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20話

お洒落なカフェの片隅に、松下の姿はあった。約束の時間より大分早く着いてしまった松下は、既に一杯のホットコーヒーを飲み干していた。


間もなくやってくる取材対象者は、岩崎葉子が紹介してくれた“マシ”な人物だと言う。


とはいえ松下は、それほど期待はしていなかった。これまで取材した2人が、あまりにも松下からしてみればいい加減だったからである。




「松下和之さんですか?」


気が付けば、松下の目の前に男性が立っていた。見た目は少し長めの黒髪で、細身体形。若く見える。


「そうです。あなたは⋯。」


「始めまして。高島俊輔と申します。」


高島は微笑みながら、軽く会釈した。


「お待ちしてました、どうぞ。」


高島は松下の前に座った。


「すみません、喉が渇いていて。何か注文しても良いですか?」


「勿論です。どうぞ。」


「ええっと、どうしようかな⋯。」


高島がメニュー表を眺めながら、呼び出しベルを押した。すぐに男性従業員がやって来る。


「すいません、メロンソーダを1つ。松下さんは?」


「では、ホットコーヒーのお代わりを。」


「かしこまりました。」


従業員がキッチンの方に下がっていく。


「お待たせしてすみません。」


「いえいえ、私が早く来ただけです。気にしないで下さい。」


「まさか自分に取材依頼が来るとは思ってもみませんでした。事件からもう10年ですから。」


「10年経ったからこそ、今こうして取材させて頂いてます。」


「なるほど。事件を風化させない様に、ですか?」


「そんな所です。未だに我が子の帰りを待つ親御さんが大勢います。何とか力になりたいんです。」


「それはジャーナリストとしてですか?」


「そうです。」


「それは素晴らしい。お手伝いしますよ。何でも聞いて下さい。」


「ここからの会話、録音してもよろしいでしょうか?」


「勿論です。」


「では⋯。改めてお名前をお伺いしてもよろしいですか?」


「高島俊輔と申します。失踪事件当時、4年2組の担任をしておりました。」


「高島さん、随分とお若く見えますね。失礼ですか、今お幾つですか?」


「今年で35歳になりました。当時は25歳ですね。」


「失踪した4年2組の担任というだけで、これまで随分と風当たりが強かったのではありませんか?」


「事件発生直後は確かにそうです。管理不足だとか無責任だとか。有る事無い事、言われたりもしましたね。」


「大変ではありませんでしたか?」


「全く。担任である僕の責任。それはその通りですし、学校側は僕の事を守ってもくれました。」


「そうですか。では、事件当日の話を、お伺いしてもよろしいですか?」


従業員が飲み物を運んで来た。高島は従業員に会釈すると、グラスに刺さったストローでメロンソーダを飲み始めた。


「すみません、大丈夫です、どうぞ。」


「事件発生当時の事を教えて下さい。」


「5時間目の授業は国語でした。で、授業が終わって、職員室に戻ろうと思って歩き出した時です。教室に忘れ物をした事に気付いて、取りに戻ったんです。」


「何を忘れたんですか?」


「国語の授業で使う、僕専用のノートみたいな物です。生徒に見られると恥ずかしい事も書いてあるので、すぐに教室に引き返しました。」


「それから?」


「教室に戻ると、生徒は1人もいませんでした。」


「高島さんが教室を離れてから、何分くらいですか?」


「多分、2~3分くらいじゃないでしょうか。職員室に着くギリギリで気が付きましたので。」


「2~3分⋯その間に児童達が消えたと?」


「そうです。消えました。」


「それからは?」


「さすがの僕も驚いて、すぐに探し回りました。それも小走りで。でも、生徒達は何処にもいませんでした。」


「その後、高島さんは⋯。」


「急いで職員室に戻って、生徒達かいないことを報告しました。」


「何か他に変わった事はありませんでしたか?」


「特には⋯無いです。当時警察の方にもお話しましたが、本当にパッと消えてしまったんですよ。」


「高島さんは子供達の最後の目撃者という事になりますね。」


「そうなります。」


「では、子供達に何か変わった様子はありませんでしたか?」


「ありません。真面目に、真剣に僕の話を聞いてくれていました。」


「では彼女はどうでしたか?安田美琴さん。」


「安田美琴さんですか。唯一見つかった生徒さんですね?」


「そうです。彼女はどうでしたか?」


「別に何も。変わった様子はありませんでした。」


「⋯。」


「すみません。何度思い出しても、変わった事は無かったと思います。」


「では高島さんも“神隠し”だとお思いですか?」


「いいえ。そうは思いません。」


「何故ですか?」


「何故?だってそんな事ってありますか?神隠しだなんて。」


「では高島さんは、この失踪事件についてどう思いますか?原因は何だと?」


「原因ですか。」


高島は腕を組んで、考え始めた。


「隠したとしても、隠したのは“神”なんでしょうか。」


「すいませんが、どういう意味です?」


「だってそうでしょう?もし神様が隠したのなら、なんか帰って来そうじゃないですか。でも、隠したのが“神”じゃなくて“悪魔”とか“魔女”だったらどうです?帰って来なさそうじゃないですか。」


「それは新説ですね。このお話は、当時警察の方にされましたか?」


「まさか。こんな話しませんよ。」


高島はメロンソーダに口を付ける。


「では高島さんは“悪魔”や“魔女”が児童達を拐ったと言いたいんですか?」


「そう思えば納得出来ませんか?どうです?」


「高島さん、失礼ですが、今どのようなお仕事を?」


「それは失踪事件とは関係ないじゃないですか。」

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