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『みにくいアヒルの子』と呼ばれた公爵令嬢

作者: 柚杏
掲載日:2025/10/28

楽しんでいただると嬉しいです。

ベイズザード王国には、皆から羨望の眼差しでみられる有名な公爵家があった。


ヴェズレー公爵は黒真珠の様に光沢のある漆黒の黒髪に、すっと切長の碧眼でスラッと背も高く。若い頃は氷の貴公子と呼ばれ、男性ながら色気のある美しい顔をしていた。


奥方である公爵夫人は輝く様なフロンドの髪で、つぶらな瞳は青く、子供が3人居るとは思えない程のプロポーションを維持している。まるで名工が生涯をかけ手掛け、精巧に作り上げられたビスクドールの様に愛らしい顔をしていた。


長男である公爵令息は父親の若い頃に生き写しだと言われるほど美しく、黒い髪に青い瞳の美青年で、頭脳明晰で学院で生徒会長を務めあげ、第1王子の側近として働き、次期公爵としても腕を奮っていた。


次男の公爵令息は母親似の金髪碧眼で、皆に優しく社交に長けており。母親似の甘いマスクで、優しく微笑んでいる事が多い。学院では皆が憧れる王子様像そのものだと言われ、ファンクラブも存在し何時も話題に上がる程の人気を誇っていた。


ただ公爵家にはもう1人居るが、皆が褒め称えることは無かった。次兄と同じ色合いを持つ末娘だが、時に嘲りや失笑を向けられることが多く、美しい公爵家の中の異物であり、人々は侮蔑の言葉で、『みにくいアヒルの子』と呼んだ。


公爵令嬢であるヴィオレッタ・ヴェズレー、この物語の主人公である。


公爵家の家族仲は良好で、末っ子であるヴィオレッタは家族の愛情を注がれ愛されていた。

兄達は妹を殊の外可愛がり、本当にこれでもかという愛情を…、妹が飽き飽きする程の重い愛情を注いで可愛がり倒していた…。この兄達は本当に今後どうするのだろうかと、ヴィオレッタが悩む程妹を愛し尽くしていた。


家族の愛情を一身に受け、健やかに成長したヴィオレッタは今現在進行形で幸せな時間を堪能していた。

場所は、学院のカフェテラス。何個かケーキを食べ終わり、紅茶を飲みながら美味しかったと思い出しては微笑んでいた。目の前の6人掛けで長方形のテーブルには、まだ大量の色とりどりのケーキがテーブルいっぱい鎮座していた。2人しか座っていないのでお互い左右にわかれ、それぞれ中央の席に着いていた。


次はどれを食べようかと、迷い視線を巡らせる。季節の果物がこれでもかと大量に乗ったタルトに、艶々と輝く大粒の苺が乗った王道の苺のショートケーキも美味しそうだと思う。だけど表面がチョコレートで艶々とコーティングされたチョコレートケーキも捨て難いと悩んでいると、向かいに座る長兄が蕩ける様なほほ笑みを浮かべて告げた。


「全部ヴィオの為に用意したんだから、全部食べても良いんだよ。」


卒業している長兄が学院に居るのは何故かと言うと、たまに視察先で美味しそうなデザートを買い込んでは放課後に学院に訪ねて来るのであった。家に帰れば居るのに、何故か学院に訪ねて来ては一緒にお茶をするという謎行動をとるのだ。

長兄の言い分だと、家だと皆で分けるのでヴィオレッタ個人にあげたいとの事である。

ここ数日遠方に視察の為留守にしていたので、この大量のケーキは私へのお土産という事なのだろう。


巷で氷の貴公子等と呼ばれていて、何時も冷たい表情を浮かべているが、その冷たい視線が素敵と言われている長兄だった。

しかし長兄が微笑むのはヴィオレッタには日常茶飯事であり、他の者達には時折拝める珍しい光景で、こちらを伺うギャラリー達によって黄色い声があちらこちらで上がった。

その中で余波を直撃したのか失神する令嬢が何人かおり、倒れ危ないと思うが、ギャラリー皆が失神者の扱いに慣れているのか周りの人が支えに入りホッとした。


「ラス兄は食べないのですか?」


小さい頃のままの呼び方には、深い…?深いのか疑問な事情があった。成長しお兄様と呼んだとき、2人の兄達に呼び名を変えないでくれと泣いてすがられた。

ヴィオレッタとしても年相応の振る舞いをしたいのだが、兄達の嘆きにウザ…面倒になり呼び名を続行している現状だ。外ではクールだとか微笑みの貴公子なんて呼ばれているのに、本当にドン引きである。


