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13度目に何を望む。  作者: 雪闇影
7章

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第193話 静寂の塔で紡がれる真実と揺れる想い


 皇帝主催の茶会が帝都オーラスで開かれていた頃。

 リスライベ大陸テネアルクでは、ルカとレティシアが暗黒湖(テネクス)から帰ってきたことで、ささやかな宴が開催されていた。

 普段は塔の中で1日が終わる上級魔族も外へと出ており、笑いながら踊る者もいれば、笑みを浮かべながら話している者もいる。

 しかし、街の様子が見える塔の頂上付近にある一室では、硬い表情で2人の男女がテーブルを挟んで座っていた。

 暫くの間、沈黙が続いていたが、突然ルカがパチンッと指を鳴らす。

 すると、向かい合わせに座る2人を囲うように、空間消音魔法(サイレント)が広がる。


「……それで? 話とは?」


 ため息をついたルカは、レティシアから目を逸らさず、早く話を終わらせるために尋ねた。

 そして、長い足を組んでソファーにもたれ掛かると、彼女の反応を見ながら、軽く両手を腹の上で組んだ。


「まず、聞きたいことがあるわ。――1つ、記憶は全て共有されているとあなたは言っていたけど、明確にはどこまで共有されているのかしら?」


「全てだ。これまでの契約者の記憶はもちろん、記憶を失っていた頃もだ」


 レティシアは腕を組んだが、直ぐに片手は顎に触れ始めた。

 それから、考えながら「そう……」と呟くと、ルカの方を改めて向く。


「それじゃ、ルカが記憶を失った当時のことを覚えているかしら?」


 ルカはレティシアが尋ねると、少しだけ視線を下げて内心でため息をついた。

 しかし、チラッと彼女の方を見るが、少女の表情に変化がないことから、事実だけを話し出す。


「ああ、魔力暴走だと思って、闇に沈めようとしたが、沈めきれないから闇の精霊の力を借りた。結果的に、魔力暴走の衝撃を消し去ることはできたが、その反動で俺は飛ばされて記憶を失った。――他に聞きたいことは?」


 レティシアは、ルカの答えを聞き、わずかに微笑んだ。

 触れてほしくないことに、彼は変わらず触れないのだと考えれば、人格が変わっても彼は彼なのだと思えた。

 しかし、同時に過去の彼はもういないのだという現実が突き刺さる。

 だが、今は過去の傷に浸っている場合ではないと思い直すと、顔から笑みを消し去る。


「ルカの婚約者だという女性の存在は?」


「あー、あいつか……。記憶を失う前の記憶にも、イリナ・モンブルヌは存在してるが、あくまでシャルル・モンブルヌの娘だという認識止まりだ」


「つまり、婚約はルカの意思ではなかったのね」


 ルカは深くため息をつくと、レティシアを睨んだ。

 確かに、記憶を失っていた頃、イリナ・モンブルヌのことで迷惑を掛けた事実はある。

 けれど、これ以上彼女がオプスブル家の問題に首を突っ込むのは、頭首として到底許せない問題だ。


「そういうことだ。だが……これ以上、お前は首を突っ込むな。イリナ・モンブルヌのことも、オプスブル家のことも俺が対処する」


 ハッキリとしたルカの声が響くと、窓の外から届く音がその場を支配した。


「……分かったわ。それじゃ、これは私からあなたへの情報提供。あなたの婚約に関わった人の話は以前にしているから割愛するけど、私なりに予測できる範囲でエルガドラ王国とガルゼファ王国の力を借りて、イリナの行動に多少は手を打てあるわ。あえて、彼女の行動を完全には制御していないけどね。アランか、帝国に戻った時リンとメイに詳しく話を聞くといいわ」


