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13度目に何を望む。  作者: 雪闇影
3章

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第79話 深夜の探索と落とし物


 アランとの話し合いの後、ステラから報告を聞いたレティシアは、皆が寝静ままるのを待っていた。

 それぞれが部屋へと向かい、寝たことを気配で確認した彼女は、音を立てないように支度を済ませる。

 そして、誰にも見つかることもなく、部屋の窓から外に出ることに成功した。


『……レティシア、ステラは本当に止めた方がいいと思う』


 夜の街を歩きながら、ステラは忠告するように、レティシアに声をかけた。

 彼女たちが歩く表通りは、水晶で灯りが照らされているが、それでも薄暗く感じられる。

 買ってもらったばかりの首輪に付いた青い宝石を揺らしながら、ステラは不安げな表情を浮かべた。

 それでも、黒いフード付きのロングマントを着たレティシアは、気配を消して透明魔法(インビシブル)を使う。

 そして、できるだけ足音を消して足早に宿屋から離れて行く。


『仕方ないでしょ? ルカはアランの護衛だし、ノエはテオの稽古に付き合って、疲れているんだから』


『そうだけど……ステラはルカ(あの者)が怖い』


 そう言ったステラは、何かを思い出したかのように、ぶるっと身を震わせた。


『それりもステラ、この先なのよね?』


『ええ、この先で不審な男たちが集まって話していたの。その時に、彼らから魔の森で感じた欠片と、似たモノを感じたの』


 レティシアはステラに言われた路地裏に入ると、辺りはさらに暗く、深夜なのもあって誰もいない。

 辺りを警戒しながら、彼女は周囲に光が漏れないように陰影魔法(シャドウ)を使い、灯光魔法(ルミナス)を使った。

 辺りが明るくなると、2人はじっくりと魔法の痕跡がないか、あの紫の破片が落ちてないか隅から隅まで探す。

 だが、魔法の痕跡も、紫の破片らしき物も見当たらない。


『何もないわね……』


『あの時、レティシアと視覚と聴覚を共有すべきだったわ。ごめんなさい』


『ステラ、別に謝らなくていいわよ。まだ私たちが契約を結んで、日が浅いもの。忘れていても仕方ないわ』


『……そうだけど……』


 ステラはまだ言いたいことはあったが、気にしていない様子のレティシアを見て、それ以上何も言えなくなった。

 そのため、少女から視線を逸らすと、彼女は記憶を辿り、男たちが立っていた場所や、歩いていた場所を念入りに探していく。

 すると、壁と地面に挟まるようにして、キラッと光るものが目に付いた。


『ねぇ、レティシア、これはなんだと思う?』


 レティシアはしゃがむと、ステラが指し示す銀色の物に手を伸ばし、それを手に取った。

 その瞬間、灯光魔法(ルミナス)に照らされた月と太陽の魔方陣が描かれたバッジを目にし、彼女は思わず眉間にシワを寄せ、首をかしげる。


『……前にもこれと同じ物を拾ったことがあるけど……これは魔塔に所属している、魔導師のバッジよ』


(……でも変ね……これってそんなに落ちやすいものかしら?)