「では、そちらのケーキを1口くれ。」


そう言うと口を開けて待つ長兄に呆れつつ、フォークで1口分切り分けて口元に運ぶと、横から伸びた口に食べられてしまった。

突然の事に唖然としていると、口に着いたクリームを舐めてキラキラとした雰囲気でご馳走様と微笑む次兄が居た。新たに次兄が加わった事で、更にギャラリーが増え黄色い声が響いている。


バシッとすごい音にビックリすると、テーブルに両手を叩きつけた長兄が怒り出す。


「アルフォンス!貴様はここ数日ヴィオを独占していたのだから割り込むな!」


衝撃で紅茶が零れなくて良かったと思っていると、横に座った次兄のアル兄が私の肩を抱きしめてくる。


「ラスティー兄さんが怒るからヴィオがビックリしているじゃないか、怖かったね可哀想なヴィオ!お兄ちゃんが守ってあげる。大体兄さんがここ数日遠方の仕事で留守だったのが原因じゃないか、兄さんが居ないのが悪いのであって僕には関係ないね。」


「何を!お前はヴィオにくっつき過ぎるんだ、その席から立ち去れ!」


「ラスティー兄さんが抜け駆けしていたんじゃないか、僕が気が付かなければ2人でお茶する気だったんだろ?」


お互いに罵りあい始めたこの兄達はこうなると長いので、ヴィオレッタはテーブルに乗ったケーキ達を1人で堪能する事にした。

ああ、このケーキ美味しいと、1人堪能して微笑んでしまう。


何個かのケーキを食べ終わり、次のケーキを手前に引き寄せると、テーブルの上に影ができたので見上げると、笑顔を浮かべてはいるが目が笑ってない令嬢が2人立っていた。

長兄の婚約者であるアデリーナ・シルトスベン侯爵令嬢と、次兄の婚約者のステファニー・エルダー子爵令嬢だった。


「ラスティー様、御機嫌よう。馬車乗り場に行ってみれば、もぬけの殻で探しましたのよ。楽しそうですわね、ですがこの後の予定覚えてらして?」


ビクッとした長兄が、まるで油の切れた歯車の様に首を回して令嬢に向き合う。


「覚えているが、まだ約束の時間まで時間があるはずだが…。」


長兄は出張から戻り着替えた後、学院にアデリーナ様を迎えに来たというのに、待ち合わせ場所に行かずに、この席に来ていたのか…。

緩やかにウェーブがかった赤髪黒目で、豊満な体型で人目を引く、艶やかで大輪の薔薇の花のように美しいアデリーナ様が、首をかしげ笑顔で長兄に圧をかけている。


「折角公爵夫人から頂いた、人気のある観劇に遅れてしまいましてよ。」


長兄は「母上め余計なお世話を!」なんてブツブツと呟いているが、ほっておいては交流しない婚約者同士の交流させたかったんだろうなと思ってしまう。


そして、次兄の方も…。

長くサラサラと風になびく美しい栗色の髪をなびかせて、丸く優しげな茶色の瞳は何時も潤んでいる。全てが庇護欲を誘ってくる様な清楚で、まるで1輪の百合のようなステファニー様は頬に手を添えて、首をかしげ微笑みで次兄に圧をかけている。


「アルフォンス様、御機嫌よう。授業が終わったら、卒業パーティーの衣装合わせの約束だったと思いますが。教室に迎えに伺った所、既に帰られたと聞きショックを受けましたのよ。」


「わ…分かっている。」


長兄とは違い次兄とは朝一緒に登校したというのに、婚約者であるステファニー様を待たずにこの席に着いていたのかと呆れてしまう。


6人掛けのテーブルで左右3席の、中央に座っていた私の左横にアデリーナ様が座られた。右横で下を向いて固まっている次兄を、ステファニー様が椅子から押し倒しその席に座った。