 レティシアは言い終えると、ルカの様子を気付かれないように観察した。

 しかし、これといった変化は見られず、淡々とした様子で「そうか、他には?」と彼が答えると、胸の辺りが重く感じられた。

 それでも、そのことを表情には出さず、彼女も淡々と話し出す。


「対抗戦中に、ベルンは影から『他の刺客から攻撃があるかもしれないから、自分の班を優先しろ』と指示があったそうだけど、これがあなたの指示なら問題ないわ」


「なるほどな」


 ルカがサラッと答えると、レティシアは眉を(ひそ)めた。


「あら? ベルンの話に嘘がないと分かっているみたいな反応ね?」


「理由を言う必要があるのか?」


 ルカは突き放すように言ったが、首を横に振るレティシアを見て、彼女が何か深く考えていると思った。

 けれど、「いいえ、ないわ。ちょっと気になっただけよ」と彼女が答えると、動作の1つでも気になってしまう。

 彼女の考えが分からないからこそ、行動で真意を探りたいが……目の前に座る少女は、態度に出さない。

 変わらない視線、声のトーン、それらが彼女という存在を隠す。

 揺さぶることも考えるが、彼女が微かに笑みを浮かべたのを見て、直ぐに見せかけだと分かった。

 そのため、彼女もこちらを深く観察しているのだと確証し、ただただ、面倒な相手だと感じてしまう。


「他に、何か分かったことがあるのか?」


「ここからは、これまであったことと言った方が良いわ」


 レティシアは声質やトーンを変えず、一定の速度を保って言うと、ルカが組んでいた手を解くのを見ていた。

 そのまま彼がソファーの右側の肘掛けに頬杖を付き、左手で反対の肘掛けを規則正しく、トン、トン、と叩きながら、「言ってみろ」と言うと、彼女は内心でため息をつく。

 本来、肘掛けを叩く行為には、冷静であろうとする心理が含まれる。

 だが、ルカを何年も見てきたからこそ、彼がそれを逆手に取っているのをレティシアは知っている。

 そのため、思考をまとめるためだけではなく、相手の思考を浅くし、深掘りを妨げるための行動だと考えるが妥当であると結論を出す。

 彼の赤い瞳からは感情が見えないが、思考する姿勢は一度記憶を失い、人格が変わる前と同じなのだと思い、本当にやりづらい相手だと感じた。

 けれど、暗黒湖(テネクス)でのことが頭を過ぎり、軽く息を吸い込むと会話を続ける。


「……まず、神歴1431年と1470年に起きた事件を覚えているかしら?」


「ああ、魔族が帝国を襲撃した事件だろ?」


 レティシアはルカの話に頷き、「ええ、そうよ」と答えた。

 そして、1度腰を浮かして座り直すと、ただ知っていることを伝えるために口を開く。


「その2つの事件に、エルガドラ王国で魔物に使われていた紫の破片と、同じ物が使われていた可能性が浮上したわ」


 ルカはレティシアの話を聞き、闇の精霊と契約した者たちの記憶と、資料に関しての記憶を瞬時に頭の中で探した。

 しかし、彼女の言ったような記述はどこにもなく、情報の信憑性を疑ってしまう。


「どういうことだ? そんな記述は、どこにもなかったと記憶してるが?」


「これはフェリックス様の証言だけど、1431年の事件が起きた後、確かに紫の破片のことが書かれた資料が存在したそうよ。だけど、1470年の事件が起きる前に、その資料は処分されていたらしいの。――その時、私たちが良く知る資料に統一されていたそうよ」


