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13度目に何を望む。  作者: 雪闇影
1章

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第22話 気持ちの問題


 ダニエルが帝都に帰って数日が経った3月15日。

 暇を出された使用人たちが徐々に屋敷に帰って来ている。

 しかし、まだルカとモーガンはフリューネの屋敷に滞在していた。


 ダニエルが帰った後も彼らが引き続き滞在している理由は、レティシアには分からない。

 けれど、モーガンがエディットと一緒に行動しているため、何かしら事情があるのだと考えられる。

 そして、レティシアの近くには、変わらずルカの存在があった。



 レティシアは初日以外、モーガンとはたまに顔を合わせることはあっても、彼から話しかけられたことはない。

 それに関して、レティシアは何とも思っていない様子だったが、エディットはそのことに対してモーガンに小言を言っていた。

 正直なところ、レティシはどうモーガンと接していいのか分からないようにも見える。

 好きか嫌いかと聞かれれば、きっと嫌いな部類に入る人物なのだろう。


 ただ問題は、モーガンの近くにエディットがいない時だ。


 エディットが近くにいない時にレティシアと出くわしても、彼はルカの顔を見るとそそくさと逃げることが多かった。


 先程も、レティシアとルカが庭園を散歩している途中でモーガンと会った。

 だけど、彼はルカがいると分かると、避けるようにして逃げている。


 庭園からの帰り道、レティシアの一歩前を歩くルカが不意に立ち止まる。


「レティシアにもいやな思いさせて……ごめん。――父さんは俺が怖いんだよ。口に出して言わないだけ……。前はこれほどまでじゃなかったけど、俺が6歳の頃からずっとあんな感じ……。常に俺の反感を買わないように立ち回ってるし……屋敷内で俺が弟と会わないようにしてるよ。――俺だって、正当な理由もなく、弟を殺したりなんてしないのにな。だから、レティシアが悪いわけじゃないから……」


 呆れたようにルカは話していたが、それでも声や彼の雰囲気からどこか悲しそうに見えた。

 ルカはモーガンが、彼のことを恐怖の対象として見ていることに気が付いている。

 そのため、いまさら関係の修復は、無理だと思って諦めてもいる。

 しかし、ルカはモーガンの態度で、彼女が傷付くのはいやだった。


(きっと、私が彼の家に生まれていたら、自分の能力を隠さない限り、彼と同じように恐れられたのかもね。――まぁ、親子の形なんてそれぞれだし……、無条件で親から愛が芽生えるわけでも続くものでもないしね……)


 レティシアはそう思い、ルカから空へと視線を移す。


 ルカから子どもらしい一面を見ることも、子どもらしいと感じることもレティシアにはある。

 けれど、それ以上に、彼からは子どもらしくない雰囲気や行動を見ることの方が多い。

 その結果、普通の人から見れば、レティシアもルカも異質な存在だと感じるのだろう。


(この世界では、私はお母様に恵まれた……こんな子どもらしくない私でも愛してくれる。――過去のお母さんたちも、私がおなかの中にいた頃は、愛そうとしてくれたのかもね……)


 まだ冷たい風がレティシアを優しく包み込むように吹くと、微かに風に乗って花の香りをレティシアは感じた。


「なーに、辛気臭い顔してんだよ」


 ルカはそう言いながらレティシアを抱き上げると、彼女が首に腕を回してルカを抱きしめた。

 まるで驚いたように目を大きく開けた彼は、次第に目を細めてどこか安心したような表情に変わる。

 そして、彼はレティシアの背中を優しくたたき始めると、そのまま歩き出した。



 ◇◇◇



 神歴1489年3月21日。


 書庫で本を選びながら、レティシアはダニエルのことを考えていた。

 ダニエルが彼女の部屋に来た日から、レティシアはいろいろと考えていたが、未だにその考えがまとまらない。


(お父様は宝石を盗むくらいには、お金に困っている……。でも、屋敷に着いた日、お母様にお金を要求して以来、帰る日までお母様にお金を要求していない……。石が壊れやすく、壊れる可能性があると分かっていて、お母様に渡した……。そして、私と会おうとしていた……)


 レティシアは本を棚から取り出し、その本を広げながら深いため息をつく。


(もしも、あの指輪に付与術がかけられていたのなら、指輪を外した時点で効果はない。1度魔力を流すか、身に着けているのが付与術の発動条件……。けど、仮に魔力を流したなら、私かルカがそれに気が付いたわ。万が一あの石に魔力が込められていたなら、付与術の発動条件は整うけど……。その場合だって、私は気が付いたと思うんだよね……。それに、もし気が付いてなかったとしたら、指輪を付けていた時に、何かしらの効果を発動していたことになる……。だけど、あの後もお母様に異常は見受けられない……)


 あの日からレティシアは付与術に関する本を、手当たり次第に読んでいる。

 しかし、この書庫では彼女がほしいと思う情報が手に入らない。

 過去の記憶から探しても見つからないことに焦りを感じて、レティシアは無意識に頭をガシガシとかいた。


 近くにいたルカは、レティシアの手を掴んで止めると、代わりに彼女の頭を優しくなでる。


「あまり考えてイライラすると、お肌に悪いんだよ。小さなレディー」


『分かっているよ……。でも、どんなに考えても分からないのよ……』


 力なくレティシアがそう答えると、ルカは目を伏せた。


「……そっか」


(この書庫だけでは情報が少なすぎる……情報……。もしかしたら……)