「ステフ、そこは僕の席だ!」


「煩いですよ。」


悔しそうな顔をしつつ長兄の横に、次兄が座り直した。優しい微笑みを浮かべているのに、一言で黙らせるステファニー様に感心してしまう。

兄達に笑顔で圧をかけていた2人だが、私の方を向いた時は蕩けるような笑顔を向けてくれる。


「ヴィオレッタちゃん、今日も可愛いですわね。こちらのケーキも美味しそうですわよ。」


「本当に今日も愛らしいですわ。この柔らかい頬っぺが本当に可愛いですわ。」



兄達の婚約者である2人には、私も可愛がって貰っている。あの兄達を御する事の出来る2人は、本当に私にとって尊敬出来る人達である。


誤解のない様に言うと、兄達と婚約者たちの仲は良好で問題など無く。私を引き金に暴走する兄達の手綱を、上手く引いていける貴重な存在だ。

ただ兄達と一緒に私を構い倒すので、たまに一緒に暴走しているのが玉に瑕である。


「はい、ヴィオレッタちゃんあーん。」


横からアデリーナ様がフォークでケーキを差し出してくれたので食べると、程よい甘さが口の中に広がり美味しさに微笑んでしまう。


「ヴィオレッタちゃんが美味しいものを食べた時にうかべる微笑み、本当に可愛いですわ!」


アデリーナ様が私の頭を抱き込み撫でると、ステファニー様が私の身体に抱きついてきた。アデリーナ様のお胸大きくて柔らかいなーなんて思っていると、兄達が身を乗り出して引き剥がしにきた。


「こら リーナ!手を離せ、私でも今日はあーんってしてないのに卑怯だぞ!」


「ステフ!ヴィオに無闇やたらと抱きつくな!」


「「おだまり!」なさい!」


婚約者達の一喝と睨まれたのか、兄達はビクッとして押し黙った。負けるんだから、最初っから言わなければ良いのにと呆れてしまう。


「なんだか楽しそうだね、私も混ぜてくれないか。」


また1人新たに現れ、椅子を引き座った。兄達は線が細いが、程よく鍛えられている身体に、銀色に輝く髪を後ろで括り王家特有の紫色の瞳を細めた美丈夫が楽しそうに微笑んでいる。

にっこりと笑いかけられ、私も微笑んで挨拶を返す。


「御機嫌よう、ウィリアム殿下。」


そう現れたのはこの王国第1王子である、ウィリアム・ヘイズザード殿下だった。

長兄が側近として働き、次兄の同級生である殿下はよく我が家にも遊びに来られ、何かと私も可愛がって頂き交流がある関係である。

因みに兄達の婚約者の2人も次兄と同級生で今年18になり、長兄が1つ歳が上で19歳、私が2歳下で16歳である。


この国では15歳からの3年間、貴族なら必ず学院に通うこととなっていいる。そして卒業式の翌日に城で開かれる、新成人を祝うパーティーが盛大に開かれる。

そこで男女ともデビュタントを一斉に迎える事となっていて、やっと成人として1人前としてみられる様になる。


「この辺りが賑やかだったから、もしかしてと思い来てみたが、本当に皆が揃っているね。まさかのラスティーまで居て、驚いたくらいだ。」


「気が付いたらとても賑やかで、本当にとても楽しいですよ。」


たまにウザ…面倒臭い時もあるが優しい兄達に、何時も優しく接してくれる未来の姉達と過ごす時間はとても楽しい時間だ。

ヴィオレッタにもちゃんと友人と呼べる付き合いの人も多数居るが、幼い頃から接して愛を注いでくれている人達と共に過ごす時間。幸せを噛み締めて殿下に微笑むと、「そうか」と笑顔で返してくれた。


6人掛けのテーブルに、学院でなにかと注目を集める美しく目立つ集団が揃ったことで、周りのギャラリー達が更に増えて黄色い声で騒いでいた。


「そういえば、ウィリアム殿下はどうされたのですか?アル兄を探していたのですか?」


「そうだった、アルフォンス。卒業式の進行のことで下級生から相談したいと言われて、君に確認を取りながら決めようと思って探していたんだよ。下級生を待たせているんだ、ちょっと一緒に来てくれないか?」


