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13度目に何を望む。  作者: 雪闇影
3章

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第68話 魔の森の謎


 レティシアは野営の場所まで戻ると、鍋からスパイスや食材の香りが漂っていた。

 料理当番は時折鍋を覗き込み、底が焦げないようにかき回す。

 他の隊員は焚火にくべる枝を運ぶ者や、今日使った武器の手入れをしている者がいる。

 レティシアはルカのとこまで行くと、戻ってきたことを彼に伝えた。

 そして彼女は、彼女のために用意された休息用のテントに入っていく。


 テントに入ると、レティシアは魔法を使ってテント内を清潔にした。

 彼女はテントの中央付近まで進むと、その場に腰を下ろして楽な姿勢で座る。

 そして、先程採取した薬草を麻袋から取り出すと、回復薬を作り始めた。

 空中に丸い水が浮かび、中に薬草を入れて綺麗に洗う。

 それから、薬草から水分を飛ばし、薬草の選別していく。


 今世でレティシアが回復薬を作るのは初めてだ。

 だが、過去の知識と新たにこの世界で読んだ本から得た知識を使い、丁寧に時間をかけて作り上げる。

 暫くすると、抽出や加熱、混合の工程を終え回復薬が完成し、彼女は元々用意していた瓶に入れた。

 それから、5本ある回復薬の品質を、1つ1つ色や味を確かめ、効果を確かめていく。

 彼女が作った回復薬は、上質な中級回復薬が4本と、上級回復薬が1本を作ることに成功していた。


(あの品質の素材と量からじゃ、これが限界か……もうちょっと作れれば良かったけど、とりあえずこれなら数人が1度に負傷しても大丈夫かな……? 1本だけでも、素材が集まって上級回復薬ができたのは大きいわ)


「ララ、入るぞ」


 ルカは木椀を手に持ちながら言うと、テントの中へと入った。

 テントの中に美味しそうな匂いが広がっていくと、レティシアの方からおなかが鳴る音が聞こえた。

 彼はまた彼女が集中して、何かやっていたのだと分かり、しょうがないと思ってしまう。


「待ってても、なかなか食べに来ないから、鍋の中身が終わる前に持ってきた」


 ルカは話しながら、レティシアに木椀とスプーンを差し出す。

 レティシアが受け取ってお礼を言うと、彼は食べ始めた彼女に優しい微笑を向ける。

 彼女が食べている間、彼は彼女が何をしていたのか知るためにテント内を見渡した。

 彼女の近くには中身の入った瓶が置かれていることに気が付くと、何も聞かずにそれを手に取る。

 中身を観察するように見ていると、思わず眉間にシワを寄せた。

 経験上の知識が、普通に売られている回復薬より上質だと語る。

 そのため、声が外に聞こえないように、彼はテレパシーを使って話す。


『これを作ってたのか……これはあまり使わない方がいいな……普通に売られてる物より上質だ』


『使う機会がないのが、1番だと思っているわ』


『レティシアの言うところの保険か?』


『ええ、そんなに作れなかったから、完全に保険ってところよ。思っていたより、魔の森で採れる薬草が少ないの。――ところで、テオの様子は? 今日の朝も、ルカとアランで稽古をつけていたのでしょ?』


 レティシアは食べる手を止めて言うと、ルカの顔を見た。

 それは期待や心配からではなく、純粋に彼がテオドールのことを、どう感じてるのか知りたかったからだ。

 実際、レティシアはテオドールの行動は、彼女が想像していた以上にお荷物だと感じている。

 それは、護衛対象であるアランが、戦闘中に彼を庇うのも大きい。

 そのため、この状況が続くのを、彼女はよく思っていなかった。


『ああ、アランが気にしてたからな……でも、あれはダメだ……』


 ルカは、首を小さく左右に振りながら言った。

 テオドールのことを考えれば、8歳の子どもにはこの現状は酷なことだ。

 そのため、口では生死を気にしないと言っても、少年のことは気になる。

 それは、少年が彼の過去と重なり、知らないフリができないのも大きい。

 しかし、それでも覚悟も戦う意思も見せないのは、違うと彼は思う。

 だからこそ、彼は呆れたように続きを話し出した。


『魔物を恐れるのは子どもだし、初めてだから仕方ない。だけど、剣を抜かないのも、魔法を使わないのはダメだろうな……さっきそのことで、アランからこの先は危険だと言われたところだ』


