表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/55

24話

「安田さん、聞こえてますか?」


警察官の呼び掛けに、美怜はようやく気付いた。


「お父様のご遺体はこれから検視になります。」


「検視?」


「ご自宅の方は、現場検証という形に⋯」


「待って下さい。すみません、あなたが何を言っているのか分かりません。」


美怜は無表情で警察官の事を覗き込んだ。


「ですから現場検証を⋯。」


「はい?よく分からないので、父に話して貰ってもいいですか?」


警察官は参ったという表情を浮かべた。美琴は美怜の腕に触れた。


「お姉ちゃん。」


美琴の声に我に返ったのか、美怜はその場で泣き崩れ始めた。美琴も静かに涙を流していた。


これまで長い間、美琴は暗闇の中にいたよう感覚だった。何をしていても、自分がそこにいないような、そんな感覚。


舞子と信之はそんな美琴を献身的に支えた。両親がいなければ、美琴はここまで生きてこれなかった。


日常生活だけではない。学校の事、勉強の事、将来の事⋯何から何まで美琴に対してフォローをしてきた。


『大丈夫、美琴は何も悪くないから。』


ただただ優しい言葉を掛け続けてくれた。そんな2人は、両親は、もういない。


美琴はその事実に絶望した。


「ふっ。」


美琴は救急車の中から、道路の先、野次馬の方に目を向けた。急いでそこから飛び出し、道路に立った。


今、誰かが笑った。美琴には間違い無く、誰かの笑い声が聞こえた。


誰だ。誰が笑った?


美琴は目を見開き、遠くを見た。


「⋯美琴?」


泣きながらも美怜が美琴の事を心配する。美琴はその場から動かず、目線を遠くにやったままだった。何故気配を感じたのか、美琴にも分からなかった。




その日の正午、紺野真尋は自身の診察室にいた。午前中の診療が終わり、紺野は一息ついていた所だった。この日は午後の診療は無く、病院自体が休診となる日だった。


ノック音の後に、若い心理士のスタッフが診察室に入って来た。


「先生お疲れ様です。代筆をお願いされていた診断書の確認をお願い致します。」


「はい、ありがとう。」


手渡された診断書に紺野が目を通す。その様子を心理士スタッフは見守っていた。紺野はチラっと彼女方を見ると、


「Awaken。」


と声を掛けた。すると、彼女はゆっくりと紺野の前まで歩み寄った。


「来て。」


紺野がそう言うと、彼女は紺野に口付けをした。ゆっくりと唇を離し、紺野は彼女を見つめると、微笑んだ。


「ありがとう、近藤さん。」


紺野は机の下で、指を鳴らした。近藤の顔付きが変わる。


「近藤さん、この診断書で大丈夫です。お願いします。」


「あっ、はい。」


何事も無かったかのように、近藤は診断書を手に取り診察室を出た。紺野は背徳感を感じながらも、まんざらでも無い表情を浮かべた。


スマートフォンが振動する。紺野は着信に応じた。


「はい。」


『連絡が遅くなったけど、確認したよ。』


「そう。」


『多分、死んだよ。泣いてたみたいだからね、彼女達。』


「そう。悪いけど、まだ病院だから切るわよ。」


『はいはい。』


電話を切ると、彼女は天井を見上げ、大きく息を吐いた。




昨夜の公園にまた松下の姿はあった。ベンチの近くで落ち着かずウロウロと歩いていると、山岡がやって来た。


「連絡を貰って驚きました。仕事が早いですね、山岡さん。」


山岡は露骨に嫌な顔をした。


「残りの金を。」


松下は封筒を手渡した。封筒を確認した山岡は、手に持っていたA4サイズの茶封筒を松田に渡した。


「ここで確認するか?」


「大丈夫、山岡さんを信じてます。」


「やれやれ全く。じゃあな。」


そう言うと松下は、また足早に去っていった。


念願の物が予想以上に早く手に入った。松下は近くに停めてあった車に戻り、車内電気を付けた。茶封筒を開き、中身を確認する。何枚もの書類が入っており、松下はその全てを茶封筒から引き出した。


一番上の書類には【高島 俊輔】の文字があった。


松下のジャーナリストとしての勘だった。取材した時、間違いなく何かを彼から感じた。


調べてみる価値はある。松下は書類に目を通し始めた。




美怜と美琴の姿はホテルの一室にあった。信之の検視解剖と自宅の現場検証。悲痛な面持ちとは裏腹に、実に慌ただしい1日だった。


信之の遺体はひとまず警察署内にある霊安室に保管された。検視結果は聞くまでもなく【焼死】であった。警察に色々と説明は受けたが、2人はもう限界だった。


美怜は美琴に背を向け、窓際のベッドで横になっていた。美琴はそんな美怜に中々声を掛ける事が出来ずにいた。


「お姉ちゃん。」


「⋯何?」


「私、何か、食べる物、買ってくる、よ。」


「⋯。」


美琴はカバンから財布を出して、部屋から出て行こうとした。


「どうして?」


美怜の声に、足を止める。


「ご飯なんか⋯食べれる訳ないじゃん⋯!」


美怜が感情を露わにした。


「⋯ごめんなさい。」


美琴の言葉に、美怜は我に返った。ベッドがら起き上がると、すぐに美琴の元へ駆け寄った。


「ごめん、ごめんね美琴。私⋯。」


「大丈夫。」


「何で⋯。」


美怜は入り口側のベッドに座り込んだ。


「何で⋯こんな事に⋯。」


美琴も少し距離を開けてベッドに座った。


「今日、家の近くに、誰か、いた。」


「⋯どういう事?」


「私も、分からない。でも、お父さんは、自殺じゃ、ない。」


「自殺だよ。見てたでしょ?」


「あんな事、お父さんが、する訳、ない。」


「⋯分かった。私がコンビニで何か買ってくるよ。」


「えっ。」


「気分展開したいし。ちょっと、頭冷やしてくる。何がいい?お姉ちゃんのお任せでいい?」


「いいけど、お姉ちゃん、大丈夫?」


「大丈夫大丈夫。任せて。」


そう言うと美怜は部屋を出て行ってしまった。美琴は自分の発言を後悔したが、もう遅かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