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13度目に何を望む。  作者: 雪闇影
1章

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第17話 父の帰還


 レティシアたちが玄関ホールに着いてから、少しの間ダニエルの到着を待っていた。

 暫くすると、くたびれた上着を羽織ったブラウンの髪の男性が、不満げな顔をして上着に付いた埃を払いながら入ってくる。

 しかし、辺りを見渡してエディットがいることに気が付くと、途端に彼はブラウンの瞳を輝かせて笑顔になった。


「やぁ、エディットただいま。久しぶりの我が家だ! 帝国では別宅に入れないし、いろいろ大変でこっちに戻って来れなかったんだよ」


 ダニエルはエディットに向かって腕を広げた。

 けれど、エディットは彼の胸へ飛び込む様子もなく、ただ冷ややかな目を向けいる。

 その様子に、ダニエルの眉がわずかに動く。

 きっとレティシアが生まれる前の彼女なら、その胸に飛び込んでいたのだろう。


「まぁ? 帝都にある我が家の別宅への滞在は、当主の私が一緒ではない場合はお父様とお母様しか許可されないと、前にも申したはずですよ? もうお忘れになったのですか?」


 エディットが冷たくそう言うと、ダニエルは作り笑顔のまま、彼女を強引に引き寄せて抱きしめると耳元で囁く。


「もちろん分かってるよ。だから君と話がしたい……。でも……ここだと話せないから、とりあえず君の部屋に行こう」


 ダニエルはエディットから離れると、彼女に笑顔を向ける。

 そして、半ば強引にエディットを部屋に連れて行こうと、彼女の手を引いて歩き出す。


 リタは連れて行かれるエディットを、足音を立てずに追い掛ける。

 彼女は表情に出さないだけで、静かに怒っていた。

 沸々と沸き立つ怒りに、思わずメイド服の下に隠している暗器に触れそうになった。



 初めて実の父親に会ったレティシアは、彼が娘である彼女に見向きもしなかったことで、改めてダニエルは娘には興味がないんだと感じた。

 そんな父親に愛を求めて少しでも期待したら、不幸になると彼女は再認識した。


『ルカ、部屋に戻って』


 エディットとダニエルから視線を外さないで、レティシアが言った。

 彼女の様子を見ていたルカは、何も言わずに急いでレティシアの部屋へと向かう。

 彼は部屋へと続く白い無機質な廊下に、彼女の姿が重なる。

 彼女が何を考えていたのか、彼には分からない。

 だけど、初めて会った父親が彼女に見向きもしなかったことに、多少なりとも彼女がそれで傷付いたと思うと彼は悔しかった。

 しかし、彼女の声は力強く、とてもじゃないが、普通の子どもに見えないと彼は思う。

 ルカはちらりとレティシアを見ると、彼女は考えるように目を細め顎に触れている。

 そのことから、ルカの中では小さな疑問が湧いた。



 部屋に戻るとレティシアは急いでルカに下ろしてもらい、テーブルの方に向かいながらポケットから緑のピアスを取り出す。

 そして、彼女はテーブルの上にピアスを置くと、書かれている術式を発動した。

 緑のピアスからは、エディットが着けている青いピアスが拾った音が流れてくる。


 *


『悪いだけどリタ。エディットと2人で話したいから、席を外してくれないか?』


『……』


『リタ、頼むよ』


『……』


『使用人の分際で、主人の頼みが聞けないのか!!』


『ダニエル様、申し訳ございません。私の主人はエディット様お1人様だけですので、ダニエル様の指示に従うことはできかねます』


『なんだと!! 使用人風情が偉そうに!!』

『ダニエル!! やめてちょうだい!! はぁ……、いいわ。リタ、少しの間だけ下がってちょうだい。何かあったら呼ぶわ』


『エディット様、かしこまりました』


 リタがそう言うと、ドアを軽く閉じた音だけが聞こえた。


 *


(お父様はプライドが高くて、傲慢な人のようね)


