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第4話 夜の電話

 ◇◆◇◆◇


 家に帰る途中、ポケットで携帯が震えた。

 着くまで見ないでおこう、と決めた。


 石田さんの家からの道のりは、思ったよりずっと短かった。

 それでも、今日起こったことを頭の中で繰り返さずにはいられなかった。

 家族の誰かがこのことを知ったらと思うだけで、鳥肌が立った。

 きっと、しつこくからかわれるに決まっている。


 自転車をガレージに入れ、家の中へ入った。


「ただいま」


「お兄ちゃん」


 陽気な声がすぐに僕を出迎えた。

 12歳の妹が、まるで一日中待っていたかのように走り寄ってきた。


 ご機嫌な時は、彼女は僕をそう呼ぶ。

 機嫌が悪い時は、名前で呼ぶ。

 便利なシステムだ…たまに面倒くさいけど。


「あら、お帰り」

 母が台所から現れた。

「おかえり。学校はどうだった?」


「普通だよ、いつも通り」

 靴を脱いだ。

「そういえば、父さんは?」


「いないわ。出張で」

 母はほんのりため息をついた。

「戻るのは二週間後よ」


 最初からそんな気はしていた。


 僕はそれ以上何も言わず、自分の部屋へ上がった。リュックを机の上に置き、ようやく携帯を確認した。


 石田さんからのメッセージだった。


[今日は色々と、本当にありがとうございました]


 別に驚くような内容じゃないけど、それでも少しほっとした。

 少なくとも、やった甲斐はあったんだ。


 深く考えずに返信した。


[大したことじゃないよ。本当に]


 その後、返事は来なかった。


 夜はいつも通りに過ぎていった:無言の夕食、宿題、日課。

 課題に集中し始めた時、携帯が鳴り出した。


 こんな時間に電話をかけてくる人は、一人しかいない。


「もしもし…どうした?」


 彼女が返事をするまで、数秒かかった。

 彼女のことを考えれば、さっきの言い方は少し冷たすぎたのかもしれない。


「ご、ごめんなさい…もう電話しません。ただ…ただ、どうやって知り合ったか、何て話せばいいか考えたくて」


 彼女の声は、いつもより緊張しているようだった。


「いや、待ってよ」

 僕はため息をついた。

「俺も忘れてた。でも…本当のことを話せばいいんじゃない? 少なくとも基本の部分は」


 僕らは中学校で知り合った、夏の日。

 彼女が僕の隣に座り、ほとんど話さなかったけど、そうやって全てが始まったんだ。


「よかったら、何か付け加えてもいいよ」

 僕は続けた。


「たぶん、それだけじゃあの子たちを納得させられないかも」


 向こう側からは沈黙が返ってきた。


「じゃあ…私、何か作り話してもいい?」

 彼女は慎重に尋ねた。

「怒らない?」


「怒らないよ」

 考えずに答えた。

「説得力があれば、それでいい」


 数秒が過ぎた。


「わかりました…決まったら、また連絡します」


「ああ、がんばれよ」


 電話は切れた。


 僕は宿題に戻ったが、二分も経たないうちに、また携帯が鳴った。


 今度は彼女はためらわなかった。


「田中くん…なんか、いい考えが浮かんだかもしれない。でも、どう思うかわからなくて」


「どんな考え?」


「あなたが私に告白して…私がそれを受け入れたって言おうかなって」


 僕は一瞬黙った。


「…もっとバランスの取れた話にしたほうがいいかも」

 結局そう言った。

「全部俺がやる役ってわけにはいかないだろ」


 彼女は怒らなかった。

 むしろ、別の選択肢を考え始めた。電話は切らずに。


「そういえば…もう宿題終わった?」


 僕はため息をついた。


「今やってるよ」

 少し間を置いた。

「君もだよな、多分」


 彼女はすぐには答えなかった。


「たぶん…これ、いつか本当になるかも」


「え? 今なんて?」


 小さな沈黙があった。


「なんでもない」

 彼女は早口で答えた。

「気のせいだよ、きっと」


 彼女の返事方は少し変だったけど、僕は追求しなかった。

 何かを引き出そうとしても、今は無理だろう。


「そういえば、君はもうだいぶ進んでるんだろうな」

 話題を変えるように言った。

「俺はだいたい半分くらい」


「え? もっと進んでると思ってた」

 彼女はくすくすと小さく笑った。

「私、もうほとんど終わってるよ」


 彼女はさっきよりリラックスしているように聞こえた。


「早いな」

 僕は言った。

「いつもクラスでトップクラスなのも納得だ」


 短い沈黙があった。


「で、できた…終わったよ」

 彼女は柔らかい声で告げた。


 僕は自分のノートを見つめた。


「もう?」

 思わず口に出た。

「なるほど、成績がいいわけだ」


 彼女のその自信は、一瞬で消え去った。


「ご、ごめんなさい…」


「いや、違う」

 慌てて言い直した。

「本当に感心してるんだ。いいことだよ」


 向こう側は、すぐには返事をしなかった。


「そう…ですか」

 彼女は呟いた。

「ありがとう」


 電話は数秒間、沈黙に包まれた。

 不快じゃない…けど、心地よいとも言えない。


「石田さん」


「は、はい!」


 明らかに動揺している。


「あの…さっきの話、もう何て言うか決めた? あの子たちに」


「まだ、はっきりとは…」

 彼女は正直に答えた。

「なかなか難しいです」


「筋が通ってれば、それでいいよ」

 僕はため息をついた。

「もう、君を信じるよ」


「できるだけリアルに聞こえるようにします」

 彼女は決意を込めて言った。

「大げさにはしません」


「了解」

 僕はノートを閉じた。

「明日、君が決めたことを教えてくれ。俺も言うことを間違えないように」


「わ、わかりました」

 少し間を置いて、

「じゃあ…明日、話しましょう」


「ああ。おやすみ」


「えっ?! は、はい…お、おやすみなさい…」


 彼女はすぐに電話を切った。


 僕は数秒間、携帯を見つめていた。

 もしかしたら、あれを言うのはまずかったかも…

 でも、今更考えても仕方ない。


 結局、電話をかけ直すことはせず、宿題を続けて、そろそろ寝ることにした。


 明日は長い一日になりそうだ。いったい彼女は何を考えつくんだろう、あの新しい友達に話すための。

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