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13度目に何を望む。  作者: 雪闇影
1章

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26/227

*ルカside


 オプスブル侯爵家。


 侯爵という貴族階級と帝国から与えられた領土があり。

 オプスブル領の名産品といった領土としての収入源も充分に確保されてる。

 なので領民の生活も安定してて、彼らが空腹の心配をすることもない。


 名産の他に、オプスブル家が所有する事業も複数ある。

 そのため、昔から様々な事業を幅広くしてる成金貴族と誤解され、そう言われることも多い。


 そうだったら良かったのに……っと今なら思う。


 オプスブル家が展開してる多数の事業の中には、家の裏側の一面を示す暗殺や諜報といった秘密の活動に深く関わってるものが数多く存在する。

 これらの事業は、オプスブル家の裏の顔を形成してる。


 そんなオプスブル領には、オプスブル家から特定の任務を割り当てられ、指示に従って働いてる者たちが存在する。

 彼らは、一見すると普通の領民のように見えるが “オプス族” 呼ばれてる。

 彼らが行う主な仕事は、表向き護衛や警備といった誰かを守る仕事だ。

 勿論、その人に合った仕事を、割り当ててる。

 だが、その多くは諜報や暗殺といった、帝国の汚れ仕事をしてる一族。


 1つの国が綺麗事だけで、成り立つわけがない。


 そのため、他国で裏稼業を生業にしてる集団からすれば、オプスブル家に牙を剥く者はヴァルトアール帝国に牙を剥くのと、同等であると言われる。

 それでも、オプスブル家に手を出す者は、少なからず存在する。

 そんな彼らの目的の背景には、ヴァルトアール帝国を乗っ取るか、滅ぼそうとする動きがあるのだろう。



 そんな、オプスブル家から最も愛され、ヴァルトアール帝国の命令より優先し仕える家が存在する。


 それが “フリューネ侯爵家” だ。


 オプスブル一族が、なぜ貴族階級が同格のフリューネ家に従えてるのか、そのいくつかの理由を分かってる。

 けれど、理解ができない理由も多い。



 昨日、フリューネ領付近の仕事を割り当てていた祖父から、通信魔法道具で今日連絡が入った。

 それは、父さん宛てに緊急要請を願うものだった。

 父さんで事が足りるなら、緊急要請は不要だろうと判断し断る趣旨の連絡を入れる。

 それに対して祖父は、父さんを呼べば俺が付いて行くと思ったこと。

 また、まだフリューネ家に頭領が変わった説明を、俺がしてないことで、俺の名前が出せなかったことを祖父に謝られた。


 誓約を結んでいる再従兄に、俺の仕事を何個か割り当ててから、叔母の旦那であるジャックに家の指示を出した。

 そして、気が進まないが、我が一族が代々仕えているフリューネ家に向かう準備をする。


 フリューネ家には、まだ頭領が変わった報告を告げるべき時期ではないので、父さんには指示を出し。

 あくまで “親子” のように振る舞うように念には念を押した。



 俺が生まれてから、父さんと母さんは俺を愛してくれてた……と思う。

 だが、力を多く引き継いだ時に生まれてくる、オプスブル特有の黒髪に赤目で俺が生まれた。

 このことで、前頭領の祖父からの指示で、俺が3歳になってから訓練や鍛錬をやらされることになる。


 その頃になると、両親は俺と顔を合わせようとしないし、たとえ顔を合わせても、彼らから言われるのは決まって。


『オプスブルとして生まれたからには、

        他者に弱みを見せるな』


 という言葉だけだった。


 どんなに頑張ろうと、褒めてくれる者などいない。

 ただ、オプスブルに生まれただけなのに……。

 そのオプスブルに生まれたからには、できて当たり前だった。


 “できないならお前なんていらない”