 ルカは深く考え込むと、なぜ一時的にでも資料として残されたのに、結果的に処分されてしまったのか考えた。

 その時、1431年の事件に関する記憶の片隅に、話を聞き回っていた浮浪者たちの存在があることに気が付いた。

 そのことが引き金になり、書いていた人物のことも、自然に情報として浮上する。

 だが、記録者でない者が書いた物なら、処分されたことにも納得してしまう。


「紫の破片のことを書いた人物に聞けば、当時のことが分かるかもな……」


「残念だけど、紫の破片のことが書かれた資料に関わった人たちは、皆亡くなっているわ」


 レティシアは淡々と述べたが、ルカの目がスーッと細まるのを見て、少しだけ彼の左手に意識を向けた。

 しかし、「消されたか……」と言った彼の言葉が耳に届いたが、肘掛けを叩くリズムは変わらない。

 そのことから、彼が何かを考えているのだと分かったが、その何かが見えてこない。


「オプスブル家は何かしらないかしら?」


 ルカはレティシアに尋ねられると、彼女がオプスブル家の内情を聞こうとしているのだと分かり、肘掛けを叩くのを止めた。

 そして、今度は左手で頬杖をつき、肘掛けを右手で、トン……トン……と叩き始める。

 彼女の視線の動きや、呼吸の仕方にも意識を向け、声のトーンを変えて話す。


「知っていたところで、お前には何も話せない。だが、オプスブル家が消してないのは確かだ」


 冷たい声が静かに止むと、部屋には、トン……トン……という音だけが微かに響く。


「疑う訳じゃないけど、紫の破片が書かれた資料に携わっていた人たちを、オプスブル家が消していないと断言できるの?」


「ああ、それは断言できる。もし、不安なら、帝国に帰ってからジョルジュに話を聞くといい」


 レティシアは、これ以上は踏み込むべきじゃないと思うと、「そう……」と言って納得して見せた。

 しかし、オプスブル家が関与していないのであれば、帝国にはオプスブル家のような家が存在する可能性も浮上する。

 けれど、それをルカが知らないのは不自然だと考えると、他の可能性を考え始める。


「そうなると……考えられる可能性は……他国の関与よね……」


「紫の破片のついでに、対抗戦の時、人質を捕られていた刺客の方はどうなった?」


 ルカはレティシアを観察しながら、声のトーンを変えずに冷たく尋ねた。

 すると、顎付近を触っていた彼女の手が一瞬だけ止まり、あの時の刺客は殺していないのだと考えた。

 そのため、思わず内心でため息をつくと、敵相手に甘いんだよっと苛立ちすら覚える。

 ゆっくり視線を落とす彼女を見ながら、ルカは彼女の発言を暫く待った。


「……彼の妹は見つけたけど、既に結晶化して亡くなっていたわ」


「となると……対抗戦の時に感じた紫の破片の気配も、あながち無関係じゃなそうだな」


 レティシアの「私も、同じように考えているわ」と言った声がし、下がっていた彼女の視線は上がった。

 ルカとレティシアの視線が重なったように動きを見せず、トン……トン……とルカがリズムを刻む音が広がる。


「この塔にある禁書庫で、『冥歴2491年ベルグガルズ大陸の西部を白い光が包み込み、一瞬にして白い光は赤く染まった。その後に大地は新たな力を得、新しい芽吹きに埋め尽くされた。白い光が赤くなった瞬間、膨大な力が生まれ、力を与えたのである』と記載されていた本を見つけたわ」


 ルカはレティシアの話を聞き、契約者の記憶を辿った。

 そして、闇の精霊が守れなった者たちの死か……と内心で呟いた。


「……冥歴2491年なら、ちょうど闇の精霊が俺の先祖と初めて契約した年だ……その記述は間違ってる、明らかに魔力暴走だった」


「私の予測はあったっていたわけね……それなら、見てほしいものがあるから、禁書庫に行きましょ」


 ルカは彼女の記憶力を知っているからこそ、資料を見るためだけに、禁書庫へと行く必要性を感じない。

 そのため、レティシアが腰を浮かせると、すぐさま「どんな内容だ?」と尋ねた。

 彼女が眉を(ひそ)めたことから、どうにかして空気を変えたかったのだと思った。

 しかし、思惑通りにいかなくて残念だな……と内心で嘲笑うと、彼女のため息が聞こえ、「どこかのバカたちが」と呆れたような彼女の声が続いた。

 それでも、冷たく「ちゃんと話せ」と言うと、彼女がもう一度ため息をつき、腰を下ろした。


「……魔族とベルグガルズ大陸にいた人族で、魔力暴走を奇跡の赤い結晶と勘違いして、実験したそうなのよ。初めは精霊石を使ったみたいだけど失敗して、次は魔石を使ったらしいわ。そして、大量に魔石を消費して、わずかばかり力を持った薄紅色の石を生成に成功したらしいのよ。……だけど、人族は次なる材料に動物を提案し、結局は大量の魔石と動物を使って実験したわ」


