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13度目に何を望む。  作者: 雪闇影
3章

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第57話 報告と疑惑の影


 フリューネ家と比べたら狭い木造の家は、部屋数が多くても人の温もりを感じることができる。

 各部屋は個々の性格を反映しており、それぞれが異なる生活感と温もりを放っていることだろう。

 ほのかに生活感のある匂いが広がり、譲り受けた家具たちが味わいを持つ。

 人が集まるダイニングは、大きなテーブルと6人分の椅子が置かれている。

 木造の床は綺麗に掃除され、掃除した者の性格を表しているようだ。


 レティシアとルカが家に入ると、2人は廊下を進む。

 階段の所まで行くと、ルカは足を止めて唐突に口を開く。


「レティシア、集まりに参加するのか?」


「私の家に関する報告は聞くわ」


「そっか……分かった。またあとで」


 ルカは少し視線を下げて言うと、レティシアの方を見て彼女の頭を軽く2回たたいた。

 そして、彼は考えるようにして、書斎として使っている部屋へと向かう。


 レティシアはルカにたたかれたところを触ると、彼の行動を不思議に思って首をかしげた。

 廊下を進む彼の背中を見つめ、書斎に消えるのをただ見ていた。

 書斎のドアが閉まると、彼女は2階へと続く階段を上がり部屋へと向かう。


 レティシアは部屋に着くと、窓の近くに置かれた机の上から本を手に取った。

 積み重ねられた本は、どれも医療や付与術に関するものだ。

 部屋には机と椅子があり、他にはシングルのベッドとクロゼットがある。

 部屋の大きさと、8歳の少女の部屋だと考えれば、殺風景に感じる部屋だ。

 彼女は時間になるまで、本を読んで待つことにした。



 広々とした居間には大きな石造りの暖炉と、長年使われてきた木製の家具があった。

 窓に近い1人掛けのソファーにルカが足を組んで座っており、彼は手に持った書類に厳しい視線を向けている。

 テーブルを挟んで置かれた2台のソファーには、それぞれ騎士団のロレシオとニルヴィスが座っていた。

 レティシアを呼びに向かったアルノエが部屋に入ると、2人は別々に空いている席に向かう。

 アルノエはロレシオの隣に座り、レティシアはニルヴィスの隣に腰を下ろす。


 ニルヴィスは2人が座ると、慣れた手付きでティーカップに紅茶を注ぐ。

 部屋には新たに紅茶の香りが広がり、2人の前にニルヴィスはティーカップを置いた。

 レティシアはカップを手に取り、紅茶を口に運ぶ。

 その間にルカは書類をサイドテーブルに書類を置くと、話し始める。


「空間消音魔法(サイレント)をかけたから、普通に話して大丈夫だ。それぞれ報告を頼む」


 ルカが淡々とした様子で言うと、ロレシオは膝の上で手を組み真剣な面持ちで話す。


「それでは、俺から報告します。早速ですが、ジョルジュ様の報告によりますと、未だにフリューネ家前当主様の居場所が分かって居りません。ですが、エディット様は現在も延命治癒によって、生き長らえて居ります。次に帝都に居るスキア隊からの報告ですが、帝都で起きた奇病の原因も、未だに分かっていないとのことです。そして、極一部の貴族間でエディット様が奇病に罹っている話が、話題に上がっていると報告を受けました」


「あ~。それはボクも参加したパーティーで聞いたなぁ~。まぁ、ボクもそれに関する報告なんだけど……そのことで、レティシアちゃんの行方を捜してる人たちが、複数人いるみたいなんだよねぇ~」


 ニルヴィスは頭の後ろで手を組み、いつもの調子で言った。

 ロレシオはニルヴィスの話に軽く頷くと、さらに話を続ける。


「ああ、それに関しても、騒いでいるのはエディット様の奇病について話している貴族たちだ。ダニエル様が帝都の屋敷に入れないのは、どういうことだって騒いでたからな。それでレティシア様が姿を消しているのは、オプスブル家に連れて行かれたんじゃないのか、と疑っている人もいる」


「あ~。その騒いだのだって、あの子どものことでしょ~? でもさ、エディット様に付き添ってるリタやジョルジュ様は、今もエディット様の子どもじゃないって否定してるんでしょ?」


 ロレシオは眉間に眉を寄せると、悔し気に膝の上で拳を握った。

 エディットが話せない状況で、偽りの話が出回っている状況に彼は憤りすら感じる。

 しかし、彼にはどうすることもできない。

 彼は腹立たしい気持ちと、苦しい胸の内を吐き出すように言う。


「そうだ、だが違うと証明ができていないんだ……」


「ふ~ん? でも別宅には、入れないでしょ? だってエディット様の次はレティシアちゃんなんだし。そもそも、帝都の別宅は、前当主様と現当主様、そして次期当主様の誰かと一緒か、許可がないとは入れない。それが、フリューネ家の決まりのはずだよね?」


