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先輩ちゃんと後輩くんたち / サイエンス部の活動日誌 (仮)

作者: 櫻城 優希

「………よし。これで完成、かな?」

「「やったぁー………!」」

 お疲れさまと笑えば「「お疲れさまでした…、」」と後輩くんたちが返してくれる。

「あーっ終わったぁ~……もーむり。もーこれ以上集中出来ない……」

「僕もちょっと、いや、しばらく濃度計算したくないです………」

 そう言いながらぺたりと机に突っ伏す彼らを見て、確かに大変だったなぁと今までの工程を思い出……すのはまだはやいか。

「ほら、まだ片付けが残ってるよ。ちゃんと片付けまで終わらせないと。」

「「 あ。 はい……」」

 私の言葉にすぐに立ち上がる後輩くんたち。

「これってまとめて持っていっちゃって大丈夫ですよね?」

「じゃあオレ先にこっちのビーカーとか片しとくなー」

「うん。お願い。」

「あ、私も手伝うよ。量多いし」

「いやっこっちは大丈夫なんで!先輩は薬品を棚に戻して頂ければ……」

「え?でも」

「すみませんっ!実はオレたち、どこの棚に何が置いてあるってまだ全部覚え切れてなくて……」

「あー………」

 彼が言いたいことはすぐにわかった。

 確かにうちの先生は結構細かい。使った薬品や材料を別の場所へ戻して叱られるのは仕方ない。でも“ラベルが3度ほど左に向いている”のはそこまで怒るほどのものですかね…?“瓶を後ろ向きに置いて何の薬品かわからない”とかそういうわけじゃないんですし……。

 思い出して思わずため息が出た。

 久々に難易度高めな実験と調合だったし、先生のお説教は私含め全員欲しくない。

 ならば答えはひとつ。

「うん、わかった。」

 私がやるねと頷けば後輩くんたちの目が輝き、そして声を揃えて頭を下げた。

「「お願いします!」」


「えっと次は………、っと。」

 薬品カゴの中を確認すれば残っているのは小さな小瓶が1本だけ。それを手に取りラベルを確認。確かこれは………『左2番棚 上から5段目』だったはず。

「ん、あった。ここだ。」


「ねぇー、これってそのまま流していいんだよねー?」

「え?どれ??」

「これ。と、あとこれも。」

「んーいんじゃね?あ、でも水流しながら捨てたほうがいいかも。ほら先輩がさ、“流していい薬品は水を流しながら捨てること”って前言ってたじゃん?」

「あー確かに。じゃあ水を流しながら捨てればいっか。」

「そーそー。あ、ビーカーってそれで最後だっけ?」

「うん。ていうか、これ捨てれば全部おしまいだよ。」

「マジか。そういうことなら捨てちゃおう。もう潔く捨てよーぜ。」

「おっけー。」


 トン。と静かに最後の小瓶を棚に戻す。

 薬品も材料も全てきちんと元あった場所へ戻してラベルもきっちり真正面。

「………よし。終わった!」

 ふう…っと一息ついて準備室兼薬品保管庫からそのまま実験室に繋がっている扉に手をかけ、

「あ。」

 机の上に今日作った魔法薬置きっぱなしだったことを今更思い出す。

 待って。もしかして片付け……えっ、まさか捨ててないよね!?

 マズいっ!ヤバいっ!と慌てて扉を開き、そして目の前の光景に思い切り叫んだ。

「あぁーーーっ!?!!」

「「っ!?」」

「待って待って待ってそれ捨てちゃダメ!!」

「「えっ!?」」

「ピンクの液体っ今日使った魔法薬!実験結果!!一番重要な奴!!!!」

 だから捨てないで!と慌てて止めれば顔を見合わせる2人。

「あの、先輩………」

「えっと………それはこれですよね……?」

「………へ?」

 後輩くんが指差したビーカーには綺麗なピンクの液体。それは確かに先程ようやく作り上げた─今まで頑張ってきた努力の結晶かつ実験結果である魔法薬。

「あれ?じゃあ今手に持ってるのは、」

「あーこれは濃度測定用に作ったカルトロ酸ナトリウムと……何だっけ?」

「希釈済みのツユリ根の煮出し汁。ちなみにオレの魔力込もってまーす」

「この2つを今から捨てようと思ってたんですけど……」

 え、ダメですか?と固まる彼にため息をつきながら私は首を振る。

「ううん、ごめん大丈夫だいじょうぶ。あー、びっくりしたぁ……」

「いやビックリしたのはオレたちもですよ!?勢いよく扉が開いたと思ったら「捨てちゃダメー!!」って!危うく2人でビーカー落っことすかと……っ」

「ほんとごめん……。慌ててたから勘違いしちゃった。あーよかった。」

 ざぁーっと水を出しながら2人がビーカーを傾け始める。

 これがもし魔法薬だったら私はたぶん気絶してたと思う。でもまぁ今捨ててるのはカルトロ酸ナトリウムとツユリ根の………

「ん?」

「先輩?どうかしました?」

「まって。ツユリ根……、魔力込めたって言った……?」

「はい。先輩から言われた通りにちゃんと魔力込めましたけど、え?何、何ですか?」

 あー…………。

「………実は、魔力を込めたツユリ根の粉末とカルトロ酸ナトリウムを水で練ったものに刺激を与えると爆発起こすんだよね………。」

「「…………ぇ、?」」

「ほら、前作った微小爆弾……。あの…あれがそう、なんですよね……」

「「ぇっっ!?」」

 私の言葉に2人の顔色が変わる。

「あの…、先輩が今言った材料……」

「もしかしなくても、今オレたちが流してるこれですよね……?」

 “微小爆弾”。

 それは2人に軽くトラウマを植え付けてしまったかもしれない実験。

 今思い出しても、うん……。あれは本当に

「ごめんね………」

「まって先輩。何でそこで謝るんです?ちょっ、先輩?なんかもう嫌な予感しかしないんですけど??」

 あはは……。どうしてかな? 私も同じこと思ってる。

「いや「あはは……。」じゃないんですよっ!微小爆弾ってあの!?マジで言ってます!?もし仮に今流した2つの液体が反応したら」

「んー……小っちゃい爆発が無数に起きるか、ちょっと大きめにドッカンしちゃうかのどっちかだね。」

「あの…」

「両方ともイヤです!!なんかどうにかして回避する方法は」

「まぁなくはないけど……。でも私、防衛魔法苦手だし……」

「あのっ」

「先輩は魔法全般苦手でしょっ?!ていうかそれ以外ないってこと!?」

「え、っと…そうだね……あ。あとはツユリ根とカルトロ酸ナトリウムが反応しないことを祈るしかな」

「あの!!」

 すみませんっ!と挙げた手でそのまま流し台を─正確には流し台の中央にある排水口を─指差して、

「なんか、さっきから、パチパチ鳴ってるんですけど……」

「「ぇ"……っ、?」」


 彼の科白に全員の目がそちらへ向いたとほぼ同時。


 ──パチッ パチパチッ パチパチバチバチ

     バチバチバチバチッ


「「「あ……っ(察)」」」


   ッ バアァーーーンッ!!!!


「ヒェッ!」 「うっわ!?」 「あぁーっ!!」


 ちょっと大きめどころではない大爆発。

 そして同時に私たちの叫び声が学校中に響き渡ったのだった──。


「先輩ーーーーっ!!!!」

「うわぁぁぁーーー!!!?(泣)」

「2人ともごめんねぇぇーーー!!!!」





  つづくかもしれない。つづかないかもしれない。

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