 冷静な頭でレティシアは疑問に思いながらも、バッジを空間魔法の中に仕舞った。

 これは確かな証拠ではあるが、当時に疑わしい証拠でもある。

 おもむろに彼女は立ちあがり、思考するかのように顎をなでた。


 暗い路地裏は静けさに包まれ、虫の声さえ遠くに聞こえる。

 白を基調とした建物が多い中、この路地裏の建物の色が、元から灰色だったのではないかと錯覚すらしてしまう。

 昼間でも日があまり当たらない場所なのか、それともこの場所特有なのか分からない。

 けれど、風が吹き込めば、背筋がゾクリとなでられ、気味の悪さに鳥肌が立つ。


 しかし、突如として静寂は終わりを告げる。


 夜の闇を切り裂くような甲高い女性の悲鳴が聞こえ、咄嗟にレティシアは振り返った。

 一瞬で彼女の表情は険しいものに変わり、転生で得た経験が思考よりも早く動き出す。

 短く鼻で息を吸い込み、微かに風の匂いに混ざる血の臭いが鼻につく。

 彼女は頭で考えるよりも先に、足が動き出し、悲鳴が聞こえた方向へと駆け出した。


『レティシア! ステラは、行ったらダメだと思う! 戻ろう! レティシアが抜けだしたことを、ルカが気付く前に戻ろう!』


 ステラはレティシアを追い駆けながら、必死に呼びかけた。

 しかし、レティシアが足を止めることはなく、声がした方向に進んで行く。

 悲鳴が聞こえたからか、表通りにある建物の部屋には灯りが灯され始めている。

 黒いロングマントは風になびき、パタパタと音を鳴らす。

 血の臭いはさらに濃くなり、走っていたレティシアとステラの表情がより一層険しくなった。


 噴水がある広場に辿り着くと、人の気配は感じられない。

 レティシアとステラは辺りを見渡しながら、噴水に近寄る。

 すると、噴水の近くで横たわる人影が見えた。


 レティシアは倒れている人の近くまで行くと、無残な姿の女性が倒れていた。

 彼女は女性の首に触れて脈を確かめ、外傷の付近を確かめていく。


(遅かったわね。一見すると刃物で切り付けられたような傷口だけど、よく見ると刃物でできた傷じゃないわ……傷口からして、犯人は人じゃない……これは魔物の刃ね)


 すでに女性が助からないことを確認したレティシアは、空の方を向き、星の位置を確かめた。

 これによって、現時刻がだいたい何時なのか推定することができる。

 それから、彼女は冷静な眼差しで、辺りを隈なく調べていく。


 周辺を調べていると、噴水の近くにある花壇の中に、光る物を見つけた。

 レティシアは持っていたハンカチを取り出し、花壇の中からそれを拾う。

 銀色に光るそれには、月と太陽の魔方陣が描かれたいた。

 先程、路地裏で拾ったものと同じである。

 怪しむようにバッジを見つめていたレティシアは、人の気配が近寄ってきたことで、バッジを元にあった場所に戻した。


 レティシアは浮遊魔法(トリスティク)を使い、ステラと共に高い位置まで上がると、集まってきた人々の動きを眺めた。

 地上では叫び声を聞いて駆け付けたギルド職員や、騎士たちが女性の周りに集まる。

 横たわる女性の生命確認をする者や、動揺して震えている者までいる。

 彼らの1人が花壇に手を入れ、何かを取り出して叫んだ。


「おい! これ、魔塔のヤツらが着けてるバッジじゃないのか!?」


 声が深夜の広場に響き渡り、人々は一斉にその方向を向いた。


「どこにあった!?」


「この花壇の中だ!」


 その声に、周囲の人々はさらに驚きの声を上げ、互いに困惑した顔を見合わせた。

 彼らの間に広がる緊張感が、深夜のリグヌムウルブの街を包む。

 だが、この状況があまりにも不自然にすら感じられ、レティシアは眉を(ひそ)める。


(何かがおかしいわ)


 そう思いながら、レティシアは空中を歩いて宿屋に向かった。

 上空の風が彼女の頭を冷やし、さらに冷静にさせる。

 地上では人々が建物から出て、噴水のことを話していた。

 宿屋にたどり着くと、彼女は静かに窓から入り、彼女の荷物が置かれている場所に向かう。

 そして、荷物を前にして座ると、先程のことを考え始める。


(1日に2つも同じ物が落ちているなんて、なんか変よね? そもそも、魔塔のバッジはそんな簡単に落としたりする物? バッジが落ちていた場所だって不自然だったわ……それに……)


 使用していた魔法を解くこともなく、レティシアは考えふけっていた。

 灯りが点いていない部屋は暗く、けれど月明かりが静かに入り込む。

 しかし、床に座る彼女に、音もなく人影が忍び寄っていく。

 それはまるで闇と同化してたかのように、突如姿を現す。

 すると、ステラは『ひぃっ』っと短く小さな悲鳴を上げた。

 そして、慌てた様子で隠れるようにレティシアのマントに入り込んだ。


 レティシアが突然身を震わせ、額から汗を流すと、彼女はゆっくりと後ろを振り返った。

 そこには、しゃがんでいた人影が、首をかしげて彼女を見つめている。

 その赤い瞳は月明かりに照らされ、怪しげに揺れる。

 レティシアが退路を確認しようとしたが、赤い瞳の視線はそれを許さない。


「ルカ、こんばんは」


 まるで自然にこぼれたかのように、魔法を解いたレティシアはあいさつした。

 しかし、冷たい視線を向けるルカは、ニッコリと作り笑いを浮かべる。

 そして、彼は彼女にも分かるように「空間消音魔法(サイレント)」と唱えた。


「ねぇ? レティシアは、俺と初めて会った時のことは覚えてても、俺が毎回のように言ってることは、覚えてくれないんだね?  なんでなんだろう? 覚えられない理由を教えてくれるかな?」


