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15話

舞子の骨壺と共に、安田家の3人は帰宅した。和室の一角に作られた即席の仏壇に、遺影と骨壺を信之は置いた。そして線香に火を付け、拝んだ。


美怜と美琴は、そのままぐったりとしたままソファに座り込んだ。


「疲れたか?2人とも。」


「⋯さすがに。」


「⋯。」


「気疲れもあるよな。うん、仕方ない。仕方ないよ。」


信之もリビングのフローリングに座り込んだ。


「これからは3人で頑張ろう。3人で。お母さんのためにも。」


「うん。」


「美怜は仕事は大丈夫か?」


「1週間休み。場合によってはそれ以上休めるよ。こんな時だし。」


「そうか。美琴もくれぐれも無理するなよ?これからは何かあったらお父さんに言うんだぞ。」


美琴はそれを聞いて、力強く頷いた。




安田舞子の告別式が終わった翌日。


フリージャーナリストの松下和之は黒い車を走らせ、約束の場所へと向かっていた。


どれだけ断られても、安田美琴について何としても探りを入れたかった所、彼女の母親である安田舞子が亡くなったという知らせが入った。


さすがにこのタイミングで安田美琴の取材は出来ない。彼は他の取材対象を既に見つけていたため、そちらから接触を試みる事にしたのであった。


松下は光星小学校児童集団失踪事件について、本気で調べる事にした。先日の岩崎葉子に紹介され訪れた会合が、松下に大きな影響を与えていた。


待ち合わせの場所は都内某所の喫茶店だった。松下が入ると、若い女性の従業員がすぐにやって来た。


「いらっしゃいませ。お客様は1名様でしょうか。」


「いや、待ち合わせをしています。谷口という方なんですが、来ていますか?」


「こちらでごさいます。」


案内された奥のテーブル席に、白髪の男性が座っていた。


「こんにちは。始めまして、お電話した松下和之と申します。」


「ああ、あなたが。始めましてこんにちは。谷口久ひさしと申します。」


男性は立ち上がり、丁寧にお辞儀をした。松下は向かいのテーブル席にすぐ腰掛けた。


「お待たせしてしまったでしょうか。何か飲み物を頼みましょう。何にされますか?」


「ではホットコーヒーを。」


「分かりました。」


松下はホットコーヒーを2つ、注文した。


「改めて、本日は取材を受けて下さりありがとうございます。正直言って、断られると思っていたので驚きました。」


「いえいえ。まあその、大きい声では言えませんが、岩崎さんからの紹介ですので。断るに、断れませんよ。これは内密にお願い致します。」


「分かりました。早速ですが、お話しを録音してもよろしいですか?」


松下は小さな録音機を取り出して、テーブルに置いた。


「構いませんよ。」


「ありがとうございます。では。」


松下は録音機のスイッチを入れた。


「谷口さんは、光星小学校児童集団失踪事件とは、一体どんな関係がお有りですか?」


「当時、光星小学校の校長を務めておりました。」


「校長先生ですか。校長先生にお話しを聞くのは初めてです。」


「元・校長ですから。」


「今は何を?」


「何もしておりません。定年しましたので、妻と余生を楽しんでおります。」


「そうですか。」


2つのホットコーヒーが運ばれてきた。


「どうぞ、自由に飲んで下さいね。」


「ありがとうございます。では⋯。」


谷口は一口、ホットコーヒーを口にした。


「失踪事件があった時の事を聞かせて下さい。出来れば詳しくお願いします。」


「分かりました。この事を話すのは10年前、警察の方に話した以来です。」


谷口はもう一口、ホットコーヒーを口にすると語り始めた。


「私はその時、職員室におりました。他の先生の方と雑談をしておりまして。その時です。4年2組の担任をしておられた先生が職員室に入ってきまして、『クラスの児童が1人もいない』と慌てた様子で話したんです。」


「皆さん、信じたんですか?」


「信じるというか、最初は特に不思議に思いませんでした。例えば授業教室を間違えてしまったとか。」


「教室を移動する授業がありますもんね。」


「ええ、そうです。児童達がクラスを間違えたと思ったんです。でも『既に探したが、何処にもいない』と言うんです。さすがにそれならという事で、職員室にいた手の空いている何人かの先生方が探しに行かれました。」


「なるほど。」


「それから数分後ですかね。探しに行かれた先生方も戻って来て、『本当にいない』と言うんです。6時間目の授業は始まっていましたが、さすがにこれはという事で職員室にいたほとんどの先生方が探しに行かれました。あと、臨時放送も校内に流しました。『4年2組の生徒は〜』みたいな放送です。」


「それで、結果見つからなかったと。」


「そうです。見つかりませんでした。これは大変だという事で、警察の方に連絡しました。」


「その後はどうですか?」


「世間の皆さんも知ってる通りです。未だ10年間、4年2組の生徒達は行方不明のままです。1人は見つかりましたがね。」


「それだけですか?」


「それだけも何も、本当に何もないんです。児童達は本当に“消えて”しまったんです。誰もにも見られず、音を立てる事もなく。我々にはどうしようも無かった。どうしようもないですよ、あんな事が起きてしまっては。」


「校内の監視カメラは止まっていたんですよね?」


「そうです。」


「どれくらいの時間、止まっていたんですか?」


「どうでしたかね。5時間目の授業が始まってから、6時間目の授業が始まるくらいまでの時間でしたかね。1時間くらいでしょうか。」


「誰も録画が止まっている事に気がつかなかったんですか?」


「監視カメラは非常時の際に確認するための物で、職員室内に映像を確認する画面など無いんですよ。生徒のプライバシーもありますしね。後から確認して、初めて録画がされていなかったことが分かったんです。」


「そうなんですね。」


「警察の方に全てお話ししましたが、もうそれは困りましたよ。何を聞かれても、突然消えたとしか言いようがなかったですから。」


「その後、谷口さんはどうされたんですか?」


「メディア対応、保護者説明会、色々しましたが、結局責任を取って辞職しました。あと1年で定年だったんですが、仕方のない事です。」


「責任の取り方に不満がお有りですか?」


「正直言えば、あります。このような奇々怪々な出来事で辞職するとは思っていませんでしたから。とはいえ児童達が行方不明になったのは紛れもない事実です。責任を取るのが、当時の私の仕事です。」


「⋯谷口さんはこの失踪事件をどう思いますか?」


「神隠しですよ。神隠し。それしかないです。誰も信じようとはしませんがね。それ以外ありますか?今の警察が全力で捜索しても見つからないんですよ?神隠ししかないでしょう、原因は。」


「本気で言ってますか?」


「ええ、本気です。」


「今でも子供を待つ親御さんの前でも同じ事が言えますか?」


「言えます。」


「えっ。」


「神隠しです。恐ろしい、神隠しですよ。」

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