。お願いします。」
「⋯分かりました。」
「ありがとうございます。」
松下は安堵して、話を戻した。
「とはいえ、この書物に書かれているのは冗談みたいなものだそうです。昔の人が作ったホラー小説。そんな物だと。」
「これは何時書かれた物なんですか?」
「江戸時代初期だそうです。」
「⋯それで?」
「冗談だと思いますか?ここに描かれているものが。」
【高島秘録】には文字だけではなく、謎の模様や絵も描かれている。
「私はそうは思いません。ここに描かれている事は全て真実では?」
岩崎は松下が持参した紙を見つめた。
「呪いが実在するとしたら?そしてその呪いを操る者達がかつて存在し、恐れられていたとしたら?」
岩崎が視線を松下に戻す。松下の表情は真剣そのものであった。
「いい加減にして下さい。」
「私が調べた固定資産課税台帳。ある場所の土地を調べました。その土地のかつての所有者名は高島五郎。」
「松下さん⋯。」
「高島家の土地に建っていたんです。」
「松下さん!」
「光星小学校は。」
岩崎は立ち上がり、松下から少し離れた。頭を抑え、その場をふらふらと歩く。
「すいません。」
「いえ、良いんです。」
「ほんの数日でここまで調べたんです。どうです?新情報でしょう。」
「じゃあ何ですか?呪いが関係していると言うんですかあなたは?本気で!?」
松下は押し黙るが、すぐに答えた。
「28人もの児童が瞬時にして、誰にも見られる事もなく消えた。そして児童達が最後に会っていたのは高島俊輔ときてる。今の話を付け加えればどうです?」
「どうだと言うんです。」
「高島俊輔が呪いを用いて、児童達を拐ったんです。もしくは⋯。」
「いい加減にして!」
岩崎が叫び声を上げた。
「その後の言葉を言うのは⋯やめて⋯!」
「失礼しました。」
岩崎の一言で、松下はトーンダウンせざるを得なかった。
「私だってこんな話したくありません。警察にだって勿論言えない。いや、相手にすらしてくれないでしょう。でもこの10年間で、最もそれらしい理由付けが出来てるとは思いませんか?」
「⋯あの会合で、今の話が出来ますか?」
「出来ます。」
「それこそ冗談でしょう。今の話をしたら、あなた殺されるわ。」
「それでも構いません。話題になる。また失踪事件が日の目を浴びますよ。」
「⋯呪い。呪い?ふっ⋯ハッハッハッ⋯。」
岩崎の乾いた笑い声が響く。
「あなたの話が真実だとして。」
「はい。」
「子供達は一体何処へ行ったの?」
「分かりません。だから聞く必要があります。」
「高島俊輔に?」
「そうです。」
「話してくれるかしらね。」
「どうやら彼、警察には話さなかったようですね。」
「そうみたいね。」
岩崎は再び松下の前に戻った。
「正直言えば、私だって今の話を信じたいです。だって⋯あり得ないでしょ?失踪の仕方が。世間じゃ神隠しだなんて言ってたけど。本当にそう。神隠しですよ。何度考えても、そうとしか考えられない。それでも私は⋯私達は⋯誰かのせいにしたかったんです。人のせいに。それなら⋯解決出来るかもしれないから。」
「まだ解決出来るかも。」
「松下さん、聞いていいですか?」
「どうぞ。」
「何故彼を⋯。高島俊輔を疑ったんですか?本当にジャーナリストの勘だけで?」
「取材した時。彼、ずっと楽しそうに話すんですよ。それが大きな理由です。」




