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23話

「「「「「「「「おとうさん。」」」」」」」」


「「「「「「「「おかあさん。」」」」」」」」


「「「「「「「「ぱぱあああ。」」」」」」」」


「「「「「「「「ままあああ。」」」」」」」」


「「「「「「「「どごおおおお。」」」」」」」」




美琴はベットから飛び起きた。いつの間にか眠ってしまっていたようで、気が付けば朝だった。


頭の中に響いた、正体不明の声。美琴は全身汗だくになっていた。


「美琴?」


ノックの音が響き、美怜が部屋に入って来た。


「大丈夫?声が聞こえた気がしたんだけど。」


「⋯大丈夫。」


「本当に?汗だくじゃない。」


「何か、聞こえた。」


「また声が?」


「今までとは違う、何か。」


「どんな声だったの?」


「上手く、説明、出来ない。」


「そう。」


「⋯。」


「取り敢えず、朝ご飯食べようよ。お父さんも、もう起きてるよ。」


美琴は頷き、美怜と共に下の階へと降りた。




「おはよう、美琴。」


信之はキッチンで朝食のホットケーキを作っていた。信之が台所に立つ姿を、姉妹は久し振りに見た。


「大丈夫なのお父さん?」


美怜が笑いながら尋ねる。


「大丈夫だ。レシピ通りにすればいいんだろ?任せとけ。」


美怜と美琴は信之のその姿に喜びを感じた。



テーブルに座り、3人は朝食を摂り始めた。少し焦げたホットケーキに、場は和んだ。


「美味しいよ、焦げてるけど。」


美怜は口いっぱいにホットケーキを頬張る。


「この焦げは愛だ、愛。」


「何言ってんの?」


美琴も落ち着きながら、ホットケーキを口に運ぶ。頭に響いた声の事を信之に相談しようとしていた美琴であったが、この場では止そうと決めた。


そうだ、慌ててはいけない。せっかく良くなってきたのかも知れないのに。


「そうだ、美琴。」


信之がアイスコーヒーを口に流し込む。


「事件の事、思い出さなくてもいいんじゃないか?」


その言葉に美琴は思わず信之を見た。美怜も食べる手が止まる。


「どう、して?」


「美琴にとって良くない記憶なら、忘れていた方がいいんじゃないかと思ってな。」


美琴は唾を飲み込む。


「お父さん、美琴は思い出したいんだよ。ちゃんと事件と向き合いたいの。」


「だから、向き合わなくていいんじゃないかって、お父さんは言ってるんだ。 」


信之の声色が少し変わった。


「お母さんも言ってた。『思い出さなくていいのに』ってな。」


美怜は疑問の表情を浮かべた。


「お父さん、それ本当?」


「本当だよ。お母さんは⋯。」


信之は一瞬フリーズしたように静止した。


「お母さんは⋯お母さんは⋯お母さんは⋯お母さんは⋯お母さんは⋯。」


「お父さん?」


「ちょっと、お父さん止めてよ。」


「お母さんは⋯美琴に⋯記憶を⋯。」


信之は片言になりながら、美琴の方を見ると、握っていたフォークを落とした。お皿にフォークが当たり、大きな金属音が鳴る。


美怜と美琴は信之の異常に気付いた。


「お父さん、ねえ、大丈夫?」


信之はおもむろに立ち上がると、キッチンの方に戻った。美怜と美琴が顔を見合わせる。


信之は何かを頭に掛け始めた。食用油の入ったボトルだった。


「ちょっとお父さん!何してんの!」


美怜はその場で立ち上がった。美琴は体を動かす事が出来ず、両手で口を押さえた。


「来るな!」


信之が叫ぶ。美怜は固まった。


「お父さん、お願い、話を聞いて。」


信之はコンロの火を付けた。


「お父さん、お願い、やめて、お願い。」


美怜は涙声になりながら、懇願した。信之は美琴の方を見ると呟いた。


「美琴、全部、お前のせいだ。」


次の瞬間、信之は火の上がるコンロに頭を打ち付けた。音が鳴ると、共に信之の頭が燃え上がり、またたく間体が炎に包まれた。


「いやああああああああああああああああっっ。」


美怜の絶叫が響き渡る。美琴も立ち上がり、その場から後退りした。


「あっ、あっ、あっ。」


炎の音と共に、信之の声が聞こえる。その場でバタバタと動いたかと思うと、その場に倒れ込んだ。


「あ⋯あ⋯あああああああああああああああっ。」


美琴が叫んだ。火だるまになる、父親を見つめながら。




紺野真尋はリビングの窓から、いつものように外を眺めていた。モーニングルーティンのフルーツスムージーをゴクゴクと飲み干し、壁掛け時計に目をやった。


「トラウマを隠すには、トラウマを。」




安田家の周りは騒然としていた。複数台の消防車、救急車、パトカーが道に並び、付近の住人が集まっていた。岩崎も自宅の窓から、何事かと見守っていた。


美怜と美琴は消防車内で保護されていた。2人は唖然としていて、誰に、何を話し掛けられても、理解する事が出来なかった。


泣き続けている美怜。黙り込む美琴。母を失い、今度は父を失った。2人の精神は、もはや疲弊し切っていた。


「どうしよう⋯美琴⋯どうしよう⋯。」


「⋯お姉ちゃん⋯。」




野次馬の集団から、さらに離れた所に彼はいた。


「凄いな。本当に時間通りだ。早起きした甲斐があったね。」

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