「それで? 結果はどうなった?」


 レティシアは問いかけに対し、すぐには答えず、わずかに俯いた。

 部屋の奥では、灯り静かに部屋を照らし、壁にハッキリとした影を残す。

 微かに外から届く笑い声や楽器の演奏に交じり、ルカの肘掛けを叩く音が部屋の中を支配する。

 数秒の沈黙のあと、彼女の声が再び場に落ちていく。


「実験は失敗して、少しだけ力を持った赤い石と、生命が感じられない物体ができたそうよ……」


「その後、実験はどうなったんだ?」


 向き合って座る2人の視線は交わらず、トン……トン……とリズムが刻まれる。


「人族は材料に魔物を提案したけど、魔族は研究すべきじゃないと判断したみたい。それで、冥歴2499年に魔族は研究を闇に葬り、人族にも研究を禁じたそうよ」


 レティシアは冷静に言いながら顔を上げると、ルカの様子を静かに見ていた。

 彼の眉がわずかに動き、ほんの一瞬だけ赤い瞳が細まるのを目で追い、内心でため息をつきながら目を閉じた。

 そこには、少しばかりの安堵と、掴み切れない事実に対する思いが交じる。


「闇の精霊と歴代の契約者は、その事実を知らなかったみたいね」


「ああ、そんな実験をするバカがいることに驚きだ」


 ルカは冷淡に言い切ると、所詮は契約者たちの記憶か……と内心で自嘲した。

 どんなに記憶を引き継ごうと、これまでの契約者が知らなければ、知らないのは当たり前だ。

 そのことを理解しているのに、知見から外れた物事があることに、不満がない訳ではない。

 だが、闇の精霊の声が聞こえると、『分かってる。俺は化け物でも、神でもない。ただの人族だ』と内心で呟いた。


「この実験……」


 ぽつりとレティシアが呟くと、ルカも「フィリップ……だな」と呟いた。


「そう……やっぱりあなたもそう思ったのね」


 低く抑揚がない声でレティシアが言うと、数秒の間、肘掛けを叩くルカの指が止まった。

 しかし、また肘掛けを叩く音が始まり、今度はトトン……トトン……とリズムを刻んでいる。


「ああ、ライアンもフィリップと初めて会った日、『魔塔が保有している禁書で創られたなら、海を挟んだ所にある国が首を突っ込んでくる』と言ってたのを考えると、魔族が禁じてからも人族は研究してたんだと考えるのが妥当だ」


