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深夜の公園

喪服のように黒い晦冥の空の下、一人の少女が何かに追われるように人気の無い夜道を小走りに歩いていた。


少女は黒いブレザーと同色のスカートを纏い、胸元には赤のネクタイ、高校の制服のようだ。


長く艶やかな黒髪の間から、彫りの深い西洋人形のような顔が覗く、その表情は慌ただしい動作に反して落ち着いている。


青白い街灯に照らされた公園が見えると、少女は中に駆け込んだ。


そして、そのまま公園に併設されたグランドへと向かった。


「ここなら思いっきり暴れても大丈夫ね。さあ、そろそろ姿を見せなさい」


少女はそう言って後ろを振り返った。


すると、そこには二つの黒い霧の塊が浮かんでいた。


二つの霧は蠢きながら巨大な獣へ変化した。


その獣は人間の顔に犬のような胴体という異様な姿をしていた。


一匹は禿頭の厳めしい老人の顔、もう1匹は魔女のような老婆の顔をしていた、両者とも肉食獣のような鋭い歯を持ち、地獄の炎のように燃えさかる赤い眼をしている。


「GYUORURURURURURURURURU~~~~~~~ッ!!!!」


異形の獣たちの現世のどの動物にも似ていない咆哮が闇に響く。


「この辺りで起きた連続殺人事件、被害者は皆、体に獣に噛まれたような歯形が残っていた。犯人は、お前たちね」


そう言って少女は二匹の獣を睨んだ。



「我らを見て顔色ひとつ変えぬとは、貴様、ただの小娘ではないな?」



老婆顔の獣人が怪訝そうに眉を潜めた。



「聞いた事があるぞ!!人間でありながら我らに近い力を持ち、数多の同胞を殺めて来た者達がいると……」


老人顔の獣人が憎々しげに言った。


「私の名は御剣マキナ、魔界より現れ人々に災いをもたらす妖魔どもを滅ぼすのが私の使命だ!!」


少女は自己紹介をすると、拳を握りしめ腰を落とし戦闘態勢を取る。


「ほざけッ!! たかが人間如きに我らが滅ぼせるものかッ!!」


そう叫ぶと老婆顔の獣人が少女に向かって駆け出した。


もう1匹も、その後に続く。


マキナは物怖じする事なく2匹の動きを見据える。


老婆顔の獣人が目前に迫った時、マキナは素早く制服のポケットから小さな瓶を取り出した。


「聖なる力よ! 悪を滅ぼしたまえッ!!」


そして、瓶を老婆顔の獣人めがけて投げつける。


瓶が割れ、中に入っていた水が飛び散った。


中身は教会で成聖された聖水だった、聖なる水は邪悪な獣に触れるとマグマの如き高熱を発し炎を上げた。


「ギャアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」


甲高い悲鳴を上げ、老婆顔の獣人は顔面を炎に包まれながら、のたうち回った。


必死に顔面を地面に擦り付け火を消そうと藻掻く。


「小娘がーーーーーッ!!! 頭から噛み砕いてやるわ!!」



そう叫ぶと、老人顔の獣人は5メートルほど上空に飛び上がった。


無数の皺の刻まれた顔に不釣り合いな鋭い牙をひん剥き、地上のマキナに目掛けて落下する。


だが、マキナに噛みつこうとした瞬間、銀色の閃光が獣人の視界を切り裂いた。


そして、地面に落下する時には、獣人の頭と体は離ればなれになっていた。


凛々しく佇むマキナの手には西洋剣が握られている。


制服の背中からは黄金の鞘が覗いている、上着に忍ばせていた剣を瞬時に抜いたのだ。


犬型の胴体は首の断面から血を吹き出しながら、のたうち回り、老人の頭は岩のように転がりながらマキナを睨んでいた。


人間の小娘に、いとも簡単に倒され憤死した頭部と同様に、胴体もやがて石のように動かなくなった。


その様子を見ながら、もう1匹の獣人が、聖水の力で焼け爛れた顔でマキナを睨みながら低い唸り声を上げている。



「おのれ~~~~~!!! 八つ裂きにしてくれるわーーーーーーーーーーーッ!!!」


そう叫ぶと、老婆顔の獣人はマキナ目掛けて飛び掛かった。


「そう、出来るものならね……」


マキナは呟くと、飛び上がり攻撃をかわすと同時に獣人の背中に剣を突き刺した。



剣の先端は心臓を貫いている。


そして、獣人の体を飛び越え着地する。


「聖剣ジョワユーズは魔に裁きを下す」


マキナが手に握る剣はキリストを貫いた聖槍を素材とする伝説の聖剣である。


聖なる力を宿した剣は妖魔の邪気に反応して熱を帯びだす。


剣が刺さったままの姿で這いつくばる獣人の体が湯気を発したかと思うと皮膚や肉がゼリー状に溶け出した。


後には残ったのは人間の頭蓋骨に獣の胴体という奇妙な白骨だった。


マキナは白骨死体の背中に刺さった剣を抜き取ると、魔獣の血肉と邪気を払うように空を斬った。


そして、愁いを帯びた顔で剣を鞘に戻した。



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