「そうだが、皇帝陛下がレティシア様の継承に対し、未だに認めたとも言っていない。もし本当に子どもがエディット様のものであれば、継承問題で彼が次期フリューネ家当主だ。そうなれば帝都にある別宅に入る資格は、幼い子どもの親であるダニエル様にも、あることになる」


 レティシアはロレシオとニルヴィスの話を聞いて、当時のことを思い返しながら思う。


(弟ね~。お母様は、ダニエル(あの人)との間に子どもを作るつもりは、もうないって言っていたわ。それに彼が生まれた時は、お医者も産婆様もいなかったと聞いた。お母様のおなかが延命機の中で、膨れていたと聞いたけど……。正直に言って、お母様が産んでない証拠もないけど、産んだという証拠もない。それに、お母様の子どもだと言っているのは、ダニエル(あの人)と教会の人たちだけ……少なくとも、子どもの年齢を考えれば、私がいた時にそういった行為がなければ、できないわけだし……ダニエル(あの人)がお母様の部屋に入る時は、ピアスから部屋の状況を聞いていたのに、私はそういう行為があったのを、聞いていないのよね)


「あの、タヌキ親父め」


 先程まで会話をただ静かに聞いていたルカは、吐き捨てるように言った。

 すると、突然のことにレティシアたちは目を見開き、彼に全員の視線が集まる。

 しかし、ルカは少しだけ苛立った様子を見せながらも、気にするなとでも言うように手を軽く上下に振ると話し出す。


「俺からの報告だ。先日、報告も兼ねて皇帝陛下と会ったが、その子どものことも、レティシアの話も、一切話題に上がらなかった。だから、俺からその話を振ったけど、のらりくらりと軽くかわされた。それで仕事を依頼されたんだよ。まぁ、内容が内容だけに、断ることはできなかったけど」


「その仕事というのは?」


 ロレシオは眉間にシワを寄せて聞くと、ルカは一瞬だけレティシアに視線を向けたが、またすぐにロレシオに視線を戻した。


「内容までは言えないが、エルガドラ王国での仕事だ。1つは6年前の続きだと思って構わない。――それで、だ。オプスブル家のこともあって、皇帝陛下から提案があった」


 ルカは提案されてから、6年前レティシアと離れていた時期のことを思い出していた。

 あの頃と今では状況も違えば、互いの気持ちもきっと違う。

 それでも、また離ればなれになることを考えれば、彼の胸は重りが入っているように重い。

 ルカは重たい気持ちや不安を吐き出すように、息を吐き出し、レティシアの方を向いて話す。


「陛下からの提案というのが、教会やダニエルの行動が全く読めないことから、レティシアを一緒に連れて行くのはどうか? ということだった。それで……レティシア、俺と一緒にエルガドラに来てくれないか? 決して安全じゃないが、貴族たちも動き出したのなら、ここに残るよりかは安全だと思う……。いや、正直に話せば、俺は一緒に来てくれた方が安心できる。それに、魔塔に関しても、この国よりも情報が入ると思う。どうだ?」


 ルカに尋ねられたレティシアは、カップとソーサーを手に持つと、少しずつ飲んだ。

 紅茶の香りが広がり、彼女の気持ちを落ち着かせ、思考がクリアになる。


(エルガドラ王国……確かヴァルトアール帝国の友好国よね。このままマルシャー領に残っても、ルカが帰るまでは魔法や剣術を鍛えるだけだと思う。正直……今の状況はいろいろと情報も足りなくて、行き詰っているわ。確かに教会やダニエル(あの人)の行動も読めない……それに、もしここに貴族たちが押し寄せたら、皇后陛下にも迷惑が掛かる。……それなら、ルカと一緒に行った方が良いのかもね……)


 レティシアは考えをまとめると、カップとソーサーを机に置いた。

 そしてブラウンの瞳で、真っすぐにルカを見て答える。


「いいわ。私も行くわ。調べたいこともあるし、もしここに貴族たちが押し寄せて、私がここに居たら、私だって分かる人がいなくても、皇后陛下には迷惑が掛かると思うし」


 ルカはレティシアの言葉を聞き、ホッと胸をなで下ろした。

 一瞬だけ彼女に微笑みかけると、彼はまた真剣な顔して言う。


「レティシア、ありがとう。それじゃ、ニルヴィスとロレシオは、引き続きこっちに残って情報収集を頼む。ニルヴィスは、引き続きパーティーとかにも顔を出してくれ。ロレシオは騎士団と連携を取りながら、帝国の奇病とエディット様のことを頼む。俺がエルガドラに行けば、また連絡が付かない状況になるかもしれないが、こっちから連絡できるときは連絡を入れる。アルノエは悪いけど、俺に付いて来てくれ」


