14話
都内にある某式場で舞子の通夜が営まれた。弔問には多くの人々が訪れ、焼香をあげた。
信之、美怜、美琴は3人で並んで座り、焼香をあげる方々に対して、繰り返し頭を下げ続けた。美琴も、これまでの美琴とは思えない程しっかりとした対応をしていた。
美怜がふと目線を上げると、そこには岩崎葉子の姿があった。岩崎は焼香台に進み、遺影に目をやると、次に深々と3人に対して頭を下げた。岩崎は頭を上げると美琴と目が合ったが、すぐに目を逸らし、焼香をあげた。美琴はじっと岩崎の事を見つめていた。
「お母さんって凄いね、美琴。」
美怜が小声で呟いた。
「こんなに沢山の人達が、お母さんのために集まってくれたんだよ?お母さんは凄いよ。」
美琴はゆっくりと頷いた。そして再び焼香をあげる列に目を移した時だった。美琴は激しい頭痛に襲われた。
「うっ⋯。」
美琴はその場にしゃがみ込んでしまった。
「美琴、大丈夫?」
「美怜、美琴を少し外で休ませてやれ。ここは大丈夫だから。」
「分かった。美琴、立てる?」
美琴は頷き、美怜に支えながらその場を離れた。
遺族控室に戻った2人はその場に座り込んだ。
「美琴、大丈夫?今水持ってくるよ。」
美怜がその場を離れた。美琴は頭を抑えながら、何かを感じたようだった。何かの違和感。しかし、原因は何も分からなかった。
「はい、これ。飲みな。落ち着くよ。」
美怜がペットボトルに入ったミネラルウォーターを持ってきた。美琴は頷くと、ゆっくりと飲み始めた。
「無理もないよ。私だって参っちゃいそうなんだから。大丈夫?辛くない?」
「大丈夫⋯だよ。」
美琴が返事をする。
「私戻るけど、美琴はどうする?」
「⋯いく。」
「本当に大丈夫なの?」
「大丈夫。」
「そっか。じゃあ行こう。」
喪主である信之の挨拶が始まろうとしていた。信之の隣に美怜と美琴も立った。
「本日はお忙しい所、妻・安田舞子の通夜にご参列いただき、誠にありがとうございます。まさかこのようなご挨拶をする事になるとは思ってもみませんでした。言葉足らずであれば、申し訳ありません。妻はとにかく明るく、ハキハキとした、しっかり者でした。私も娘達も、妻がいなければこれまでの日々を明るく過ごせてこなかったと思います。」
美怜は涙ぐみながら、舞子の遺影に目をやった。優しそうな笑顔がそこにはあった。
「私には勿体ない程、素晴らしい人・素晴らしい妻でした。これからは、娘達2人と手を取り合い、妻に誇れるような毎日を過ごしたいと思っております。皆様も、もし舞子との思い出がありましたら、今日は少しだけでも思い出していただけると、家族として嬉しく思います。本日は本当にありがとうございました。」
3人は揃って深々と頭を下げた。
通夜が終わり、訪れた人々が帰っていく。
「安田さん。」
信之に声を掛けたのは、岩崎葉子だった。美怜と美琴も彼女の事を見る。
「この度はご愁傷様でございます。」
「岩崎さん。お忙しい所ありがとうございました。生前、妻がお世話になりました。」
「とんでもありません。こちらこそ奥様には大変お世話になりました。」
「突然の事で参っていますが、何とか娘達とやっていこうと思っています。」
「そうですか。ご近所ですので、何かあれば仰って下さい。美琴さんの事もあるでしょうし。」
「それは⋯。」
「それは大丈夫です。」
美怜が会話に割って入った。
「美琴は大丈夫ですから。お気遣いありがとうございます。」
「そう。美怜ちゃん、本当に大きくなりましたね、ご主人。」
「ええ。もう25歳ですから。すいません。」
「それでは本日はこれで失礼致します。」
岩崎はまた美琴に目線をやると、頭を下げ、歩いていった。
「お前達も疲れたろ。控室で夕飯を頂こう。」
「でも⋯。」
「ん?」
「お母さんから、離れたくない、私。」
美怜はまた涙を目に浮かべ始めた。
「美怜、お母さんのためにもをご飯を食べよう。じゃないとお母さん怒るぞ、きっと。ちゃんと飯食えって。」
「⋯分かった。」
美怜は涙を拭い、頷いた。2人が歩き出すと、美琴もその後に続いた。
美琴はふと振り返り、美怜と同じ様に舞子の遺影を見た。そしてそのまま目線を下げ、舞子が眠る棺桶を見つめた。
『美琴は何も悪くないから。気にしなくていいんだからね?』
母の言葉を思い出し、美琴は涙を流した。そして声を漏らしながら泣き始めた。その泣き声に、信之と美怜は驚いた。
2人は美琴の元に歩み寄った。信之は美怜と美琴の肩を抱き寄せながら涙を流し始めた。美怜も、声を出して泣き始めた。
翌日、舞子は荼毘に付された。




