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13度目に何を望む。  作者: 雪闇影
1章

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第15話 闇の中へ


 神歴1489年2月28日の未明。

 レティシアの部屋では、宝石に魔力を溜めて疲れた2人が眠っていた。


 しかし、ふとルカが目を覚ますと、彼は眉間にシワを寄せた。

 まだ眠っていたい頭を押さえながら体を起こし、彼はベッドの方に視線を向ける。

 レティシアがベッドで眠っているのが見えると、彼の険しいい表情も和らぎ、ホッと胸をなで下ろした。


 ソファーから立ち上がったルカは、一切の音を立てることなくレティシアの近くまで向かった。

 彼は彼女の肩まで布団をかけると、頬を指の甲で何度も優しく触れる。

 そして、彼女に背を向けた瞬間、感情が抜け落ちたように彼の無表情が変わった。

 そのままドアの方に向かっていると、彼の背後では黒い半球がレティシアを一瞬で覆う。


(やっぱり来たか)


 ルカはそう思うと、そのまま部屋の外に出て行く。

 廊下に出た彼は、赤い瞳で左右を確かめた。

 白い壁の廊下は月明かりに照らされ、光の届かない場所には闇が広がる。

 彼はゆっくり歩みを進め、近くの窓を開けた。

 外から冷たい空気が流れ込み、冬の匂いが廊下に漂い始める。

 すると、窓から身を乗り出した彼は、外へ飛び降りた。



「怪しい集団が領土に入ったらしい」


 地面に着地すると彼はそれだけ呟き、歩いて正門に向かう。

 途中でジョルジュとモーガンが、慌てた様子で彼に駆け寄ってきた。


「ルカ様、このような時間にいかがなさいましたか?」


「ああ、精霊から怪しい集団の報告だ」


 ジョルジュは一瞬だけ険しい顔をしてたが、すぐに真顔でルカに聞く。


「いかがいたしましょうか?」


「ジョルジュは狩りに出ろ。モーガンはここに残って屋敷を守れ。そのくらいできるだろ? 俺はこのまま、狩りに出る」


「「かしこまりました」」


「何か、ご希望はございますでしょうか?」


「今の俺にはできないから、3人は生け捕りにしろ。他は殺して構わない」


 氷のように冷たい声で言ったルカの瞳は、まるで光を映していないようにも見える。

 モーガンはルカの言葉を聞き、まだ幼い子どもから発せられた言葉だと考えると、サーッと血の気が引いていく。

 けれど、先程からルカと会話しているジョルジュは、表情を変えることはない。


「かしこまりました」

「散れ」


 そう言うとルカは再び歩き出す。

 その口元は、口角がわずかに上がっていた。


 残されたモーガンは、月明かりに照らされているルカが、暗闇に消えて行くのを震えながら見ていた。

 鼓動が耳の中で脈打つのが分かるくらい、彼は恐怖に押し潰されそうになる。

 ルカの命令を聞いた瞬間、心臓が一瞬止まったかのように彼は感じたのだ。

 彼の頭の中には、過去に見たルカの冷酷な行動がフラッシュバックのように蘇る。

 それと同時に、ルカの力が心底恐ろしく感じた。

 ふっと、モーガンは辺りを怯えた顔で見渡すと、誰も居ないことに彼は安堵した。

 しかし、慌てて(きびす)を返すと、先を急ぐように速足で歩き、屋敷の中に向かって行く。



 それから1時間程たった頃。

 普段は全く使われていないフリューネ家の地下牢に、男性の苦痛に満ちた声が響いていた。

 暫くすると、暗い階段をゆっくり下りてくる靴音が微かに聞こえ、暗闇からルカが姿を見せる。

 魔法で灯された薄いぐらい地下牢は、ルカが来てさらに薄暗くなったような気さえする。

 彼は階段を下りた先にいたジョルジュに話しかける。

 その声は地下牢の壁のように冷たい。


「捕らえられたか?」


「はい、捕らえた3名はすでに尋問しております」


「なんか吐いたか?」


「いえ、ご期待に添えず、申し訳ございません」


「後は俺が話を聞く。それと、1人だけ2人とは違う部屋に連れて行け」


「誠に勝手ながら、すでに捕らえた1人を、1番奥の部屋に繋いであります」


 ルカは1番奥の部屋に向かうと、その部屋に入った。

 部屋の中は蠟燭で灯され、時折うまれる煙は怪しげな色を部屋に広げ、鉄の臭いが充満し、その刺激臭が鼻につく。

 天井から伸びる手枷に繋がれた男が、力なく顔をゆっくりと上げた。

 すると、わずかに金属がぶつかる部屋に響く。