 言われてないのに、周りの視線や、態度で、ずっとそう言われてる気になる。


 鍛錬や訓練の中には、捕らえられた時のために、拷問や尋問に耐える物もあれば。

 領地の近くにある魔の森に、ナイフ1本を渡されて放り込まれたこともあった。

 けど、1番つらかったのは毒の耐性を付けるために、常日頃から毒の摂取を義務付けられたことだ。

 瓶で用意してある毒と、食事に毒が混ぜられてる時があった。



 どんなに泣き叫ぼうが、それを止める者も……

 助けてくれる人も……

 傷の手当などしてくれるものもいなくて……

 さらには、自己回復能力を高めるためだけに、傷の手当てや毒の影響で寝込んでる時でさえ、手を差し伸べてくれる者などいない……

 ただ、広い薄暗い部屋で独りで耐えるしかない。


 その様子が幼い俺に “早く死ねよ” って言ってるみたいだった。



 それが、大きく変わった出来事がある。


 幼い頃から遊び、常日頃から本音を語り合える親友と呼べる友がいた。

 4つ上だったこともあり、兄のように慕ってたとこもある。


 だが、俺が6歳の誕生日の日。


 それが全て幻像だったと、思い知ることとなった。


 友人一家が、俺のために誕生日パーティーを開いてくれるということで、彼の家に招かれた。

 3歳から誰も祝ってなどくれなくなった誕生日。


 3歳の誕生日から、オプスブル家(あの家)では誰も俺のことを人として扱ってくれない。

 そのことがあって、舞い上がってたのかもしれない。

 それが油断を生んで、俺は友人一家に誘拐された。


 誘拐された当初は、悪夢でも見てる気分だった。

 だが、薄暗い地下室の中で、大の大人から何度も殴られ。


「オプスブル家の秘密を言え!」


「オプスブル家が使っている、隠れ家はどこにある!」


「オプスブル家の暗号を言え!」


「城の秘密の通路を言え!」


 そう幾度も聞かれれば、誘拐された目的がオプスブル家の情報と、あわよくばヴァルトアール帝国の情報を聞き出そうとしてるのだと、バカにでも分かる。


 殴られて聞かれるたびに……


「家業など知らない! 自分の家は、普通の事業を手広くやってるだけだ! 家に帰らせてほしい! お金なら、父さんに言えば払ってくれる!」


 と言って普通の子どものように……


「やめて!! 家に帰りたい!!」


 と言いながら、俺は泣き叫んだ。


 だが、彼らからすれば俺は幼くてもオプスブル家の嫡男で、将来は跡取りになる可能性が1番高い。

 そんな彼らの会話の節々から、何も知らないわけがないと思ってると同時に、彼らには俺を無事に家に帰す意思がないのだと悟った。


 だけど……嘘も偽りもなく、当時の俺は秘密の暗号も、隠れ家の存在も、それこそ城の秘密の通路など知らなかった。

 なぜなら、オプスブル家の嫡男だからという理由だけで、簡単に秘密を教えてくれるような優しい家じゃないからだ。


 毎日飲まされる毒だって、毎日成分が変わる。

 だから、自分で毒の成分をある程度調べ、薬を調合して最悪の場合に備えなければ、命すら落とす危険すらある。

 解毒の魔法が使えれば良いが、俺はそんな魔法は使えない。

 拷問の鍛錬だって、気を抜けば確実に待ってるのは、死だけだ。

 魔物がいる森に突然振り出された時も、誰も助けに来てくれなかった。


 魔法の訓練中に、突然毒矢が飛んできたこともある。

 あの家は、そういう家だ……

 常に心を休ませえる暇さえ与えてくれず、常に命を狙ってくる。

 それなのに、家の秘密は1つも教えてなどくれない。


 簡単にお前たちの言う家業を引き継げるなら、とっくの昔に父さんが引き継いでるよっと思って、嘲笑うかのように鼻で笑った。


「この……ッ! ガキの癖にバカにしやがって!!」


 激高した男がそう言いながら腕を振り上げた次の瞬間、頭に強い衝撃を受けた俺は、そのまま意識を失った。



 ◇◇◇



 真っ暗な世界で母さんを思い出す。

 母さんのおなかの中には、新しい命が宿ったと聞いた。

 その子はもう生まれたんだろうか……それとも、これから生まれるのかな……

 もう代わりがいるなら……本当に俺は両親から捨てられるんだな……。

 俺は……、やっぱり不要な人族で……存在することを許されてないんだな……


 このまま死んだら、少しは楽になれるのかな?


 体がどんどん冷えていくのが分かった……


 このまま死んでしまいたいと願うほどに、俺の心はすでにボロボロだった。



『少年、まだ死ぬことは我が許さんぞ? 約束が違う』


 うるさい……


『我が愛した者たちの子孫を、護ると約束したではないか』


 うるさい。


『1度も護らずして、死ぬと言うのか?』


 うるさい……。


『なぁ、少年。このまま貴様が死ぬなら……、貴様の一族諸共、我の所に連れて行くぞ?』


 ……は?


 暗闇の中で思わず顔を上げると、そこに何かいるようだ。


 見えないけど確実に何かいる。


『少年。我が居るのが分かるのだな! 相当我の力を引き継いで生まれてきたようだな』


 言っている意味が分からない……


『少年よ、力の使い方が分かっておらぬようだな』


 誰も教えてくれないのに、どう分かれって言うんだ……


『なるほどな……そうか、少年。貴様の父が力を引き継いでおらぬから、少年にも伝わらなかったのだな……』


 だから、意味が分からないって……

 その時、額に何か触れた気がした……。


『少年。今死ぬことは、決して許さぬ! 生きろ! 生きろ!! 生きて、思い出せ! 鍵は開けてやった! 引き継がれた思いたちを、思い出せ、少年! さすれば、自然と力の使い方も分かる! さぁ! 行け!』



 ◇◇◇


 あの時、意識を取り戻して最初に感じたのは、強烈な頭の痛みだ。


(ッ……いってぇ……)


