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13度目に何を望む。  作者: 雪闇影
4章

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第109話 それぞれの旅路


 あれから新聞では今回のことが、大きく取り上げられた。

 衝撃的な事件に、エルガドラ王国民は驚き、貴族と王家に向けられる視線は厳しくなった。

 しかし、新聞で取り上げたことによって、戦争を望む声は、事件の真相が明るみに出るにつれ沈静していた。


 登城命令があった日。

 ディーンがラウルに渡した資料を書いた人物は、すでに捕らえられていた。

 その人物を捕らえたのは、レティシアとライアンだ。

 2人は地下室で資料を見つけた後、犯人の仲間に繋がる証拠を探していた。

 ライアンの書斎にいる黒蝶で様子を聞きながら、2人は書斎を使って人物が仲間と接触するのを待った。

 そして翌日、地下室にいた魔物の様子を見に来た犯人は異変に気付き、仲間と連絡を取った。

 その結果、レティシアたちは犯人たちを、一網打尽にすることができた。


 地下室とライアンの書斎を使っていた人物を見て、レティシアは目を開いて驚いた。

 なぜなら、ラウルの宿をアランたちと訪れた時、彼らを部屋まで案内した男性だったからだ。

 そして、その男性こそ、地下室にあった資料を書いた人物でもある。


 ライアンが男性に動機を尋ねると、彼はライアンに唾を吐き掛けた。

 さらに彼は、「ヴァルトアール帝国の奴らに話すことなんてない」と吐き捨てた。

 彼の様子からガルゼファ王国でも、ヴァルトアール帝国は嫌われているのだと、レティシアは感じた。

 そのため、もう嫌われているなら、とことん嫌ってもらおうと、レティシアは彼を拷問に掛けることに決める。


 しかし、レティシアのやり方は、ライアンが顔を背けるほど残酷だった。

 医学の知識と回復魔法が使える彼女は、犯人を死なせる可能性は低い。

 けれど、彼女は彼らが本気で死んでも話さいなら、それでもいいと思っていた。

 だが、目の前で仲間が拷問を受けている姿を見れば、言わなくても自分がどんな目に合うか想像できる。

 そのため、どこまで真実を語らずにいられるか、彼女はそれだけを見極めていた。

 彼女は顔色を変えず、身内の名前を引き合い出すこともなく、淡々と質問を繰り返す。

 この時、ライアンとリビオ王は、幼いレティシアの残酷性を初めて知った。


 結局、犯人たちは震えながら、ポツリポツリと自白した。


 結論から言えば、魔物を操る時に使った紫の欠片は、彼らが作ったものではなかった。

 そうなれば、出所が気になるところだが、彼らは頑なに話そうとしない。


 いや……正確には、話せなかったのだ。


 なぜなら、彼らの1人が欠片の入手経路を離そうとした時。

 突然ガタガタと震えだし、口から泡を吹いて椅子から倒れた。

 レティシアとその場に居た医師は、すぐさま治療するために容体を確かめ、原因を探した。

 すると、特定の秘密を明かそうとすると、体内の黒魔法が反応し、命を奪う呪いがかけられていた。

 もちろん、書いて伝えようとすれば、同じ結果が待っている。

 他の者たちを調べると、同じような黒魔法が使われていた。

 そのため、レティシアたちは最後まで欠片の入手経路が分からないままである。



 登城命令から1ヵ月が経った、神歴1496年12月30日。


 久しぶりに宿屋へと帰って来たレティシアたちは、リビングに集まってアランに今回の顛末を聞いていた。


「それじゃ、今回の事件に手を貸していた貴族たちは、元王妃だったアンドレアに脅されたわけじゃなくて、アンドレアに賛同した者たちだったのね」


「そういうわけだ。アンドレアは元々、おれの母親と親父が結婚する前、婚約者候補として名前が上がってた1人で、純血思考が高い家系だったんだよ。親父は純血思考じゃないけど、貴族たちからの圧力に負けてアンドレアを城に迎え入れたそうだ」