「僕に?なにか問題があったかな?」


殿下と次兄が立ち上がると、ステファニー様も一緒に立ち上がった。


「ヴィオ、また帰ったら一緒にお茶を飲もうね。」


「ヴィオレッタちゃん、また一緒にお茶しましょ。」


「すまないヴィオレッタ、また。」


3人が歩き出すと、長兄とアデリーナ様もそろそろ時間だと席を立った。


「カフェのスタッフには話を通してあるから、もし食べきれなかったら梱包してもらって、食後のデザートとして食べれば良いからな。ヴィオ、また夜に会おう。」


「ヴィオレッタちゃん、今度ステフも誘って3人でお泊まり会でもしてたくさんお話しましょう。また連絡するわね。」


アデリーナ様をエスコートしながら、長兄も馬車乗り場へ向かって歩いていった。

黙ってエスコートする姿は本当に美しく1枚の絵画の様だ。

しかし歩きながら「リーナ、ヴィオは泊まりには出さんぞ!」、なんて言っている事で何とも残念な感じだ。



今まで賑やかだったのがいきなり1人になってしまい、ポツンと取り残され感じになってしまった。新学期を迎えたら兄達は卒業していて、優しい人達が居ない2年間過ごさないといけないのだと思うと、寂しく感じてしまう。


静かになりそんな時に、集まってきたギャラリーの数人がヒソヒソと交わしつつ、あえてヴィオレッタに聞かせるように話す声が聞こえてきた。


「本当に皆様の艶やかな姿を見れて、本当に感激ですわ。でも折角の素敵な空間でしたのに、『みにくいアヒルの子』が同席しているなんて。」


「本当に台無しですわよね、自分の姿を見たことないのかしら。あのだらしない姿!あの麗しの公爵家の一員だとは思えませんわ。あのように大量に食べるから、ほら制服のボタンが弾け飛びそうですわ。」


「まあみっともない!そういえば噂だと、優しい公爵夫妻が門前に捨てられていた赤子を、哀れに思い我が子として育てていると聞きましたわ。」


「あら。わたくしは公爵夫人の実の兄妹である、子爵や男爵夫人に似ていると聞きましたわ。なんでもスラッとした公爵夫人と違い、とてもふくよかでまるっとした方だとか。」


「それに、公爵家の皆様が集まるとあの方は背が1段低いのですよ。そして輪郭のだらしない膨らみ、目も垂れていてタヌキみたいではありませんか?きっと公爵夫人も我が子があの様に醜いと、ショックを受けてしまわれそうですわ。」


クスクスと馬鹿にしたように笑い合う声は、何時もヴィオレッタが1人になると聞こえてくる。直接言ってくる者は居なくなったが、気持ちの良いものでは無い。


兄達や殿下、そして婚約者である2人に憧れる人々の中には、憧れである人達がヴィオレッタに構うことが許せない人が一定数存在する。


制服に身を包み座るヴィオレッタのフォルムは、話題にも出てきた叔父叔母とよく似たふくよかな姿である。制服のボタンは横から引っ張られている事で、生地に皺がよっている。

赤子のようなフェイスラインになっているが、皆は可愛いと言ってくれている。

公式の場で家族が集まると確かに私は1段低いが、160を超えているので、そこまで低身長な訳では無い。


テーブルの上の皿を引き寄せ、次のケーキを食べ始める。まだ食べるのかと非難する声も聞こえているが、ヴィオレッタは気にせず食べ進める。あっ、これ美味しいなんて思って微笑んでしまう。

親に連れられて参加している茶会でも、言われ続けていて慣れてしまった。

それにその様に悪く言われる事を覚悟で、今の生活を送っているのだから気にもとめない。


余り反応を返さないヴィオレッタを知り目に令嬢達は、別の話題に切り替わっていった。


「そういえば。殿下も卒業まであと僅か、婚約者の選定時期になりませんの?」


「噂で聞きましたが、少し前にオートクチュールのお店に美しい令嬢を伴って来店したそうですわよ。」


「この時期に行ったという事は、新成人のパートナーという事かしら。」


「その噂の方と同じか分かりませんが、知り合いが見た時はとても美しい令嬢を殿下がエスコートして歩いていたという事ですわ。」


「目撃情報が有るのに誰か不明という事は、国外のご令嬢かしら?もしかしたら新成人の時に婚約発表もあるのかしら?」


「殿下の心を掴んだご令嬢、とても気になりますわね。」


(殿下の心を掴んだ令嬢ね…。)


