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21話

カフェから少し離れた所で2人は立ち止まった。


「今日は取材にご協力していただき、ありがとうございました。」


松下は高島に軽く会釈した。


「とんでもありません。飲み物、ご馳走様でした。僕で良ければ、いつでもお話しますよ。恐らく新しい情報はお話し出来ないとは思いますが。」


「いえ、自分の目や耳で確認しないと気が済まないタチなんです。助かりました。」


「それは良かった。それではこれで失礼致します。岩崎さんにもよろしくお伝え下さい。」


そう言うと高島は歩いて行った。松下は高島の後ろ姿を見送ると、すぐにスマートフォンを取り出し、岩崎葉子に電話した。


「もしもし。」


「岩崎さん。松下です。今、高島俊輔さんに取材してきました。」


「そうですか。」


「彼が一番変わってるように感じましたよ?」


「私はそう感じた事はありません。確かにまだ若いですが、しっかりと責任を感じて、聞いた事には真摯に答えてくれる方です。」


岩崎と意見が食い違い、松下は何処か違和感を覚えた。


「松下さんはこれからどうするおつもりですか?もう記事を執筆なさるんですか?」


「いえ、まだ。気になる事が何点かありますので。」


岩崎は松下との通話が終わると、その場から動かなかった。そしてふと外を見た。


きっと、松下の取材も無駄で終わる。心の中でそう思い始めていた。






美琴は信之と電車に乗りながら帰路についていた。美琴は少し、大人しくなったような印象を信之は受けていた。


「美琴、とりあえず慌てるのはよそう。健康第一だ。そうだろ?」


「⋯うん。」


「昔の事を思い出したい気持ちは分かる。でも先生は慎重になった方がいいと言ってた。美琴も言われたんだろ?」


「言われ、た。」


「ゆっくり、ゆっくり行こう。な?」


駅に着き、2人はホームに降り立った。改札に繋がるエスカレーターへと向かうその時、美琴は何かを感じた気がした。足が止まり、後ろを振り返る。


今すれ違った人を、私は知っている。


美琴はそんな気がした。


「美琴、行くぞ。」


信之が呼び掛ける。美琴が一瞬目を離した隙に、その人物はもう人混みに紛れ、分からなくなっていた。美琴は人混みを見つめたが、何かを諦めたように信之とまたエスカレーターに向かって歩き出した。




自宅で1人何もせず、無気力で座り込む美怜は、舞子の遺影を少し離れた位置から見つめていた。


そんな数日で吹っ切れるわけがない。


美琴の事、自分の事。様々な考えが浮かんでは消える。それでも美琴は前を向き始めた。それは確かだった。


家のインターホンが鳴る。モニターを見ると、そこには岩崎葉子が立っていた。


「はい。」


『こんにちは。岩崎です。』


玄関先に出ると、岩崎は美怜に対して軽く会釈した。


「こんにちは、岩崎さん。」


「こんにちは。」


「どうかされました?」


「美琴さんはいらっしゃいますか?」


美怜は少しだけ顔に感情を出した。


「いません。」


「いない?今日もお出掛けですか?珍しいですね。」


「妹に何か用ですか?」


「お話を聞きたくて。」


「何のお話ですか?」


「決まってるじゃないですか。何か、思い出されたかと思いまして。」


「そういうお話でしたらお帰り下さい。」


「そんな邪険にしないで下さい。」


「何かあれば警察に連絡します。」


「警察に何の意味があるんですか?」


「どういう事ですか?」


「美怜さん⋯いや、美怜ちゃん。もう10年よ。10年経ったの。まだ何も思い出さないの?美琴ちゃんは。」


「⋯そんな事言わないで下さい。」


「私⋯。」


見るからに岩崎が取り乱し始めた。


「もうどうにかなりそうなの。限界なの。だから美琴ちゃんに、思い出して貰わないといけないの。」


「妹だって苦しんでるんです。」


「私以上に!?」


岩崎の声が辺りに響いた。美怜は思わぬ大声に体をビクッと震わせた。


「精神障害が何だと言うの?あなた達は会えるじゃない。一緒にいられるじゃない。私は、私達は何も出来ないの。子供の事で悩む事すら出来ないの!」


「お気持ちはお察します。だからってどうしろと言うんですか?」


「思い出して。思い出さなきゃいけないの。皆のために。」


「⋯お帰り下さい。」


「嫌です。」


「警察を呼びますよ。」


「どうぞ。」


美怜は哀れな目で岩崎の事を睨み付けた。


「母が亡くなったんです。通夜に来ていただいたので分かりますよね?家族全員、参ってるんです。」


岩崎が泣きそうな顔になった。


「⋯ごめんなさい私⋯。失礼しました⋯。」


岩崎は我に返ったように、自宅へと引き返して行った。その姿を美怜は同情の目で見届ける事しか出来なかった。




自宅に戻った岩崎は、玄関に座り込んでしまった。止め処なく涙が流れる。


もう何も期待出来ない。


「亮太。」


岩崎は空に向かって呟いた。

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