星脈の戦士
夜空が裂け、黒い霧が林谷市を呑み込んだ。地を震わせる咆哮が、骨まで響く。瀬戸カイトは、AETHER(次元統合防護機構)の実験棟の瓦礫に埋もれ、額から血を流していた。焦げた鉄の匂い、耳を劈く警報。「何だ…この地獄…」
ヘッドセットから、林サラの声が弾ける。「カイト、生きて! カオス・ヴェルムが降下! 星を喰う、最悪の怪物だ!」
カイトは息を止めた。ヴェルム。次元を渡る災厄。黒い霧に赤い棘が蠢き、触れるものを存在ごと消す。その巨体は、空を覆い尽くす。史上最強、史上最悪。
「カイト、ニューロ・コアは!?」サラの声が鋭い。カイトは足元の青い結晶を見つけた。脈動する輝き。AETHERが宇宙から回収した、人類の賭け。「動く…やるしかねえ!」
カイトは結晶を胸に押し当てた。熱が全身を焼き、脳裏に声が響く。「汝の意志、我が力。」低く、底知れぬ声。「誰だ!?」カイトの叫びは、青い波動に呑まれた。体が溶け、意識が星の海へ広がる。銀河の鼓動、時間の奔流が、カイトと一つに。
実験棟が爆砕した。青い結晶の柱が空を貫き、50メートルの戦士が現れる。流体装甲、紫の脈が走る体。波動が大気を震わせ、瓦礫を吹き飛ばす。カイトの意識は、戦士の核に宿っていた。「これが…俺だ!」
ヴェルムが咆哮し、赤い棘を放つ。棘はビルを貫き、空間を歪める。カイトは跳び、波動で棘を砕いた。衝撃波が街を揺らし、AETHERの整備員・田中ユウキが叫ぶ。「カイト!? その戦士、なんだ!?」
カイトはヴェルムを睨み、拳を握った。「お前を止める。」結晶が輝き、言葉が迸る。
「その名を刻め、ヴェクター・パルス!」
戦士の体が青く脈動し、空気が唸った。サラが叫ぶ。「カイト、シビれる! けど、ヴェルムはヤバすぎる! 死ぬな!」
戦いは絶望だった。ヴェルムの棘は次元を切り裂き、存在を消滅させる。カイトは波動で応戦するが、融合の代償が襲う。記憶が欠ける。十年前、ヴェルムに消された故郷。両親の声。カイトは歯を食いしばった。「誰も…失わねえ!」
ユウキの声が響く。「カイト、俺のドローンが弱点探った! 胸の赤い核、ぶち抜け!」ユウキは、ヴェルムの被害で姉を失った男。整備員の執念で、改造ドローンを飛ばす。赤い光がヴェルムを一瞬止めた。
カイトは突進したが、霧の盾に弾かれる。サラが叫ぶ。「カイト、ヴェルムの信号、解析した! 敵じゃない…次元を救う使者だ!」
カイトは凍りついた。ヴェルムの赤い目が彼を見つめる。脳裏に映像が流れ込む。崩れる宇宙、逃げる星、混沌の影。ヴェルムは、滅びを防ぐ使者だった。
「じゃあ、AETHERは?」カイトの視線が、司令官・灰原タケシのモニターに向く。灰原は冷笑した。「ヴェルムの力は人類の未来だ。君は駒だ。」AETHERは、ヴェルムを兵器化する計画だった。カイトの融合も、実験の産物。
サラが叫ぶ。「カイト、灰原を止めて! ユウキのドローンで、核を共振できる!」ユウキがドローンを操り、信号を送信。ヴェルムの霧が晴れ、赤い核が露わに。
カイトはヴェルムに語りかけた。「お前、信じるぜ。」青と赤の波が共鳴し、意志が繋がる。カイトは核に拳を叩き込む。爆発が空を覆い、ヴェルムは光の粒子に変わった。光は次元裂け目を塞ぎ、街を救った。
だが、灰原は逃亡。カイトの記憶は、ほぼ消えていた。サラが駆け寄る。「カイト…誰?」カイトは微笑んだ。「サラ…ありがとな。」戦士は光に消え、次元を追った。
サラは瓦礫に立つ。ユウキが肩を叩く。「あいつ、戻るよな?」サラは結晶を握り、頷いた。「絶対に。」
END