最後の一口を口に含む、テーブルに乗っていたケーキを食べっきたヴィオレッタは、ここにいる意味も無くなったので席を立ち帰宅の為に馬車乗り場に向かって歩き出した。



その日の夜。夕食後にソファーに座り本を読みながらクッキーをつまんでいると、横にドサッと音を立てて次兄が座る。疲れ果てたのかグッタリと、背もたれにもたれている。

ヴィオレッタのクッキーを食べようと手が伸びてきたので、軽くペシっとたたき落としておいた。

ヴィオレッタの皿を諦めた次兄は、侍女に冷たい飲み物とつまむ物を頼んでいる。


「アル兄早かったですね、お母様は?」


「ヴィオ…、そんなに早くないよ…。本当に母様に付き合ってると、こっちが参るよ。今は父様が相手してる、そのうち帰ってくるんじゃないかな。」


届いた飲み物をグイッと飲みきり、おかわりをちゃっかり頼んでる。アル兄は皿を抱え大きな口で食べ始め、どんどん皿の中身が消えていく。

このクッキーはお父様とお母様の恋のきっかけという事で、常にストックを持っている我が家自慢のクッキーである。


「子供でお母様に付き合えるのは、アル兄しか居ないので諦めてくださいな。」


最悪っ!って嘆きつつ、ゲッソリした顔でもクッキーを食べているのだから大丈夫だろう。


実際お母様のお眼鏡にかなうのは次兄だけなので、諦めてお母様が満足するまで付き合って貰わないと、私にも飛び火するので頑張って欲しいものだ。

私ではお母様に付き合えきれないし、長兄では物足りないとぼやくのだ。お母様もいい歳になったのだから、そろそろ割り切ってしまえば良いのに…。


「でも、お母様が戻るまでには食べきっておかないとお小言が来ますわね。」


いそいそと残りクッキーを食べ始めると、バタンと扉が開いた。


「わたくしがどうしたのかしら、ヴィオレッタ?」


開いたドアから、お父様にエスコートされたお母様が入ってきた。


「お母様なんの事でしょうか?」


ジト目で睨まれるが、ここはしらばっくれる!


「貴方達、また間食してるのね…。本当に貴方達は!」


怖い!整っている顔だから、余計に圧を感じる…。ここで下手な言い訳しよう物なら、アル兄共々連行されかねない。


「もう寝る時間も近いというのに、貴方達はムゴ。」


お父様が侍女から受け取ったクッキーを、お母様の口に突っ込んだ。

お母様は突如入れられたクッキーを咀嚼して、キッとお父様を睨みつけるが、お父様は何処吹く風でお母様を見ている。


「美味しかったかい?」


「ナッツの食感に濃厚なバターの風味で、確かに美味しかったわ。だけど今、口に入れる事ないじゃない!」


「それは何より。その表情も懐かしいね、愛しい人。」


お母様の手をすくい上げ、指先にキスを落としながら囁く。


「今宵見事なの月だ、月明かりに照らされた庭園もさぞ美しいだろう。この後一緒に見に行く栄誉を、この愚かな男にくれまいか。」


お母様は怒っていいのか照れていいのか分からず、何とも言えない表情を浮かべていた。

大きな溜息をつき、優雅な表情で良いわよと告げた。光栄だと言い、お父様は小柄なお母様の腰を抱き歩き出す。


相変わらずの溺愛に、子供達は呆れた顔を浮かべつつ見送る。

お父様の溺愛は公爵家では見慣れた光景だが、あの冷徹で表情筋が死滅しているのではと言われているお父様が甘い言葉を吐く光景を見て、己の精神が狂っているのかと喚く人々も一定数いるのだ。

お父様みたいに表情筋が死滅しないようにと、兄達は幼い頃からお母様に特訓という百面相をさせられていたとかなんとか…。お母様の特訓が功を奏したのかの、兄達は表情が豊かであった。ただし、私限定であるが…。



そうして月日が過ぎた。

無事昨日学院の卒業式を終え、新成人を祝うパーティー開催日を迎えた。


ホールには国内の貴族一同が集まり、至る所で新成人に祝う言葉が交わされている。

賑やかなホールにファンファーレが鳴り響き、国王1家の入場が告げられた。


皆が拍手で迎えるなか、初めに国王夫妻がホールに続く階段を降りる。

その後ろを第1王子が、スラッとした黄金色で美しい金色の髪を結い上げた令嬢をエスコートして降りてくる。

銀色に輝く髪を持つ美丈夫に寄り添う美しい金色の髪を持つ美女の登場は、まるで絵画の1枚のように美しい光景に皆感嘆のため息をつく。


ホールに降り立った王族は、中央にひかれたレッドカーペットを優雅に歩き、上座に据えられた壇上に上がっていく。国王と王妃が席に着くと、第1王子と令嬢が傍に控えるように後ろに立った。