 頭に裂けるような激しい痛みを感じて、少しずつ目を開けた。


(死にぞこなったか……)


 朦朧(もうろう)とする意識の中でまだ生きてることを確認すると、自嘲するように自然と乾いた笑いが口から溢れ出る。


 目の前がどんどん絶望で黒く塗り潰されていく。

 それに耐えきれず、瞼を閉じて再び俺は意識を手放した。


 ……。


 …………。


 誰だか分からない子どもたちの夢を見て、懐かしい気持ちになり、それが悲しみになって押し寄せた。


 おもむろに目を開けると、頬を伝う涙の感触に自分が泣いていたのだと分かる。

 そして、その涙が先程見た夢が夢じゃないくて、彼らの記憶なんだという事実を教えてくれる。


 彼らは、護りたかったのだ、愛おしいあの子たちを……。

 彼らは、護りたかったのだ、あの子たちが愛した大地を……。

 彼は、声の主()に約束した。

 必ず護り続けることを……


 ふぅーっと深く息を吐き、思い出したばかりの感覚で力を行使する。

 すると、椅子に縛られてた手足は自由を取り戻す。

 頭から流れ出した血を右腕で拭い、手足が無事であることを確認してると、男が部屋に戻ってきた。

 しかし、男が声を上げる前に、生命力を吸い取る魔法を使う。

 そして、彼から吸い取った生命力で自分の体を回復していく。

 すると男はそのまま倒れこむようにして、動かなくなった。


(まだ力加減ができないな)


 そう思いながら、男が入ってきたドアからでると、今度は建物の外に向かって歩みを進めた。

 建物内に、友人だった人の存在を感じ、彼がまだ建物内に居るのが分かったが、それでも構わなかった。

 受け継いだばかりの記憶を頭で整理しながら、建物の外に出ると、背中越しに建物内にいる人たちを建物ごと闇へと閉じ込め……

 そして……そのまま闇に沈めた。

 背後からは生命の気配は感じられず、それでも俺は振り返ることもなく歩き続けた。

 裏切られた悲しみと孤独感だけが募り、振り替えれなかったのかもしれない。

 結局、他に行く場所なんてなくて…そのまま家に帰ると、屋敷で働く人々と一緒に父さんと祖父が玄関にいた。


「「「ルカ様、おかえりなさいませ」」」

「「「継承、おめでとうございます」」」


 初めて胸に手を当手ながら片膝をついて出迎えられたが、俺は手をひらひらとさせ。


「そんなのいらないから、仕事の話をしようか」


 そう一言だけ伝えた。

 父さんは俺の方を見ると、脅えてただ小さくなって震えていたのが逆に滑稽で、彼に近づくと耳元で。


「オプスブルとして生まれたからには、

        他者に弱みを見せるな」


 そう囁くと、祖父と一緒に書斎と向かう。


(祖父が、俺の力が目覚めたって感じ取ったんだろうな)


 無意識に隣を歩く祖父を見ながら、俺はそう思うと胸が痛かった。

 書斎に入ってから少し経つと、父さんが書斎に入ってきた。

 父さんは震える手で祖父がフリューネ家に行っている間の報告書を差し出し、俺はその報告書を受け取り内容を確認する。

 その間、祖父はフリューネ家であった出来事を話していた。

 一通り聞き終えた後。


「もういい。疲れた、下がれ」


 それだけ告げると、2人は頭を下げて部屋から出て行った。

 

 完全にドアが閉まると同時に、俺は椅子にもたれ掛かると、全身の力を抜いた……


 父さんとも、祖父とも、こんな関係性を望んでたわけじゃない。

 ジーンと鼻が熱を持ち、腕を目に当てて天を仰ぐ。

 すると、抑えきれないほどに涙が溢れた。



 こうして、6歳の誕生日の翌日から俺の人生は変わった。

 俺は望まれてなくても、完全にオプスの頭領を継いだ。


 知れなかったことが不思議なくらい、家に戻るといろいろと知ってた……。

 そのことを考えれば、誘拐された時に男が「オプスブルの後継者だから知っている!」と言ってたことも、当時はその通りだなっと納得した。


 フリューネ家のことを、護らなければならないことも理解してる。

 ヴァルトアールとのつながりも、力を継承した時に全て思い出した。

 だけど、どんなに理解してても、遠い過去の先祖が感じたであろう気持ちまでは、理解はできない。


 “約束したから”


 理由はそれだけだ。

 それと同時に、俺はオプスブル家が初代皇帝と結んだ闇の掟に縛られた。

 もう逃げることも、望んで死ぬことも許されない。

 闇の掟には、こういう一節がある。


『第四条:後継者の選定

 “闇の掟” を引き継ぐ者、オプスブル領当主になる者は、闇の精霊の力を受け継いだ者とする。

※力を継いだ者が現れた時点で、現頭首はその立場から降り、力を引き継いだ者の補佐に周るべし』


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