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第3話 夕焼けと、嘘と、自転車

「…それが、全部です…本当に。そ、それで…巻き込んじゃってご、ごめんなさい…」


 石田さんの吃音は明らかで、一瞬、気の毒にさえ思った。彼女があまりにも緊張しているので、こっちまで見ているのが居心地悪くなってきた…正直なところ、僕自身もどきどきしてきた。


「あ、ああ…これから付き合ってるふりをするなら、もっと…自信持って演じないとダメだな…」


 彼女はうなずき、少し肩をすくめた。顔は真っ赤だった。恥ずかしさなのか、ただの緊張なのかわからなかったが、彼女は最悪のタイミングでそんな姿を見せた。僕自身も、次に何を言えばいいかわからなかった。


 僕らは無言で自転車置き場に向かった。途中、彼女の足音が止まったのに気づいた。好奇心で振り返ると、言葉を失った。


 石田さんが眼鏡を外し、拭いていた。いつもかけているあの大きな眼鏡は、何かを隠していた…今なら、それが何かわかった。眼鏡のない彼女の表情は違っていた。もっと柔らかい。もっと…本当らしい。


「石田さん…」


 気づかれて、彼女はすぐに顔を隠した。まるで許されない過ちを犯したかのように。


「だ、ダメ…見ないでください。私、可愛くないの、わかってます。可愛くなくて、ごめんなさい」


 彼女が僕をからかっているのか、それとも本当にそう信じ込んでいるのかわからなかった。


「嘘つけ…違うだろ」

 僕はつばを飲んだ。もう引っ込みがつかない。

「可愛いよ、君は。それに…眼鏡を外したら、もっと可愛い」


 彼女の顔が完全に赤くなった。硬直して、明らかに処理しきれていない。彼女に少し自信を持たせようとしたのに、逆効果だったみたいだ。


「そんなこと言わないで…たとえ本当だとしても、他の人がそう思うわけないから」


 彼女のネガティブさは、どんな可能性よりも強かった。どんな決意よりも深く根付いたコンプレックスだった。


「いつもと違う格好で来たらどうだ」

 僕は彼女を横目で見た。

「みんな、驚くと思うよ」


 彼女は躊躇った。今は、それで十分だった。


 僕は自転車を引き出し、他の車から離した。行く前に、後ろの荷台をぽんと叩き、座るよう合図した。彼女は困惑した顔で僕を見た…そして、理解した。


「い、いや、だめ…そんな、時間を取らせちゃいけません。私、一人で帰りますから…」


「迷惑じゃないよ」

 僕は落ち着いた口調で彼女を見た。

「それに、付き合ってるふりをするなら、もっとそれらしくしたほうがいいだろ?」


「………わかりました。それじゃあ、お願いします」


 彼女が受け入れたのを見て、僕は微笑んだ。彼女は後ろに横座りし、こぎ出すと、僕の腰をそっとつかみ、少しずつ近づいてきた。


 かすかな震えを感じたが、僕は平静を保った。


「そういえば…君、どこに住んでるんだ?」


「案内しますから、ついてきてください。大丈夫です」


 彼女の落ち着いた返事にうなずき、彼女が示す道を進んだ。数分後、到着した。


 家は思ったより大きかった。石田さんは早く着けてほっとしているようだった。空は濃いオレンジ色に染まり、太陽がまもなく沈むことを告げていた。


 彼女は自転車から降り、僕の横に立った。


「ありがとう、田中くん…あなたがいなかったら、多分暗くなってた」


 僕が返事をする前に、背後から声がした。


「お姉ちゃん…?」


 二人して振り返った。八歳くらいの男の子が、明らかに困惑した顔で僕らを見つめていた。


「晃? なにして外にいるの?」


 彼は答えなかった。ただ腕を上げ、中に何かが入っている袋を示しただけだった。石田さんはすぐに理解し、微笑んだ。


 彼女が何か言う前に、少年は僕に近づき、好奇心いっぱいの目でじっと観察して…そして家の中へ走っていった。


「ママー! お姉ちゃんが男の子連れてきた! 彼氏かもしれない!」


「違うってば! ただのクラスメイトなの!」


 しかし、彼女の説明は誰にも届かなかったようだ。


「先に説明しておけばよかった…」彼女は独り言のように呟いた。それから僕を見て、うつむいた。

「ありがとう、田中くん。本当に」


 僕は慌てて手を振った。


「大したことじゃないよ。誰だってそうするよ」


 僕は数秒間黙り…そして口を開いた。


「よかったら…今度も乗せてくよ」


 彼女は少し目を見開いた。


「本当に? 迷惑じゃないですか…」


「迷惑じゃない。君の役に立つなら、別にいいよ」


「…わかりました」

 彼女は恥ずかしそうにうなずいた。

「そこまで言ってくれるなら」


「じゃあ、また明日」


 彼女は少し照れながら手を挙げた。


「また明日…」


 僕はほのかな微笑みを浮かべ、その場を離れた。

 変な一日だったけど、何かが変わり始めている気がした。


 ◇◆◇◆◇


「お姉ちゃん、彼氏ができたってなんで言わなかったの?」


 晃は食い下がるように彼女を見つめていた。すぐに、母親が台所から現れ、明らかに興味津々な様子だった。


「ほんとうなの、ユキ? やっと彼氏ができたの?」


 プレッシャーが明らかにかかっていた。


「違うよ…田中くんとは付き合ってないの」

 彼女は視線をそらした。

「今のところは、ただのクラスメイトだから」


「『今のところ』って?」

 母親はいたずらっぽく微笑んだ。

「もうその先のことまで考えてるんじゃないでしょうね」


 ユキはすぐに顔を赤らめ、返事ができなかった。


 晃がじれったそうに、ユキのスカートの端をそっと引っ張った。


「お姉ちゃん…それって、そのお兄ちゃんのこと、好きなの?」


「そんなこと聞くには、まだ晃は小さすぎるよ」


 ユキは目をそらし、いつもより少し強い口調で言った。

「その話は、また今度ね」


 彼女がこんなふうになるのは珍しかった。もっと直接的で、あまり緊張していない。

 たぶん、これが家にいるときの、彼女の本当の姿なんだろう…特に弟の前では。


「じゃあ、今度会ったら、そのお兄ちゃんの悪口言っちゃう」

 晃はむっとして、頬を膨らませた。


 ユキは即座に反応した。


「やめなさい」

 危険な笑みを浮かべて、彼に身を乗り出した。

「じゃないと、あなたの部屋から大事なものが消えちゃうよ」


 晃は一瞬で顔色を失った。


 その時、ユキの携帯が振動した。彼女は不思議そうに取り出し…表情が一変した。柔らかな微笑みが顔に浮かびながら、返信を始めた。


 晃と母親は顔を見合わせた。


「まあ…」

 母親は悪戯っぽく笑った。

「それで『好きじゃない』って言うの?」


「そうだよ、お姉ちゃん、すごくバレてるよ」


「何の話してるの?」

 ユキは眉をひそめた。

「ただメールしてるだけだよ」


「えっ?」


 驚きが明らかだった。


「私、友達ができたらいけないの?」


「…いや、もちろんいいよ」

 母親は軽く咳払いをした。

「ただ、安心しただけだよ。でも…急だったね」


 ユキは誇らしげに微笑み、それ以上何も言わずに自分の部屋へ向かった。二人には、答えよりも多くの疑問が残された。




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