「わ、私にもいろいろと調べたいことがあるの。い、今はステラがいるんだから、ルカが付きっきりで私に付いてなくてもいいのよ。そ、それに、私に何かあったら、ルカは私の居場所が分かるでしょう?」


 ルカの右耳に着いているピアスを見て、ほんのり顔を赤らめたレティシアは下を向いた。

 一線を引かれたかのようにルカは言われたが、同時に彼女が安心材料を提供する。

 ルカは髪をかき上げて小さくため息をつくと、彼女の頭をくしゃくしゃとなでた。


「ああ、おかげでちゃんと付与の効果を、直に確かめれたよ」


 ルカの右耳には、赤い宝石が付いたピアスがキラリと光る。

 それは昼間、武器屋で買い物をした際、会計するためカウンターに向かったレティシアが買ったものだ。


 宿屋に戻ってから話し合いが終わり、ルカが落ち着きを取り戻した後。

 レティシアはステラの首輪とアランのピアスに、必要な付与を施した。

 それが終わると、赤い宝石が付いたピアスに、付与を施してルカに渡した。

 付与の効果は、彼女の意識と連携し、常に彼女の位置が分かるもの。

 そして、彼女に危険が迫った際は、知らせるというものだった。

 これは最初の人生で生きていた地球のGPSを元に、彼女が考えたものだ。


「収穫はあったか?」


「そうね……少しだけ私の中で整理がしたいわ」


「分かった、報告できるようになったら報告してくれ」


 ルカはそう言うと、空間消音魔法(サイレント)を解き、アランが眠る部屋へと向かう。

 気配が遠ざかると、ステラはマントの中から顔を出し、辺りを見渡してから外に出た。


『……また、怒られるかと思ったわ』


「私もよ……ルカの目を盗んで行動するのは、本当に難しいわ」


 レティシアはそう言うと、立ち上がって窓の近くに移動した。

 宿屋の窓から見える通りには、ギルド関係者や騎士たちが走り回っている。

 微かに聞こえる彼らの声から、ちょっとした騒動に変わっていることが推察できた。


『ステラ、外に出て適当に歩き回ってくれるかしら? その時、視覚と聴覚を共有してくれると助かるわ』


『分かったわ。行ってくる』


 ステラは窓から出て行くと、目的もなく、深夜の街を歩き始めた。

 白い毛並みは軽やかに風になびき、首輪に付いた青い宝石が左右に揺れる。


 ステラとの聴覚共有から、人々の話が鮮明に聞こえ、レティシアは耳を傾けた。

 しかし、聞こえてくる会話に違和感を覚え、彼女の眉間には深いシワができる。


『ねぇ、ステラ。さっき女性が倒れていた場所まで行ける?』


『行けるわよ』


 ステラはレティシアに言われて、噴水がある広場に向かう。

 彼女たちがいた時よりも、人が多く集まっているようにも感じられる。

 それでも、ステラは人混みを避けて端っこを歩き、広場に出た。


 ステラの視覚共有から、レティシアは魔塔の魔導師たちや、騎士たちの姿が見える。

 レティシアはその中に、ラウルの姿がないか探したが、ラウルの姿はどこにもない。


『ステラ、そのままどこかに隠れて、彼らの話を聞いてくれると助かるわ』


 レティシアはそう言うと、力が抜けたようにその場に座り込んだ。


(体が重たいわ……魔の森から帰っても、一向に良くならない……)


 右手で額を押さえるように俯いた彼女からは、短くも荒い呼吸が聞こえる。


『レティシア? 大丈夫?』


『ええ、大丈夫よ。なんでもないから、心配いらないわ』


 その後、ステラは結局朝方まで噴水の近くで待機し、広場に来る人たちを監視していた。

 けれど、その中にラウルの姿はなく、代わりに冒険者ギルド関係者や騎士たちが周辺を巡回していた。


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