「どの国が、何のために……」


 レティシアは言い淀みながら呟くと、無意識に肘掛けを叩くルカの指に視線を移した。

 その瞬間、ルカの指はリズムを変え、まるで時計の針が動くような音は、耳に届く度に沈んだ思考をクリアにしていく。

 ふと彼の表情に目を向けると、わずかに赤い瞳の奥に温かさを感じて、本当に人格が変わったのか疑ってしまう。


「それも問題だが、材料が何だったかが問題だ」


 冷たい彼の声が聞こえると、レティシアは考え過ぎね……と思い直し、静かに息を吸い込んだ。

 そして、彼女は確証がないのに言っていいのか……と戸惑いながらも、考えを口にする。


「……これは……完全に、私の憶測になるけど……材料は、人だと考えているわ……」


 ルカは話を聞き、あらゆる分野で人体実験が繰り返されていることを考え、彼女の考えも一理あると考えた。

 けれど、彼女の推測で思考を始めれば、様々な疑問が湧いてくる。


「となると、だ……魔族の襲撃事件の裏には、何かしらの思惑が絡んでたと考えた方がいいな……帝国に戻ったら、結晶化した人も再度調べ直すか……」


「私の方で、結晶化した人のことで、分かったことがあるわ」


 ルカは眉を(ひそ)め、「何だ?」と尋ねた。


「あなたも影響を受けたでしょ?」


 レティシアは、ルカの眉間のシワが深くなると、一度だけ瞬きをゆっくりとした。

 そして、情報を提供してくれたレイのことを伏せ、彼が情報源に踏み込んでこないように話す。


「結晶化した人に精霊は近付かないわ。詳しく聞いたら、近寄ると力が上手く使えないそうよ。あなたも、対抗戦の時に感じていたでしょ?」


「ああ、確かに力が阻害されたように使えなかった」


 ルカは質問に答えつつも、帝国にいる幼い精霊たちが、そこまで詳しく話すのか考えた。

 けれど、闇の精霊の話を聞き、情報源は別にあると考え始めた時、彼女が座り直すのが見え、意識が一瞬だけ彼女にズレる。


「この大陸には大量の結晶が存在するけど、全ての結晶からは、微弱ながらマナを感じ取れるわ。でも、結晶化した人からは、マナどころか魔力すら一切感じなかったの」


 ルカは目を細めると、彼女の言葉の真意を考えた。

 この大陸に存在する結晶からマナが感じられるのは、闇の精霊と契約している彼からすれば当然であり、結晶化した人から何も感じられない事実は既に調べが済んでいる。

 それなのに、それを今さら彼女が口にする意味が分からず、「何が言いたいんだ?」と尋ねた。


「紫の破片も、精霊がいやがるのだとすれば、エルガドラ王国の魔の森に精霊がいなかったことの辻褄が合うし、あなたの記憶が剥れた理由にもつながるわ。そして、私たちは……精霊がいやがる物を、幼い頃から知っていたわ」


 外で上がる花火の音が部屋の中にも響き、暫しの沈黙が訪れる。

 向き合う2人の眼差しは厳しく、外から差し込む柔らかな光とは違い、双方共に表情は硬い。

 その中で、静かではあるが、抑揚を押さえた「……指輪か……」と呟いたルカの声が部屋に落とされた。


「そうよ……お母様の指輪。エルガドラ王国に残った時、紫の破片を研究していく中で、あの指輪に使われた石も同じ物だと私は仮説を立てたわ。だけど、仮説を立てただけで、人工的に作られたものだとは、断定できなかったの」


「魔族と人族が実験した記録は、エルガドラ王国に残った時に見つけられなかったのか? 当時、ラウルとライアンを連れて、何度も魔塔に足を運んだんだろ?」


 レティシアはルカに指摘され、すぐに言い返せなかった。

 仮説を立てた時点で、非人道的な実験の存在があるかもしれないと考えていた。

 しかし、当時の彼女は、魔塔の禁書庫を探しても資料が見つからなかったことから、ラウルとライアンに深く追求しなかった。

 けれど、この事実を話しても、ルカから見れば、ただの言い訳になると思ってしまったのだ。


「そうね……フィリップが現れてから、改めて魔塔が保管してた禁書を探したけど無かったわ。更に、ライアンは1470年の事件に巻き込まれる前、その禁書を見たと言っていたの」


 ルカは話を聞き、思わず深くため息をついてしまった。

 彼女がエルガドラ王国に残り、フィリップが現れるまで8年という時間がある。

 仮説を立てた時点で、徹底的に彼女が資料を探したのか分からず、その間に資料が処分された可能性も否定できない。

 しかし、1470年の事件が起きる前まではあったことを考えると、1470年の事件を境に資料が消された可能性も考えられる。

 彼女がエルガドラ王国に残るきっかけとなった事件は、現在もリビオ王の協力を借りて調査を続けているが、紫の破片の出所は今も不明なままだ。

 ルカは視線を落とし、あらゆる角度から考え始め「……匂うな」と呟いた。


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