 疲れた様子で深くソファーに腰掛けたアランは、紅茶を一口だけ飲むと軽く息を吐き出した。


「アンドレアは、その時からリビオ王の命を狙っていたの?」


「いや……城に住み始めた頃は、純粋に親父のことが好きだったらしい……でも、母さんが兄さんを産んでから、少しずつ気持ちの変化があったって本人が話してたよ。人族である母さんが親父に愛されることも、親父の子どもを産んだことも許せなかったって……」


「……歪んだ愛って言うのかしら?」


 レティシアが考えるように言うと、アランは呆れたように笑う。

 彼は彼女に対し、自己に関する感情に鈍感なくせに、他人の感情に敏感なんだなと呆れたのだ。


「それは、おれには分からねぇ。でも、アンドレアはそれがきっかけで、余計に人族が嫌いになって、人族をこの国から排除しようと思ったそうだ」


「捕まっていた女性たちの行方は?」


「そっちは完全にお手上げだね。その件に関わってた者たちは、変わり果てた姿で見つかるか、魔物の件に関わってた者たちと同じように、黒魔術によって話せなくなってたよ」


(やっぱり、全員は帰って来られないのね……)


「そう……聖女と精霊師は?」


「その2人も、相手に魔力を定期的に流せる魔法を、どこで教わったか聞いたけど、話せなくなってたな。まぁ、親父はそのことについて、2人の故郷であるルーンハイネ教国に聞いたけど、2人は故郷を捨てていて、自分たちは関係ないって言われてたよ」


 レティシアはアランの話を聞いて、疑問に感じた。

 もし、本当に関係ないのであれば、登城命令は断ることも可能だった。

 それにもかかわらず、彼らは登城命令に従っている。

 そのことから考えられるのは、あの場で2人を切り捨てたか、他にも目的があったかだ。


「そうだったのね……この後、事件に関わってた彼らはどうなるの?」


「事件に関わってた貴族は、すでに服毒が決まってる。聖女と精霊師は、ルーンハイネ教国が2人を切り捨てたから、断首が確定してるよ……その時に、アンドレアも同じように処刑されるはずだ。魔導師たちは、ガルゼファ王国に犯人たちを引き渡したから、あちらの法律で裁かれるって聞いたよ」


「……オスカーは?」


 異母兄弟の名前を出されたアランの顔は、途端に暗くなった。

 今回の事件に、オスカーが関わっていないことは、アランが調べて分かっている。


「……はっきり言えば、まだ決まってない……王族から除名されることは、確定してるんだけど、その後のことは宙に浮いたままだな……死ぬまで幽閉されるか、それとも国外に追放されるのか……まだ分からない……」