「こうして皆が一同に集まり、めでたい祝いの席につけた事、大変嬉しく思う。」


国王が視線でホールを見回すと、一同が拝礼もしくはカーテシーをして礼をつくす。


「皆顔を上げよ、今宵は皆に伝える嬉しい知らせがある。第1王子であるウィリアムの婚約者が決まった。」


国王の斜め前に歩み出した、第1王子と令嬢が共に並ぶ。

この様に美しい令嬢が国内に居ただろうか、国外の王族ではないのかとヒソヒソと囁く声がホール中に響き上がる。


「知っている者も居るだろうが、改めて紹介しよう。ヴィオレッタ・ヴェズレー公爵家令嬢だ。」


皆が目を見開き件の令嬢を見るが、皆が知っているヴェズレー公爵令嬢と同一人物だと認識できないでいる。


「彼女は国内屈指の公爵家令嬢であり、まだ学院に所属しているので新成人の皆も知っていると思う。結婚は彼女が卒業終えてから行う為、この若い2人を暖かく見守って欲しい。」


皆戸惑いながら拍手を贈ると、1歩前に出たヴィオレッタが見事なカーテシーをして話し出す。


「ご紹介頂きました、ヴィオレッタ・ヴェズレーです。若輩者ですが、ウィリアム殿下に相応しくなれる様に尽力いたします。どうか皆様、よろしくお願いいたします。」


皆拍手を贈りつつ、自分の目を疑っていた。

あの学院で大量の飲食をし、丸々と太っていたヴィオレッタを新成人達は、昨日の卒業式で見かけていたのだ。

ヴェズレー公爵家の次男アルフォンスも卒業を迎え、兄と兄達の婚約者達にヴィオレッタは花を贈るために会場に姿を現していたのだから。

凛として話すヴィオレッタが、とても昨日見かけたヴィオレッタと同一人物だと思えるはずもなかった。


皆の混乱を他所に、新たに結ばれた2人は仲良く寄り添いながら囁きあっていた。


「いきなりの事で、やはり皆様混乱してますわね。」


「まあ、私も初めて知った時は驚いたからね。でもあの姿も、今の君も愛らしいのは変わらないけどね。」


「まあ。ウィリアム様、ありがとうございます。」


実際ウィリアムも数ヶ月前まで、ヴィオレッタの体型の事は全く知らなかった。知っていたのはヴェズレー公爵家一族と使用人達、母親の兄妹の家族に兄達の婚約者2人だけ。

兄達の婚約者の2人には、幼い頃子守りをしてもらった事がある程に昔から知っている仲で、本当の姉のように思っている。


学院生活で仲を深めたアルフォンスが家に招いて訪れた時、紹介されて初めて会話した時ははふくよかな体型をしていた。友人であり側近の妹という事で、色々と気にかけてもらい可愛がって貰っていた。手土産として可愛い花や普段使い出来るリボン、王宮のパティシエの作った色とりどりの菓子など貰っては喜んでいた。

最初は兄達と同じ様に感じていたが、歳を重ね言葉を交わすうちにウィリアムの優しさや人柄にヴィオレッタは心惹かれていった。

妹の様に可愛がってくれているだけで相手はこの国の第1王子、この思いは叶わず初恋として記憶の中に残るだろうと諦めていた。


学院に入学しても、その関係は変わらないものだと思っていた。


しかしその予想は外れた。


入学して半年過ぎた頃。生徒会役員として活動しているウィリアムや次兄と、アデリーナ様とステファニー様は引き継ぎ前として忙しく過ごしていた。一緒に帰る約束をしていたヴィオレッタは、学院内で時間潰しをして待っていたある日。

学院の中で注目を集める皆に可愛がられているヴィオレッタに対し、蔑み妬んだ上級生数人に捕まっていた。

普段から影で嫌味や蔑みの言葉を吐かれる事に慣れてしまっていた為、何を言われても気にした雰囲気の無いヴィオレッタに対してイラついたのか手を上げようとされた時、ウィリアムが助けてくれた。

