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13度目に何を望む。  作者: 雪闇影
2章

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第27話 幼女と騎士団


 神歴1489年11月22日。


 レティシアは、外がまだ暗い時間に目覚めた。

 彼女はベッドの上でまだボーっとする頭でぼんやりとしていたところ、突然ドアをノックする音が部屋に静かに響く。


「レティシア様、第1騎士団所属アルノエ・ワーズです。起きていらっしゃいますか?」


 部屋の外から、絵本を読み聞かせるような落ち着いた声が微かに聞こえた。

 きっと寝ていたら、気が付かなかったのかもしれない。

 それくらいに、落ち着いた声だった。


 そんな声に気が付いたレティシアは、まだ眠たい目を擦りながらゆっくりとドアの方を見つめ。

 眠そうな声で、囁くように静かに返事す。


「……おきてる」


 レティシアが起きていることを確認すると、ドアの向こうからアルノエの安堵するような息遣いがした。


「失礼します」


 静かにそう言ってアルノエがゆっくりと部屋に入ってくると、彼の目がまだベッドの上にいるレティシアを見つける。

 そのことで、彼女が起きたばかりなのだと気が付くと、彼は申し訳なさそうに話し出す。


「早朝にもかかわらず、突然の訪問で申し訳ありません。我々、第1騎士団の訓練は早朝から訓練を始めるので、どうかと思ったのですが……。先日レティシア様とお話しした時に、訓練の様子が見たいと仰っておりましたので、団長に相談したところ、エディット様の許可も下りましたので本日参りました。しかし、やはり時間的にお着替えの方もまだのようなので、次は予定を伺ってからにいたします」


「んーん! いく!」


 レティシアはそう言うと、急いでベッドから飛び出そうとしたが、足元が滑り、床へと転落しかける。

 しかし、その瞬間、アルノエは床にぶつかる寸前の所でレティシアを受け止めた。


「ッ!! レティシア様、大丈夫でしたか!?」


 心配して聞いてくるアルノエに対し、まさか落ちるとは思っていなかったレティシアは、突然のことに驚いて、ただ首を上下に振る。

 けれど、彼女は恥ずかしさから彼を押しのけると、逃げるように衣装部屋へと駆け出した。


 衣装部屋に入ったレティシアは、胸に手を当てながらもう片方の手で顔を扇いで、火照った顔を冷まそうとする。

 しかし、激しく動く鼓動が、火照った体を冷まそうとしない。

 彼女は大きく空気を吸い込むと、ゆっくりと吐き出しながら、気持ちを落ち着かせようとした。

 しばらく繰り返すと、やっと落ち着いたのか、彼女はかかっているドレスを見上げる。

 だけど、彼女は1人でドレスに着替えることができない。

 奥の方に進むと、裾の長い冬物のケープが掛かっているのを見つけると、レティシアはケープに手を伸す。


 魔法を使えば簡単にとれる。

 そのことを分かっていても、彼女はアルノエが部屋に居ることを考えて、つま先で立つとわずかに掴んだ裾を引っ張た。

 けれど、落ちないように掛けられたケープは、落ちてこない。

 すると、近くまで来てレティシアの様子を見ていたアルノエが口を開く。


「そちらのケープでしたら、分厚い物なので、まだ時期的にも早いと思います。レティシア様のお許しを頂けるのでしたら、私のマントで包んでもよろしいでしょうか? 本日マントをおろしたので、一応新品なのですが……」


 レティシアは少しだけ考えて「うん」っと頷くと、アルノエは「ありがとうございます、失礼します」と笑顔で言った。

 それから、アルノエはマントを外し、ふわっと彼女をマントで包んだ。

 彼はレティシアを抱き上げると、ドアに向かう。

 けれど、レティシアが途中で机の上に置かれた紙に、気が付いた。

 彼女は不思議そうに彼の顔を見ると、アルノエは優しく微笑んだ。


「私が、レティシア様を訓練場にお連れしているので、心配がないことを書いておきました」


(私が居なかったら、アンナがびっくりするだろうからそのためか……)


 メイドに対しても、さり気ない気遣いから、彼の優しさをレティシアは感じた。


 ◇◇◇


 魔法で照らされた訓練場に着くと、アルノエはベンチにレティシアを座らせた。


 彼はレティシアと目線を合わせるかのようにしゃがむと、彼女に魔法をかける。

 魔法の感じからして、防御結界デフェンセィオ・オビセが使われたのだろう。


「訓練中は、ここでお待ちください」


 アルノエはそう言って立ち上がると、彼は訓練に参加しに向かう。


 午前中にルカと見た訓練風景とは違い、今訓練している彼らは真剣を使って激しい打ち合いをしている。

 その様子からだけでも、この後で訓練するであろう騎士たちとの、レベルの差をレティシアは感じた。


(第1騎士団の訓練は、朝が早すぎてルカと来れなかったもんね……。このレベルなら、ルカが騎士たちに指導をお願いされることも、なかったのかもしれない。それに……、防御結界デフェンセィオ・オビセを使うってことは、それだけで危険があるって言っているようなものだからね)


 レティシアはそう思うと、先日のことを思い返した。


 先日、初めてアルノエと会った日。

 彼と庭で待っていたレティシアとアルノエは、エディットがやってくると3人でお茶の時間を過ごした。

 その時、レティシアはエディットから、護衛の話をされている。


「レティ。もし今回ルカが来なかった場合、あなたの護衛はアルノエにやってもらうつもりよ。だから、早く慣れるように、庭園を出歩く時は彼に護衛してもらってね? 事前に彼の予定を、聞かなければならないけど……そこは、上手くやってくれると、助かるわ」


