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13度目に何を望む。  作者: 雪闇影
3章

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第71話 異なる道程


 神歴1496年7月6日、魔の森に入って5日目。


 アランが率いる討伐隊は、朝方に再び魔物の襲撃を受けた。

 彼らの顔には深い疲労の色が浮かび、足取りはまるで鉛のように重い。

 それが森の中を進む彼らの速度を遅くし、討伐隊の予定を遅らせていく。

 連日の戦闘による疲労が癒えず、次の襲撃がいつ訪れるかも分からない緊張状態。

 夜も襲撃や火の番で、まとまった睡眠が取れない。

 極度のストレスと不安が彼らの心を苛み、積み重なった疲労が無力感となって彼らを襲う。


 まだ魔の森は奥へと進むことができるが、今回の予定では街へと引き返すことになっている。

 そのため、来た道とは別のルートから街のある方角へと向かう。

 今回はその道中にあるポイントで、他の討伐隊と合流して今日まで起きた出来事を報告する予定だ。


 森の中は薄暗く、太陽の光は木々の間からわずかに差し込むだけ。

 日中は気温と湿度も高く、それが彼らの体力をむしばみ続ける。

 彼らは森の中を厚い木々と蔓草をかき分けながら進む。


 肩まである赤髪を1つに結んだ少年と、黒髪の少年が先頭で隊員を鼓舞し。

 ブラウンの髪色をした小さな少女が、明るく振る舞い、隊員を気遣う。

 赤髪でショートボブの男性が、少しでも負担を減らそうと辺りをさらに警戒する。


 足元は湿った苔で滑りやすく、時折、疲労で根につまずく者もいた。

 森の中は静寂に包まれており、鳥の鳴き声や風の音だけが聞こえる。

 隊員の中には、鳥の鳴き声に驚いて肩をわずかに上げる者もいた。

 しかし、その静寂は彼らにとっては、次の襲撃を予感させる不気味な静けさだ。

 それでも、彼らは確実に目的地に向かって進み続けた。


 レティシアたちが合流ポイントにたどり着くと、すでに聖騎士や魔塔から参加している討伐隊が到着していた。

 その他にも、エルガドラ王国の討伐隊や冒険者の討伐隊も到着している。

 彼らはアランが率いる討伐隊の到着を待っていたようだ。


 聖騎士の男性が近付くと、アランに声をかける。


「アラン様お待ちしておりましたよ。時間もないことですし、あちらで話しましょう」


 アランとルカは、何も答えず聖騎士の男性に付いて行く。


 レティシアはアランとルカの姿を目で追い、彼らが向かった方を見ていた。

 どうやら、討伐隊の隊長や副隊長が集まっているようだ。

 それを証明するかのように、他の隊員たちは他の討伐隊と会話している。

 その時、隊長と副隊長が集まっている場所に、彼女は見覚えのある男性が居ることに気が付く。

 そのため、男性と会った時に一緒にいたアルノエに、彼女は口元を隠して話しかける。


「ノエ、あの黒髪で三つ編みの男性に見覚えない?」


 アルノエはレティシアに聞かれ、目を細めて彼女が見ている方を見た。

 そして、隊長と副隊長が集まる場所に、ここ最近会ったことがある男性を見つける。

 三つ編みの男性は、魔塔の魔導師が着るローブを着ていた。

 そのことから、彼は咄嗟に平然を装い、口をあまり動かさずに話す。


「冒険者ギルドで会った方ですね。どうやら彼は魔塔関係者だったようですね」


「そうみたいね。しかもルカたちと話しているのを見ると、魔塔の討伐隊の中では偉い人みたいだわ」


 レティシアは話しながら、集まっている面々を観察した。

 特に口元や目元を凝視し、何を話しているのか知ろうとする。


「ララが拾ったバッジのこともあるので、魔塔と聞くと気になります」


「うん、もし仮に、あのバッジがここ最近あそこで落とした物なら、アランの衝撃は魔塔の可能性も出てくるわ」


「そうなると、先日ララが見つけた破片も、魔塔が絡んでいるのかもしれませんね」


 アルノエは三つ編みの男性が、こちらを見たことに気が付く。

 しかし、それでも彼は態度を変えることはしない。

 あくまで、ただルカとアランを見守っているように装う。


「その可能性は、あまり考えたくないけどね……だけど、それも視野に入れて考えないとだわ」


 レティシアは、過去の経験を活かし、読唇術で隊長たちの会話の内容を探ろうとした。

 だが、彼らは口元を布で隠したり、手で口元を隠している。

 そのため、なかなか口元がハッキリと見えず、会話の内容を知ることはできなかった。



 暫くして話し合いが終わり、隊長たちはそれぞれの場所へと散らばる。