罵詈雑言を投げつけられても、悲しかった訳でも辛かった訳でもない。だけど、ただただウィリアムが助けてくれたという事実がヴィオレッタには嬉しかった。

本当に嬉しくて涙が出そうになっていた時、上級生達を追い払ったウィリアムが振り向いた。涙を浮かべるヴィオレッタを見た瞬間、目を見張り驚き涙を浮かべた私を優しく抱きしめてくれた。

ウィリアムの優しさを感じ余計に涙が溢れてきた、そんな私が落ち着くまで抱きしめてくれた。


落ち着くと身体を離したウィリアムから、好きだと告げられた。

嬉しかった…、だけど偽っている自覚はあるので私で良いのかと不安になる。

私で良いのかと聞けば、真っ直ぐな視線で君が良いと答えてくれた。


返事を少し待ってもらい、初のデートとして王都のカフェテラスで待ち合わせをした。

先に着いていたウィリアムが待っているテーブルに向かう、今日は偽らない自分を告ようと身支度をしてきたのだから。

ウィリアムは偽っていた私を許してくれるだろうか…、ありのままの私を受け入れてくれるだろうか…。緊張しながら移動し、ウィリアムの席の正面に声を掛けずに座った。

入口の方を伺っていたウィリアムだが、席に着いたことでチラリとこちらを見てくる。緊張で声を掛けれないまま座る私をチラリとと見た後、視線は入口の方の戻ってしまった。


「些細な誤解すらされたくない大切な人との待ち合わせ中なので、別の席にお願いします。」


今まで聞いた事のない程、低い声で冷たく突き放された。

緊張が高まり「私です」と震える声で告げると、勢いよくこちらを向いたウィリアムは驚きの表情を浮かべて見てくる。

私だと認めてくれたが始終驚きつつ、私の一連の経緯や謝罪を聞いてくれた。そして私の事を許し、再度交際を申し込まれ「はい」と返し付き合い始めたのだった。



「君がこうして公の場に本来の姿で現れた事で、今後変な虫が付かないか心配だよ。君のご両親の教育方針のお陰で独り占め出来ていたのに、私の居ない学院で何かあったらと思うと気が気でないな。」


心配してくれているウィリアムに悪いが、嬉しく思ったヴィオレッタは微笑んでしまう。



ヴィオレッタがふくよかな体型で過ごしていたのには理由があり、両親からの配慮でもあった。


ヴィオレッタ自体、本来はスマートな体型をしている。

ヴェズレー公爵家の家訓は、「食べるものを食べずに最高のパフォーマンスは出来ない」である。

家訓のせいかヴェズレー公爵に連なる一族では、遺伝なのか本家に血が近いほど大食いが多かった。どの位大食いかというと、一族の男性なら一般的な成人男性と比べ3倍以上食べるのだ。女性であるヴィオレッタはそこまでは食べないが、一般的な成人女性と比べれば倍以上は食べている。


だがヴェズレー公爵家一族の血を引く者は、スラリと背が高くスマートな体型の者が多い。


どんな遺伝で体質だ!と突っ込んだ者は多い、主に一族に嫁いだご婦人方だ。

嫁いできたら一族基準の食事の量を出され、流石に食べきれない者も居た。食事の量がもたらす体型の崩れを気にし、食事を減らそうとする者も居た。

だがこの一族はあの家訓を掲げているのだから、妻が食事の量を減らすことを心配した。減らすと体調が悪いのかと心配されたり、給仕行動で食べさせる強者もいた。

その弊害で大半は諦めて食べ太った者、食べるが意地で体型を保つ者がでた。

因みに母親は後者で、幼い頃から鍛えてきた訓練量を増やし頑張っている。夕食後に生贄(主に次兄)を連れて訓練所に篭もり、日々体型維持のため大量の汗を流している。



ヴェズレー公爵家や親戚にはここ数代何故か男児しか生まれず、バリバリの男系一族であった。その為沢山食べても体型が変わらないのは男性だからと、文句を言いたいがご婦人方は一応納得していた。

ただこの理不尽な体質に対しご婦人達で集まり、被害者の会なるものを立ち上げて愚痴を言い合っている。兄達の婚約者の2人も、結婚後入会を決めているそうだ…。


そんな中生まれたヴィオレッタは、一族待望の女児であり、幼い頃から蝶よ花よと一族の愛情を受けて育った。人見知りになる余裕が無い位に、ヴィオレッタの元に人々が通って来ていた。もちろん一族の愛情の表れである給仕行動も健在で、離乳食後期から様々な食べ物が貢がれた。