 レティシアはこの時、静かに頷くしかなかった。

 まだルカが来ないとは、決まっていない。

 しかし、エディットの発言はルカが来ない確率が高いと、言っているようにも彼女は感じた。

 そして、アルノエが今朝レティシアを誘ったのも、彼なりに彼女との距離を少しでも縮めたいという気持ちと、彼女のことを心配している気持ちも、含まれていることが分かる。


 先日のことを考えていたレティシアは、思わずため息をついた。


『レティシア、元気ない?』

『レティシアだ!』

『れてぃしあだ!』

『レティシア、キター!』

『きたー! きたー!』


 彼女の周りには、いつの間にか精霊たちが集まっていた。


 テレパシーを使って精霊たちと彼女は会話を始めるも、目線の先には騎士たちが映る。


(やっぱり、全然動きが違うわね……。それに、午前中に見た騎士たちより、明らかに魔力量も多い。みんな一定の量で魔力を体に(まと)っているから、多少剣先が肌に触れたくらいじゃ、怪我もしない。完全に彼らがしているのは、実戦を想定した訓練だわ……。それなのに、アルノエが私を護衛してもいいのかな……?)


 レティシアはそう思いながらも、まだまだ続くであろう訓練を眺めながら、精霊たちと話していた。

 そんな彼女の様子を、アルノエは訓練の合間合間に観察していた。



 朝日が昇り始めると、訓練を終えたアルノエや、他の騎士たちがレティシアの方に足早に向かってくる。

 そのことに気が付いた精霊たちは、レティシアに別れを言うと、逃げるようにいて飛んでいく。


 騎士たちはレティシアの近くまで来ると、彼女のことを観察してから一斉に話し出す。


「本当に小さいなぁ~」「ぅわあ~。俺初めて会ったよ」「へぇーこの子がレティシア様か」「ちぃーせぇー」「ほっぺ触りてぇー」


 その様子にレティシアは、どれから答えるのか、どう答えていいのか分からずに困惑した。

 そこに遅れてやってきた赤茶の髪の男性が、大きな声を出しながら近付いてくる。


「おい!! おまえら訓練は終わりだ! 暇ならとっとと各自持ち場へ戻れ!! まったく……」


 そう言われた騎士たちは、小言を言いながらも足早に退散していく。

 赤茶の髪をした男性は、ため息混じりに乱れた髪をかきあげると、騎士たちが戻っていくのを眺めていた。

 けれど、暫くして彼はレティシアの方に向き直すと、胸に手を当ててあいさつする。


「レティシア様、私の部下が大変失礼しました。私は、第1騎士団で団長しております、ロレシオ・クローリーです。この度は、早朝にもかかわらず、我が隊の訓練の様子を見学してくださり、感謝申し上げます」


 そう言ったロレシオは、細めの目で真っすぐにレティシアを見つめる。

 彼のオレンジブルーの瞳は、夕日のような温かみがあり、けれど光の角度で深い緑にも見える、不思議な色だった。

 丁寧にあいさつしたロレシオに対して、彼と一緒に歩いてきたダークグリーンの髪をした青年は、ロレシオの肩に手を置きながら、もう片方の手を、ひらひらとさせている。

 それは、まるで自由に空中を舞い、風に乗っている葉のようだ。


「も~、ロレシオは堅苦しいんだよ~。ボクは、ニルヴィス・アルディレッドだよ。一応副団長してるけど、よろしくね! ニルでもニヴィでも、好きに呼んでいいよ~レティシアちゃん」


 ニルヴィスはダークグリーンの瞳をレティシアに向ける。

 その瞳は深い森の奥のように、秘密を隠し、けれど全てを見透かしているような色だった。

 だけど、ハーフアップにまとめ、少しだけウェーブがかかった同じダークグリーンの髪が、まるで深い森に吹く風のように感じられ、レティシアは彼のことを自由な人なのだと思った。


「ニルヴィス!! おまえが軽すぎるんだ! せめてあいさつだけでも、ちゃんとしろ!! 大変申し訳ありませんレティシア様!」


 少年のような無邪気さで、ニコニコと笑いながら話しかけたニルヴィスに対し、ロレシオは叱ると、レティシアに向かって深々と頭を下げて謝った。


(……私に対してもちゃんとしているのを見ると、ロレシオは生真面目な人なんだろうなぁ。まぁ、私は屋敷で働いてる人たちが、私に対してかしこまらなくてもいいと思っているから、ニルヴィスの態度なんて気にしなくても良いんだけど……。この雰囲気じゃ、それを伝えることはできなそうね……、どうしよう)


 レティシアはそう思いつつ、少しだけ場の雰囲気に押されて、レティシアが曖昧な表情を浮かべると、アルノエが見兼ねて助け舟を出す。


「レティシア様、そろそろお部屋へ戻りましょう」


 これまでほとんど存在感がなかったアルノエがそう提案すると、彼はレティシアの返事を待たずに、ロレシオとニルヴィスに向かって「失礼します」っと一言だけ告げて一礼した。

 そして、レティシアを抱き上げると、屋敷の方へと歩き始める。


 後ろからニルヴィスの元気な声が響き「レティシアちゃ~ん! またね~」っと大きく手を振っている。

 それに対し、レティシアは小さく手を振って「またね、ニヴィ」と静かに呟いた。


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