13話
信之は必死に走りながら病院を目指した。
美怜から泣きながら連絡があった。最初連絡を受けた時は、美怜が何を言っているのか理解が出来なかった。
舞子が、事故に合った。
とにかく信之は妻の無事を信じて、病院に向かうしかなかった。
信之が病室に案内されると、そこには泣きじゃくる美怜が病室に置かれたベッドの横に立ち竦んでいた。
「お父さんっ⋯⋯⋯⋯!」
舞子はベッドで眠っていた。何の医療器具も付けずに。
「ご主人ですか?」
白衣の男性が信之に話し掛ける。
「落ち着いて聞いて下さい。奥様は⋯。」
信之は何を言われているのか、訳が分からなかった。この人は何を言ってるんだ?舞子が死んだ?嘘だ。あり得ない。
白衣の人間達が皆、頭を下げる。美怜が泣き叫んでいる。
舞子が亡くなった。死因は大動脈解離。交通事故は、舞子が大動脈解離で苦しんでいる時に起きたものだった。
「美琴。」
家に1人戻った美怜は、リビングにいた美琴に声を掛けた。美琴は心配したような表情を浮かべていた。帰りが遅い母、何故か戻って来た姉。困惑して当然だった。
「よく聞いて、美琴。」
美怜は冷静でいようとしたが、すぐに限界が来た。
「お母さん、死んじゃった⋯。」
美怜は泣きながらその場に崩れ落ちた。
「え⋯。」
「お母さん⋯死んじゃったの⋯死んじゃった⋯!」
「⋯え⋯え⋯。」
美琴もその場にしゃがみ込み、美怜の肩を触れた。
「病気で⋯いきなり⋯死んじゃった⋯。お父さんと⋯病院にいる⋯。」
「⋯う⋯⋯そ⋯⋯。」
「どうしよう⋯どうしよう美琴⋯。」
「⋯う⋯あ⋯あ⋯う⋯。」
美琴も静かに涙を流し始めた。
ベッドで眠る舞子の横に座る信之は、無表情で眠る舞子の顔をじっと見つめていた。まるで眠っているかのような穏やかな顔。しかし、大動脈解離は激しい痛みを伴うと信之は聞いた事があった。
苦しかっただろう、怖かっただろう。その時、舞子は何を思ったのか。信之は想像するだけで胸が痛くなった。
信之は医師から、舞子の亡骸を自宅に運ぶ話をされた。だが、聞いてはいるが、理解はしていなかった。
これからどうすればいいんだ、舞子。
信之は途方に暮れた。
舞子の亡骸はその日の夜、自宅に運ばれた。美怜と美琴は自宅で待機しており、舞子は信之と共に無言の帰宅を果たした。
その様子を岩崎は自宅の2階から見つめていた。安田家に棺桶が運ばれていく。誰かが亡くなったのは明らかだった。
「嘘⋯何で⋯。」
思わず岩崎は呟いた。
和室に寝かされた舞子の亡骸を、3人は囲っていた。
「お母さん⋯お母さん⋯!」
美怜はずっと泣き続けている。美琴は信じられないといった様子で、ずっと母の亡骸を見つめている。
「舞子⋯。」
信之は気丈に振る舞っていた。
「葬儀の手続きがあるんだ。お父さんが全部やるから。お前達は気にしなくていい。」
「お父さん⋯ごめんなさい⋯私、お母さんと一緒にいたのに⋯。」
「謝る事なんかない。先生も言ってたろ。ほぼ即死だっただろうって。誰も、どうする事も出来なかったんだよ。」
「でも⋯。元気だったのに⋯。」
「⋯。」
美琴が涙を流し始めた。
「美琴、心配しなくていいからな。お父さんがいる。お姉ちゃんも。今後の事は一緒に考えよう。今はみんなで、お母さんの側にいてやろうな。」
「⋯おか⋯さ⋯。」
「美琴⋯。」
「おか⋯あ⋯さん⋯。」
「美琴、大丈夫だからな⋯。」
「お母さん⋯。」
今までで1番スムーズに美琴から言葉が出る。美怜と信之が美琴の事を思わず見た。
「お母さん⋯お母さん⋯!」
美琴が舞子の重ねられた手元に、自分の手で触れた。美琴の感情の高ぶりを見て、美怜はより涙を流した。信之もその姿を見て、ついに堪えていた涙を流し始めた。
「お母さん!お母さん!」
美琴が声を震わせた。