与えられる食べ物の量に、このままでは丸々とした子供になるのではと母親は危機感を持っていたが、至って普通に成長していった。

女児にも遺伝する事実に、母親やご婦人方は羨ましいやら悔しい思いをしたらしい。


皆の愛情を受けてスクスクと育っていたが、お茶会デビューの1年前の9歳の時に問題が発覚した。

公爵令嬢であり、こんなに愛らしく育ったヴィオレッタは良からぬ事件に巻き込まれるのではと。

どうやって娘を守るか、悩みつつ両親は相談を重ねた。


悩みに悩んで母親の経験則に則り、自衛の為に武術を学ばせる事にした。

幼い頃から同じ様に愛らしかった母親を心配した母方の祖父母たちが、有事の備えとして母親に武術の稽古をつけていた。何事も負けず嫌いな母親は、稽古でメキメキと実力を伸ばしていった。

そして誘拐に合いそうになった時や様々な場面で、何度も稽古で鍛え上げたお陰で大事に至らなかったという実績があった。学院に通う年齢に至った時には、騎士団の下手な隊士より強くなっていたとの事だった。



いざ鍛え始めると、ヴィオレッタは普通の貴族令嬢として振る舞える程度の体力と運動神経しか持ち合わせていない事実が発覚した。今現在も普通のダンスのステップは踏めるが、難易度の高いステップは出来ない位の運動神経である。

蛇足で公爵家で運動神経の良い順は、父親>母親>次兄>長兄>>>ヴィオレッタである。


ならばせめて逃げ足だけでも鍛えようと、重いドレスを着衣した状態での走り込みが始まった。何故重いドレスを態々着込むのかと母親に聞くと、実際の状況で対応出来なければ意味無いからと返されしまった。納得したくは無いが、確かにと納得してしまったのでそのままの姿で走り込みをするが、結果は芳しく無かった。


因みに今でも母親は着なくなった重いドレスを身にまとい、高いヒールの靴を履きながら鍛えている。


自衛のできない愛らしい娘を心配した両親が、ヴィオレッタに提案した案の1つが体型を偽る事だった。

なんとか自衛手段を与えたいと思う両親からの愛で、母親による激しい訓練を受けさせられ疲れ果て、そのうち死ぬかもと思い始めていたヴィオレッタは体型偽装の案をを喜んで受け入れた。嘲りの声や失笑される可能性を親が話すが、ヴィオレッタは頑なにこの案を採用する事を決めた。

学院時代の母親の経験から、見かけで寄ってくる馬鹿が来ない分、内面を見てくれる人がきっと見つかるとの事だった。


そして体型偽装は口の中の頬に詰め物をしたり、体型を誤魔化す方向に定まった。

最初口の中に綿や綿を詰め込んだが、前提がお茶会とあって試すと、お茶や菓子を口にした時に、口の中が大惨事になった。何か代替品がないかと探し、次に目を付けたのは口に入れても大丈夫とうたった赤子の玩具だった。丁寧にヤスリをかけ磨いた木材は、お茶や菓子を口に入れても大丈夫だったので、丸い輪郭を作るため頬に詰めた。

成長と共にサイズを作り直し常に入れていたので、頬が柔らかくなりステファニー様お気に入りの頬となった。


体型は幼い頃からコルセットを作り、コルセットの外側に脂肪を真似た形で布を縫いつけた。

年々試行錯誤しながら作り上げていったコルセットは、ふくよかな体型を自然に見せていった。手足を見ればバレるというのに、気がつく者が現れなかったので渾身の出来に仕上がっていたのだろう。


私を指し『醜いアヒルの子』と人々は言ったが、皆は童話を覚えているのだろうか?

アヒルの中で醜いと言われ異端だった雛は、その後成長し美しい白鳥になった。


さて私にとって、周囲に居たアヒルとは誰を指すのだろうか。そのうち聞いてみたいものだ。

誤字脱字変換ミスがありましたら、ご連絡よろしくお願いします。




ヴィオレッタのお話としてはきりの良いとこ迄書けたとは思っているのですが、親世代や婚約者達と色々ネタが浮かんだのでそのうち書くかもです。


色々書い散らしてますので、気になった方は他の作品もよろしくお願いします!

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