 男はルカが居ることに気が付くと、弱々しく薄ら笑いを浮かべた。


「なんだよ……、ガキじゃねぇか」


 そう吐き捨てた男とは違い、ルカは冷たい視線を男に向けている。


「そうだな、俺はただの子どもだ。だが、お前にいくつか質問がある」


 ルカはそう言うと、男に歩みを進める。

 その足音は無音に近く、不気味なまでに音を立てない。


「……はぁ? オレが答えると思うか?」


「別に期待してないよ。でも、時間がないから手短に済ませようとは、思ってる」


 そう言ったルカの声は、凍てつくような冷たさが感じられ、普段の彼からは想像できなかった。

 ルカはズボンのポケットに手を入れて男の前に立つと、彼の足元から男に向かって黒い影が伸びていく。

 黒い影は男の足に螺旋上に巻き付くと、そのまま胴体や腕に同様に巻き付き、最後は首に巻き付いた。

 すると、瞬く間に男の顔は青ざめていき、ルカは彼に冷ややかな視線を送っている。


「な、なんだだよこれ! お前オレに何したんだよ!」


 男は脅えたように手足を必死に動かすと、ガチャガチャと金属がぶつかる音が部屋に響く。

 しかし、男を見つめるルカの表情は変わらず、男の背中には冷え切った汗が流れる。


「嘘を付いてもすぐに分かるから、嘘は付かない方がいい。お前の目的と依頼主を言え」


「ハッ! オレが子ども相手になら言うと思ったのかよ。なめんな!! 誰が言うかよ!」


 男がそう言った次の瞬間、支えを失くした金属がぶつかりながら床に落ちる音がした。

 一瞬の沈黙の後、男は大きく目を見開き、わなわなと震える口を大きく開き空気を震わせる。


「ああああああああああ! オレの足がぁ!!」


 これまで経験したことのない痛みに、男は悲鳴に似た叫び声を上げて肩で息をし始めた。

 その口元は苦痛で引きつり、男の頬は青白く、その肌は恐怖で冷たくなっていた。

 だが、そんな状況でも男はルカのことを鋭い眼差しで睨み付ける。


「お前の目的と依頼主を言え」


「……だから……言うわけ……だろ……。ああああああああ」

「お前の目的と依頼主を言え。次は腕が消えるぞ?」


 男を見上げていたルカは、感情のない眼で男を見つめている。

 彼にとって男の痛みになど興味がない。

 ただ男の目的と依頼主が知りたいだけ。

 けれど、彼の口元はわずかに口角が上がっていた。

 ルカは、わずかでもこの状況を楽しんでいたのだ


「ば、化け物! お、お前こそ、誰だよ!! こ、こんなの聞いてねぇぞ!! あああああああああ!! オ、オレの腕がぁああああ!」

「お前の目的と依頼主を言え」


「い、依頼主は知らねぇ!! た、ただ、この家にいる……あ、赤ん坊を(さら)って来いって言われたんだ! ほ、本当だ!」


「他には?」


「――(さら)えなかったら、殺しても構わないって……。か、簡単な仕事だって……オ、オレたちは、そう、そう言われたんだよ!! お前の……お前のような……化け物がいるなんて……知ってたら、受けなかったよ……なぁ……信じてくれよ……」


 恐怖と痛みに震えながらも、懇願するような目で男はルカのことを見つめる。


「本当のようだな、なら依頼主の特徴を言え」


「か、顔は……知らねぇ……。マントで……か、顔は見えなかった……。だけど……、声が女だった……」


「それだけか?」


「へ、へび……、蛇だ! 蛇のタトゥーが首に!」


 男は助かりたい一心で記憶を絞り出すと、ルカに期待の眼差しを向ける。


「蛇か……」


 ルカはそれだけ呟くと、彼は右手で顎を支え、左手には右肘を乗せて思考する。


「なるほどな……。あ、そうだ。最後だから、お前の質問にも答えてやるよ。俺の名は “ルカ・オプスブル” だ。――どうだ? 知りたがっていただろ?」


 男はルカの言葉を聞いて、顔が絶望に歪んむ。


「お……おぷ……す……ぶる」


 そう言う男の瞳からは光が消えている。

 ルカは絶望する男の顔を見ると、背を向けてドアへと向かう。

 部屋に響く足音は鈍く響き渡り、カチカチと歯がぶつかり合う音が微かに聞こえる。

 部屋を出るとルカはゆっくりとドアを閉めた。

 そして、バタンとドアが音を立てて閉まると同時に、彼の足元から伸びていた黒い影が元に戻る。

 彼は足元を見ながら俯くと、悲しそうに「化け物か……」と微かに呟いた。


 ルカの背後にある部屋からは、先程までいた男の気配が、完全に消えていた。


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