 ルカは真っすぐにレティシアの元へ向かい、彼女の顔を見て何かあると考えた。

 だけど、彼も彼女に報告することがある。


「ララ、ただいま」


 ルカはレティシアの頭をなでると、優しく彼女に笑いかけた。

 すると、彼に向かって彼女が笑いかけてくれる。

 彼は、この笑顔を見られることが嬉しい。

 そのため、自然に頬は上がり、より一層穏やかな顔になる。


「ルカ、おかえりなさい」


『やっぱり、あのバッジは魔塔のだった。同じものを、魔塔の人が付けてるのを確認した。そして、問題はここからだ。俺たちは、ずっと魔物の襲撃を受けながらも、ここにたどり着いた。それにもかかわらず、他の討伐隊が襲撃を受けたのは1度だけで、衝撃を受けなかった討伐隊もあった。だから魔物との戦闘は、基本討伐隊から攻撃を仕掛けて戦ってたそうだ』


 ルカはテレパシーを使いながら、いつもの真顔に戻っていた。

 彼がレティシアとアルノエに話し終わると、3人は表情に出さずに歩き出す。

 様々な状況を考えれば、周りが敵だらけに見える。

 その中で普通に話すのは得策ではないと、3人が考えた結果だ。


『私たちがいるアランの討伐隊が、1番危険なルートを通るって聞いたけど、それでも変だわ……もし帰りも来る時と同じだった場合、誰かが魔物を誘導しているか、刺激している可能性が出てくるわ』


『そうなるな』


『そうなると、犯人はきっとアランを狙っているわ……街に戻っても警戒のレベルは落とさないようにしましょう。――ところで、一応報告するけど、魔塔の黒髪の男性……実は私とノエは先日彼と冒険者ギルドであっているのよ。その時に彼に助けてもらったの』


『そうか、向こうもレティシアとアルノエに気付いてたよ。彼は、ガルゼファ王国のラウル・アル・エヴァンス王子だ』


 レティシアはルカの言い方が変だと感じた。

 彼が淡々と話すのを、彼女は何度も見てきたことがある。

 だけど、今彼の言い方は感情を押し殺しているように感じた。

 そのため、彼の気持ちが知りたくなって、冗談交じりで話し出す。


『そうだったのね……あれよね……こんな時に、こんなことを言ったらダメだと思うけど、パーティーがあるわけでもないのに、他国の王子が良くもこんなに集まったわね。私はいやな予感しかしないわよ』


『奇遇だな。俺も同じことを思ったよ』


『そういえば、テオのこともアランが気付いてるって、ルカは知ってたの?』


『ああ、俺がいるところで、バカ正直にアランがテオドールに聞いたからな。その時に俺もテオドールの本名を知った』


『そうだったのね……まぁ私には関係ないことだけど』


『……そうだといいな』


 ルカはそれだけ言うと、レティシアの頭をポンと軽くたたいた。

 それから、彼は彼女の顔を見ることもなく、アランがいる方に向かう。


 レティシアはルカの発言と行動を不思議に思った。

 そして、軽くたたかれた場所を触りながら、ルカのことを目で追ってしまう。


「ノエ、今のどういう意味だと思う?」


 アルノエは、目の端にレティシアを映しながらルカを見つめた。

 少しばかり、ルカが何を考えたのか、彼には分かった気がした。

 それは彼女のことを見ていて、自然に誰が彼女をどのように見ているか気付いたからだ。

 しかし、ルカが曖昧な返答をした理由も考えると、無責任な発言はできない。


「オレには分からないです」


「私もよ」



 その後、休憩も兼ねて今いる場所で昼食も食べることとなった。

 アランが率いる討伐隊の人たちも、他の討伐隊の人たちと会話は楽しんでいる。

 森の中の薄暗さは昼食の時間にも影響を与えていた。

 木々の間から差し込むわずかな光が、彼らの顔に微かな希望を与える。

 時折、他の討伐隊からは、まだ子どもであるレティシアとテオドールがいることに対し、疑問視する声や否定的な言葉が飛ぶ。

 しかし、レティシアが気にしている様子は見受けらず、代わりにアルノエが彼らに指すような視線を向けている。

 幼いブラウンの瞳は、燃える炎のような髪をした少年の背中に向けられていた。


『ねぇ、ノエ。この後は、私のことよりテオを守ってちょうだい。このことは、ルカにも伝えるわ。頼んだわよ』


 レティシアはそう言うと、視線を手元に移した。


(表には出さないけど、アランは確実に疲れているわ。そのことも考えれば、彼の負担は減らした方が良いわ)


 風は安らぎを与えるかのように優しく、それでいて誘惑するように吹き抜けていく。

 少女の髪は風に揺れてなびくが、彼女の背中には影が落ちていた。


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