「かしこまりました」「分かったよ~」


 ロレシオとニルヴィスは返事すると、立とうとしてわずかばかり腰を浮かせた。

 その瞬間、今まで空気と化していたアルノエが、存在を証明するように大きな声を出す。


「あの!! オレ空気になってましたが、オレもちゃんと報告がございます!」


 その場にいた4人は彼の声に驚き、彼らの顔からはその様子が見られた。

 しかし、ルカがすぐに真剣な表情になり、「話せ」と短く命じる。


「ありがとうございます――実はレティシア様に言われ、ダニエル様の愛人について改めて調べました。彼女に娘がいるのは、以前にも報告を受けていると思いますので省きます。……少しだけ気になる名前でしたが……」


 アルノエが気まずそうに、レティシアを見ながら言った。

 すると、レティシアは片眉を上げて、不満げに聞く。


「何よ? 気になるじゃない」


「……少々申し上げにくいのですが、お名前が “ライラ” だったので、今のレティシア様と似ているなぁっと……」


 レティシアは名前を聞いて、どうでもいいと思った。

 普段の彼女が使っているララという名前は、所詮は偽名である。

 そのため、直接的な被害はないと考えたからだ。

 そして彼女は、たとえ親が不倫で子どもを作っても、子どもは関係ないと考えている。


「あら、子どもにはなんの罪もないわ。私に牙を剥かなければ気にしないわよ」


 アルノエは、興味なさそうに話すレティシアに安心した。

 気持ちが軽くなった彼は、続きを話し出す。


「それなら大丈夫です! では、報告を続けます。その愛人というのが、ラコンプ男爵家の娘でした。彼女はラモルエール伯爵家やロワール侯爵家と親しい間柄だと思われます」


 ルカは肘掛けに頬杖をつきながら、アルノエの話を聞いていた。

 しかし、気になる名前が出たことによって、彼の感情はストンと消え去る。

 そして、アルノエを見る彼の瞳は、氷のように冷たいものになる。


「親しいとは、どの程度だ?」


「頻繁にお茶会へと呼ばれるくらいには、親しい間柄だと思われます」


「……なるほどな。そうなると、最悪ラコンプ家は魔塔とも繋がってるわけか……」


 ラモルエール伯爵家やロワール侯爵家は、貴族の中でも魔塔と深い関わりがある。

 今のところ、ダニエルがエディットに贈った指輪が1番怪しい。

 そのため、指輪に何か仕掛けがあるとすれば、日頃からそういった研究をしている魔塔が、関与していると考えるのが自然だ。


「そうだと思います」


「後で、オプスの方でラコンプ家の周辺を探るように、指示しておく。お前たちはラコンプ家から手を引け。フリューネ騎士団が動いたことによって、これ以上エディット様の身を危険には晒せない……それと、レティシア、アルノエ、よくやった」


(お母様の病にも、魔塔が絡んでいる可能性があるのなら、あの指輪に秘密があったことにも納得ができるわ……私が調べたかったことでもあるし……でも、もしそうなら、双方の利害が一致する目的は何? 教会に続いて、魔塔ねぇ……)


 レティシアは話を聞きながら思うと、眉間に深いシワが寄る。


「他にないなら、今日は以上だ。今月末にはエルガドラに出発する。帰国は仕事が片付き次第だ」


「りょ~かい」「「承知いたしました」」


 話し合いが終わり、食事を済ませたレティシアは部屋に戻った。

 彼女はそのまま部屋の中央に向かい座ると、彼女の周りに魔力遮断結界(センディセプタ)を張った。

 それから、透明魔法(インビシブル)と陰影魔法(シャドウ)と空間消音魔法(サイレント)を使う。

 そして、フリューネ家に居た頃のように、魔力を溜める準備していく。

 ただあの頃と違うのは、あの頃は宝石に魔力を溜めていたが、今はギリギリまで放出することだ。

 その理由は、宝石のほとんどをフリューネ家の書庫に置いてきたためである。


(お母様……今回の報告でも生きていたわ……お母様を救うのに、後どのくらい猶予があるのかしら……)


 レティシアは今もあの頃と変わらず、魔力量と魔力コントロールを磨いている。

 まだ間に合うなら、エディットを助けたい……その気持ちが彼女を突き動かす。


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