『そう……それなら仕方ないわ。私たちが護るべき相手は、テオじゃなくてアランだもの』


 レティシアはルカの話を聞いて、事実を述べた。

 それは彼女が以前彼に言われた言葉であり、今の状況で最も優先すべきことだと考えたからだ。

 そして、その言葉は彼女自身に言い聞かせる言葉でもあった。

 この先のことを考えれば、考えるほど、優先順位を間違えれば被害が大きくなる。

 だからこそ、間違えないために決めておきたかった。


『ああ、引き返す隊員がいれば、そこにテオドールを加えてもらうつもりだ』


『そうね……アランにいらない心配を掛けるくらいなら、その方がいいわ。アランも、テオのことを気にしているみたいだし』


『そうだな、アランは仲間には優しいからな』


 ルカはアランの護衛を初めてした時のことを思い出して、ふわっと微笑んだ。

 当時のルカは、子どもの護衛は2回目だったが、レティシアの次にアランを護衛した。

 そのため、わがままで、自分勝手でうるさい子どもだとしか、彼は思わず腹立たしかった。

 比べるのはダメだと分かっていても、彼はアランとレティシアを比べていたのだ。

 それでも、ルカを置いて逃げたりせず、ルカが怪我すれば手当てをする優しい子どもだった。

 その結果、今回の依頼は断ることは不可能じゃなかったが、アランを思ってルカは請け負ったのだ。



 レティシアは食べ終わると、木椀を置いてショルダーバッグを手に取った。

 彼女は薬草を採取している時に拾った紫色の破片をバッグから取り出し、ルカに見せながら聞く。


『ねぇ、これどう思う? さっき、薬草を採りながら見つけたの。ルカは、これがなんの破片か分かる?』


 ルカは破片を手に取ると、テントに付いてるランプの光にかざす。

 すると、破片を持ちながら彼は、思わず顔を(しか)める。

 破片から感じる気配に、彼は不快な気持ちになったのだ。


『いや、何かの武器の装飾品にしては魔力を通さないし、逆に何かが流れてくる気がする……』


『私も同じように感じたわ。それの他に、同じような物を2欠片この森の中で見つけたわ』


 レティシアはそう言って残りの破片を取り出すと、持っていたくなくて地面に置いた。


 ルカは不快感が増し、破片を地面に置くと破片を睨み付ける。

 そして強度を確かめようと、短剣を取り出し柄頭の部分で破片を叩いた。

 破片はさらに粉々になり、最終的には砂のように消えていく。

 決してルカが力強く叩いたわけではない。

 それにもかかわらず、破片は粉々になってしまった。


 その様子を見ていたレティシアとルカは驚き、2人は目を見開いて顔を見合わせた。


 レティシアはもう1欠片を魔法で宙に浮かせると、今度は魔法での破壊を試みる。

 すると、破片はある程度の魔力を吸い込み、徐々にヒビが入った。

 そして先程ルカが叩いた時のように、粉々になって砂のように消えていく。


『変だわ……何かの装飾品なら、こうなったりしない……魔核や精霊核だって色も違うけど、こんな風に消えてしまわないわ』


『ああ、明らかに変だ』


 レティシアは本や過去の知識から、この破片の正体に近い物がないか考えた。

 だが、すぐに思いつかず、眉間にシワを寄せてしまう。

 暫く考えても、それでも思い当たる物や、似たような現象が思いつかない。


 ルカは腰に着けていた小さな鞄から、小瓶を取り出し残っていた1欠片を瓶の入れた。

 そして、彼は冷静に落ち着いた声でレティシアに言う。


『アランにも、この破片のことを報告してくる』


『ええ、お願いするわ』


 レティシアはルカに頼むと、テントを出て行くのを見送った。

 そして、彼女は彼が出て行くと、テントの入り口を開けてテント内の空気を入れ替えた。

 そのくらいレティシアは、あの破片に嫌悪感を抱いたのだ。


(やっぱり、この森は何かが変だわ)


 森の方をレティシアは目を細めて見ながら思った。

 夜の森は闇が広がり、大きな口を開けて獲物を待つようにも感じる。

 風が木の葉を揺らし、カサカサとまるで誰がいるように音を立てる。

 それでも彼女は、真っすぐに暗闇を睨み付けていた。


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