 レティシアはそう思うと、真っすぐにルカを見て彼に声をかける。


『ねぇ、ルカ』


「んー?」


『ところで、結局ルカはなんの頭領なのか教えてくれないの?』


 レティシアは過去の経験から、彼なら情報を集められるのではないかと考えた。

 それと同時に、今の彼になら過去のことも含めて、全てを話せるのではないかとも考える。


 けれど、ルカは本を選んでいた手を止め、レティシアの方を振り返らずに深く息を吐き出す。


「はぁ……。前にも言ったけど、まだ言えないんだよ……。レティシアが俺を専属騎士にしてくれたら、その時は話すよ」


 チクリとレティシアの胸が痛むと、持っていた本に視線を戻した。


『秘密は……秘密のままね……。分かったわ。ありがとう』


(無条件で教えてくれるわけじゃないってことね……。ルカになら話せるとか考えるんじゃなかった)


 レティシアは少しだけ期待した。

 彼が過去の前世で会った人たちと違うことを……

 彼女の信頼に、無条件な信頼で答えてくれる人だと……


 3度目の転生でレティシアは、1度だけ自分が転生者だと明かしたことがある。

 それは、信頼していた相手と契約を結ぶ際の条件で、お互いに秘密を話したからだ。

 しかし、彼女を待っていたのは裏切りという名の死だけ。

 それ以降、彼女は自分が転生者であることを誰にも話していない。


 深い秘密がある人は、条件を結びたがる。

 相手が秘密を話せば自分も話す、これもある意味交換条件なのだろう。


 だが、転生者以上に大きい秘密が存在するだろうか?

 矛盾しているのだと分かっていても、天秤に掛けられているのが己の命だ。

 それはもう、相手からの無条件な信頼でしか量ることができない。


 レティシアは割り切ろうと思うと、気持ちを切り替える。


(そういえば、この世界にもギルドはあったよね? なら、情報ギルドとかもないかしら?)


『ところで、ギルドってあるじゃない? どんな感じなのか聞いてもいい?』


「ああ……依頼主と仕事を請負う人の中間にいるのがギルドだよ。主に魔物の討伐とか護衛する依頼が多いけど、雑用も普通に多いよ。そもそも帝国の管轄じゃないから騎士団がいる貴族は、魔物の大量発生の時や人手が足りない時以外はあまり使わない。使うことが多いのは、騎士団がいない所や庶民が多いかな?」


『――帝国の管轄じゃないなら、情報を専門に取り扱っている所もあるってことね……』


 レティシアがそう呟きながら、顎に触れる。

 その様子を見ていたルカは、いやな予感がして片眉を上げた。


「おまえ、何考えてる?」


『いや? 別に大したことじゃないよ』


 コテンと首をかしげてレティシアがそう言うと、ルカは眉を(ひそ)めた。


「言ってみろよ」


『なんで? 何も教えてくれないルカに対して、これ以上私も言う必要はないと思うけど? それに、お父様なら、もう帝都に帰ったし』


 ルカは不機嫌な様子で険しい顔をして、レティシアを見ると彼女に尋ねる。


「んじゃ、他に誰に言うんだよ」


 けれど、レティシアは視線を上げる様子もなく、本のページをめくる。


『それこそルカには関係ない。ルカは今回私の護衛をしただけ。ギルドで例えるなら、依頼は完了したし、依頼主のアレコレを聞くもんでもないでしょ』


「……レティシア。君が怒っても、何も教えられない」


 拳を握りながら、絞り出すようにルカは言った。

 その顔はどこか悲しそうにも見える。


『うん? 別にそれは気にしてないし、私は怒ってなんかない。私そこまで器が小さい人じゃないよ?』


「じゃ!!」


『関係ないと思ったから、ルカに言う必要性を感じないだけ。ルカのことは信用しているけど、だからと言って無条件で自分の情報だけを相手に渡すほど、私も無防備な人じゃないの』


 ルカは冷たくレティシアが冷たく言い切ったのを聞いて、完全に言葉を失って俯いた。

 彼は胸の辺りに微かな痛みを感じると、スーッと全身が冷えていく感覚がした。

 けれど、そのことを気にする様子もなく、レティシアは壁に掛けられた時計を見ると、読んでいた本を閉じる。

 時計の針は11時半を指し示し、時間の流れを教えている。


「……秘密を言ったら……俺が聞いたことには、ちゃんと答えてくれるのか?」


 ルカが弱々しく呟くように言うが、レティシアは気にしていなかった。


『それはない。必要だと思えば話すし、不要だと感じたら言わないよ』


 レティシアはおもむろに立ち上がると、ルカに書庫の鍵を差し出す。


『鍵、閉めてね』


 ルカは俯いていて、鍵を受けとる様子がない。

 仕方がないと諦めたのか、レティシアがルカに鍵を握らせると書庫を後にする。


 残されたルカは、ただレティシアが座っていた場所を見つめていた。


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