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10話

〇〇市共同会館の2階にある、とある一室。少し広めの教室くらいのスペースに、続々と人が集まってくる。


皆、我が子の帰りを待つ親達だった。


部屋の隅に立つ松下は、そんな親達の姿を見つめていた。誰かと会話する者、席に座る者、様子は様々であった。


「松下さん。」


岩崎葉子が松下の所へやって来た。


「岩崎さん。どうも。」


「皆さんには既に連絡してあります。どのような取材をするおつもりですか?」


「そうですね。お話しを聞くつもりでしたが、それよりも皆さんが会合でどんな事をしているのかを記事にした方がいいかと思っています。」


「そうですか。」


「改めて、取材許可を頂きありがとうございます。」


「いいえ。松下さんが仰ったように、行動しないよりもした方が良い。それは間違いありませんから。」


「微力ながらでも、協力しますよ。」


「松下さん、失礼ですがお子さんはいますか?」


「いえ。40歳、独身です。」


「きっといれば、私達の気持ちも、もっと理解出来るでしょう。すいません。これは本音です。」


「構いません。きっとそうでしょうから。」


皆がイスで大きな円を作り始めた。


「そろそろ時間ですね。松下さん、録画はNGですからね。」


「分かっています。」


そう言うと岩崎も列に加わり、円の真ん中に立った。集まった人々は、40人はいるだろうか。



「皆さん、本日はお集まり頂き、誠にありがとうございます。」


岩崎が語り始めた。


「今日で私達の子供が行方不明になってから10年の月日が経ちました。あっという間の10年間でしたね。」


皆が岩崎の言葉を聞き、彼女を見つめる。


「私達の子供は必ず何処かで生きています。必ずです。この事実に変わりはありません。」


拍手が沸き起こる。


「事前に連絡致しましたが、今日はジャーナリストの方が取材にいらしています。我々の理解者の方です。どうかご協力をお願い致します。」


何人かがチラチラと松下の方を見た。松下は軽く会釈をした。


「辛く、悲しい日々を我々は過ごしています。ですが、私達が挫けてはいけません。子供達が帰って来た時に、私達が笑顔でなければ、きっと子供達は悲しみます。だから心を強く持ちましょう。年月が経ち、苦しみがより強くなろうとも、私達は支え合いここまで生きて来ました。これからも強く在りましょう。私達は決して孤独ではありません!」


先程よりも大きな拍手が巻き起こる。


「では、今日も語り合いましょう。どんな事でも構いません。」


そう言うと岩崎も列に混ざってイスに腰掛けた。すると1人の女性が手を上げた。


「では、溝口さん、どうぞ。」


「皆さんこんにちは、溝口です。今日で⋯娘の帰りを待って10年になりました。未だに⋯信じられません。何故、こんな事になってしまったのか。あの日、娘を学校に行かせなければと⋯あの日から思わない日はありません。」


溝口は涙を流し始めた。


「それでも⋯先程岩崎さんが仰ったように、強く在りたいと思っています。今日はここにおりませんが、主人も私と同じ気持ちです。きっと⋯きっと娘は帰って来ると信じています。もちろん皆さんのお子さんもです。皆さんとより強く団結し、この苦しみを耐え抜きたいと考えております。ありがとうございました。」


涙を啜る声が混ざる中、再び拍手が起こる。


「では次は⋯住田さんどうぞ。」


「私は今日、久し振りにこの会合に来ました。これまでは何故か⋯足を運ぶ気になれなくて。現実から逃げていたんです。息子が帰って来ないという現実から。でも、もう10年です。10年⋯。信じられません⋯。とても一人では耐えられない。妻と2人でも⋯耐えられません。だから今日は勇気を出してここに来ました。すみません⋯まとまりがない話ですが⋯以上です。ありがとうございました。」


「ありがとうございます、住田さん。」


拍手の中、岩崎が言葉を掛ける。


「では⋯吉野さん。」


「吉野です。」


その女性はとてもやつれており、既に目頭が真っ赤だった。思わず松下は彼女を凝視した。


「娘の楓が居なくなって10年が経ちました。あの日から、私は壊れてしまいました。当たり前だった日常が、全てが歪み、砕けてしまいました。ご存知の方もいると思いますが、主人は楓が幼い頃に病死しました。主人から託された⋯たった1人の娘⋯それが楓です。それなのに⋯私は⋯私は楓を守れませんでした⋯。」


吉野はボロボロと涙をこぼし始めた。


「娘のためなら何でも出来ると思っていました。でも、何も出来ません。私は⋯無力です。何も⋯何も⋯出来ないのです⋯楓は帰ってきません。」


「吉野さん、そんな事ありませんよ。」


岩崎が慰めの声を掛ける。


「今日、外を歩いている時です。気のせいか娘の声が聞こえた気がしたんです。その方向をふと見ると、ファミリーレストランがあって、その中で食事をしている親子を見ました。その親子は⋯安田さん一家でした。」


松下は昼過ぎに自分が訪れた安田一家の事だと気付いた。


「お母様は楽しそうに、お子さんと食事をされていました。向かいにおそらく長女さんが、隣には⋯一瞬誰だか分かりませんでしたが⋯美琴さんが居ました。」


声が震えている。


「私は我慢出来ませんでした⋯美味しそうにご飯を食べていて⋯私は⋯私はどうにかなってしまいそうでした⋯!私はファミレスの中に入って⋯美琴さんの所に行って⋯聞いたんです。娘は何処にいるのかって⋯!何か思い出したんじゃないのって⋯!」


周りがざわつき始める。


「皆さん、落ち着いて下さい。」


岩崎が場を制する。


「吉野さん、落ち着いて下さい。」


「すいません⋯。」


「それで⋯何か言いました?美琴さんは。」

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