 ピアスから聞こえてきた会話を聞いていたレティシアはそう思うと、不意に彼女は肩をたたかれた。


「ねぇ。これって、喋っても平気?」


 小声で聞いてきたルカにレティシアが軽く頷く。

 すると、ルカはテーブルに置かれているピアスを見てから、視線をレティシアに移した。


「へぇー。盗聴とは、レティシアも考えたねぇ~」


『本当は使い魔と契約できれば良かったんだけど、そう簡単に契約できるわけでも、出会うわけでもないからね。いつかは契約するつもりでいるけど……。これは、とりあえず思い付きでお母様に持たせてみたの。何か狙いがあるなら、お父様はお母様に要求すると思ったから』


「なるほどな」


 眉を寄せて真剣な顔でレティシアのことを見つめるルカは、まだ1歳になろうとしている彼女が自分と同じ異質な存在だと再認識する。

 それと同時に通常では考えられないことが、彼女の身に起きているような気がした。


 *


『エディット、いろいろ悪いと思ってる。だから――これ俺が作ったんだ、もらってくれるかな? エディット……さぁ、手を出して』


『これを、あなたが本当に作ったの?』


(あれだけの謝罪でお母様は許すの? それに……媚びを売るように、お父様はお母様に何かを贈ったのね)


 会話をピアスで盗み聞きしていたレティシアはそう思うと、胸がチクリと痛んで首をかしげながら胸を触った。


『ああ、綺麗な石が付いた指輪だろ? できれば外さずに、ずっと身に着けててほしいんだ』


『ええ、綺麗ね。それなら、あなたがこの家にいる間は身に着けるわ』


『エディットありがとう。――それでなんだけど……、実はこれで新しい事業を始めたいんだ。君がお金を出してくれないか? 数年もすれば元金も戻ってくるし、最初の投資と思えば、君には安いもんだろ!?』


 バンッ! と突然何かを強くたたく音が聞こえて、ピアス越しに聞いていたレティシアはビクッと肩を上げた。


『またお金の話ですか!? 以前にも、この家でお金の話はやめてほしいと申したはずです! ダニエル、あなたは今日この家に帰って来て、他に言うことがないのですか!?』


『この家以外なら、どこで金の話するんだよ!! それとも君が帝都の別宅を、俺に開放してくれるのか!?』


『普段こちらに帰って来ない人が、こちらに帰って来たと思ったらお金の話しかしないのを、やめてほしいと申しただけです。普段からこちらに帰って来るようなそぶりを、ダニエルが少しでも見せていたら話も違っていたことでしょう。今回こちらに来た理由がお金であるならば、帝都であなたが “住んでいる” お宅に帰っていただけませんか?』


『お前は昔からそうだ!! 金を持ってるのに、いつも出し渋る! 俺のことを愛してれば、黙って金を出すはずだろ!! 金も出さない、別宅の出入りも許可しない、他に何の用があって帝都から遠いこんな家に戻ってくるんだよ!!』


 ドスドスと歩く音が聞こえたと思うと、激しくドアが閉まる音が聞こえた。


 *


(力任せにドアを閉めたのね……。来たのもお金が目的……)


 予想していた通りのクズっぷりに、レティシアは呆れてしまう。

 けれど、お金だけが理由で帰って来たと思えず、ダニエルが帰ってきた理由に納得ができない。


(後でお父様がお母様に渡した指輪を、確認した方がいいかもしれないわね)


 レティシアはルカにお願いをして、耳にピアスを着けてもらう。

 これで常にエディットが身に着けている間だけ、彼女の周辺の様子がテレパシーのようにレティシアに聞こえる。


 室内では静かな時が流れ、ルカとレティシアは何かを考えるように黙っている。

 ソファーにもたれかかりながら天井を見つめていたレティシアは、ふと尋ねる。


『ねぇ……、ルカ。本当にお金だけが目的だと思う?』


「どうだろう? レティシアの考えは?」


 先程までピアスが置かれていた場所を、見つめながら考え事をしていたルカは、レティシアの方を見ると聞き返した。


『そうねぇ……お金が目的なら、予定を早めて帰って来る必要は、なかったはずだと思うのよ……。お金を出してもらいたい相手の機嫌を損ねるようなことは、普通しないと思うし』


「それは、俺も同意見だ。一応警戒はしておく」


『お願いね』


 レティシアはそう言って、先程ルカに着けてもらったピアスを軽く触った。


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