「――どちらにしても、彼にとっては地獄そのものね」


 オスカーが国外追放となれば、確実に刺客が放たれ、彼は命を落とすことになる。

 だけど、幽閉されれば、確実に国外追放よりも長生きできるが、命を狙われるのは同じだ。

 そして、アンドレアと同じような考えを持つ者が現れれば、オスカーを次期王に押す人が現れる。

 そうなった場合、確実にこの国では血が流れることとなるだろう。

 そのため、争いを望んでいない者たちの中に、オスカーが生きていて良いと言える者がいないのだ。

 アランもそのことが分かっているのか、悲しそうにため息をついた。


「そうだな……それで、おまえたちはこれからどうするんだ?」


 少しでも話題を変えようと、アランはそう言ってカップに手を伸ばし、気持ちを落ち着かせようとした。


「皇帝陛下と話して、レティシアも帰れるようにしてあるから、俺たちはヴァルトアール帝国に帰るつもりだ」


 疲れた様子で話を聞いていたルカは、足を組み直して言った。

 一方、ライアンはソファーにもたれ掛かりながら話し出す。


「オレは、兄上に許可をもらったから、ここに残るかなぁ……紫の破片についても調べたいし、他に調べたいこともあるから」


「ふーん。ルカとレティシアは帰るのか……寂しくなるな……」


「レティシア?」


 ルカは俯いたレティシアを心配して、彼女に声をかけた。

 彼女が顔を上げと、ルカは彼女と視線が重なる。

 その瞬間、彼は直感的にいやな予感が働く。


「ルカには悪いけど、私はライアンとここに残るつもりよ」


 アランはレティシアの発言に驚き、思わず紅茶を吹き出しかけた。

 しかし、ルカはアランの反応には目もくれず、ただじっとレティシアを見つめている。

 睨むようにルカがレティシアを見ようとも、彼女が目を逸らす様子はない。

 彼は堂々としているレティシアに対し、深いため息をつき、疲れたようにこめかみを押さえながら口を開く。


「悪いけど、それは許可できない」


「ルカが許可してくれなくても、ライアンは許してくれたわ。だから、私はここに残ることに決めたの」


 ルカはパッとライアンの方を見たが、彼はルカの方を見ようともしない。

 だけど、天井を見ながら、ライアンは話し出す。


「大丈夫だよ。いろいろとレティシアには制限を付けたし、ルカが心配することはない。それに、ここでレティシアが帰ったところで、学院に入ってしまうルカに何ができるの? そのことも考えて、オレと兄上で許可を出したんだ。これは皇弟と皇帝の決断だよ」


 ライアンの言葉を聞き、ルカは拳を強く握った。

 レティシアが決めた以上、ルカは皇族に口を出すことはできない。

 しかし、ルカは彼女と一緒にヴァルトアール帝国に帰りたかったのだ。

 別々に帰ることになれば、次に会えるのがいつになるか分からない。

 そして、何か彼女にあっても、駆け付けることができない距離。

 そのことが不安となり、彼女のことを思えば、悲しみが込み上げる。

 ルカはレティシアの目に彼が映っているのを見ると、息が詰まったように苦しくなった。


「私はお母様の死に、紫の破片も関係していると考えているわ。だから、あの破片がなんなのか、ちゃんと調べたいの。ヴァルトアール帝国に帰って、ライアンの報告を待っているだけでは、また私は前に進めないと思うのよ。ライアンもいるし、ステラもいてくれる……それに、困ったらアランもいるわ」


 レティシアは話しながら、彼女の隣で丸くなっていたステラをなでていた。

 眠たそうにステラがあくびをすると、彼女の顔には微かに笑みが浮かぶ。


「ルカが必要ない訳じゃないわ。ただ……ルカには、向こうでお母様の件について調べてほしいの。これは……私個人からのお願い。だから、断ってもいいわ」


 ルカはソファーにもたれ掛かると、額に腕を当てて深く息を吐き出した。


「……分かった。――でも、定期的に連絡はしてほしい……」


 そう言ったルカの声は、少しだけ震えていた。


「ええ、もちろんよ。ルカにもらった通信魔道具もあるから、直接ルカに連絡するわ」


 レティシアはそう言うと、ルカが彼女の顔を見た。

 彼の顔は、少しだけ子どものように泣きそうで、レティシアは胸がチクッと痛んだ気がした。

 だけど、彼女はなぜ胸が痛んだのか分からず、ルカに微笑んで見せる。


「ルカ、すぐにまた会えるわ」


「ああ、今度は俺が向こうでレティシアの帰りを待ってる」


 そう言ったルカの顔は、やはり子どものように泣きそうな顔をしていたが、それでもレティシアにルカも笑って見せた。



 ◇◇◇


 2週間後。

 ルカはアルノエと一緒にヴァルトアール帝国に帰って行った。


 ルカは馬車に乗り込んだ後も、何度も振り向いてレティシアの顔を見ていた。

 彼女を見つめる彼の表情は悲しげで、今にも泣きそうであった。


 次第に馬車が遠ざかると、レティシアは(きびす)を返してライアンと歩き出した。

 レティシアの表情からは、迷いや寂しなど感じらず、ただ真実が知りたいと言っているように見えた。


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