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スカーレットの魔法譚  作者: Minty オーロラ
第三章 リスタート
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第90話 鏡中の自我

 ミスティー・セラフィンは、魔法郷ノクラン王国に生まれた貴族の令嬢だ。

 端麗な顔立ちも、生来の優れた魔法の素質も、そして幸福な家庭という後ろ盾も、すべてに恵まれて生まれた以上、きっと彼女は満ち足りた幼年期を過ごしただろう。

 魔法で戦うなどの出来事を夢見たままに、家族の導きに従い魔法教授となって、魔法の秘密と歴史の研究に一生を捧げていく――そうなるはずだった。


 その運命が十二年前のある夜に、徹底的に歪曲された。


 四歳の時、両親は『禁忌研究罪』を着せられ、敬愛していた兄リアム・セラフィンと共に、『時間刺客(タイム・アサシン)』サメラ・イリナの刃で斬り捨てられた。


 あの精鋭刺客の襲撃から、どうやって自分だけが生き残れたのか、ミスティー自身、いまだに答えを持たない。

 ただ、夜明けの頃には、すでにフェニックスに保護された――その記憶だけが残っていた。


 禁忌に触れた――ただそれだけで、セラフィン家は世間の目から没落貴族として断罪された。

 当然のように、どれほど高貴な血筋に生まれようと、ミスティーがその連座から逃れられるはずもない。


 冷たい視線に晒され、社会の異端者として扱われ、家に残されたあらゆる罪の影を、その日から一人の幼い少女が背負う。

 友はなく、拠り所もない。けれど、諦めなかった。


 いつの日か、肉親の仇を自分の手で討つため。

 いつの日か、『穢血(ファウル・ブラッド)』の汚名をすすぐため。

 いつの日か、貴族であることを誇りに、胸を張って正義を掲げ、世の尊重を受けるため。


 だからこそ、力が必要。


 気づけば、手にした筆先は佩剣へ変わり、華奢だった身体は必死の鍛錬で一日また一日と強くなっていった。


『強くしてくれないものは、要らない』


 修練中、そう口にしたことがある。

明鏡(シュピーゲル)>――セラフィン家が代々受け継いできた特殊魔法。だが効果の限界と実用性の狭さゆえ、未練はありつつも割り切り、鍛錬の時間の多くを、剣術と水属性魔法の研鑽に割くことにした。


 やがて、現写世へ赴き魔法使いの同胞を救出する任務を始めた。世界の不条理へ正義を執行するだけでなく、三つの目標を一気に前へ進める最良の機会でもある。


 ……少なくとも、その時はそう信じた。


 救出行動を契機にSMP組織へ接触し、サメラの行方も掴めた。

 遭遇時の台詞、復讐の段取り、戦術、すべて考え尽くしたはず。

 なのに、どうしても避けられない一人だけを見落とした――雨夜澪音。


「ごめん、澪音。この一言以外を考えられない。あなたに、ひどいことをした」


 ずっと自分から積極的に他者と関わらず、他人の感情を慮ることも滅多にない彼女には、『ごめん』以外の謝罪の言葉が、どうしても浮かばない。


 そう。ミスティーが澪音に謝りたいことは、三つある。


 初めて出会ったあの日、サメラが風海高校の近辺に出没する、という情報が入った。

 澪音が落とした学生証を見つけた時、彼を囮にして仇を誘い出そうと決めた。

 本来なら、正しい選択は真逆だ――学校へ通わせ続けるのを止め、フェニックスのもとへ連れて行き、魔法郷への移住という選択肢を提示すべきだった。

 無辜の人間を利用し、私的な目的を果たす振る舞いが、どうして『君子』と呼べる。


 反省はした。

 が、魔器『ハグニス』の所在を掴んだ後、先輩たちの前で有能さを示したいという功名心が先走った。


 意図して澪音に隠した――他の小隊の協力者が死亡したこと、そしてSMP組織が介入していることを。

 危険は、彼が最も大切にしている幼馴染まで巻き込み、結果として『魔器回収』は完敗に終わった。それどころか、澪音の心理の防壁を砕き、山木秋風と有栖月渚との絶交を決定づけてしまった。


 そして最後の最後、澪音は体育祭でSMP組織の襲撃を受けた。

 彼に最も近い小隊の一員でありながら、協力者を守る義務を果たせなかった。


 なぜ。


 なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ。


 いったい、なぜ――あれが本当の自分じゃないはずなのに……のか?


 人生の中で自分を疑い、迷い、立ち止まる時期は、ミスティーにもあった。

 鏡の前に一人で立ち尽くし、問いかける――本来の自分は、どんな人間なのか。けれど鏡面に映るのは、美貌のはずなのに、見れば見るほど見知らぬ顔だった。


 そして、理解した。


 照魔鏡(しょうまきょう)が真実を映すように、向こうに映っているのは、飾り気のない、本当の自分自身。


 一人。

 いつだって、一人。

 一人であるべきだ。何事においても。澪音への謝罪でさえ、そうでなければならない。


『大丈夫。だって私は強いから』


 本音をごくりと飲み込んで、重さを隠して、一人ですべてを抱える。

 最良の自分で在り続ける。世界からの理不尽を自力で断ち切り、家族への流言も悪意も消し去り、失われた栄光を取り戻す。


 それは茨の道で、孤独な修羅の道だ。けれど構わない。

 だって、いつだって、最初から最後まで、一人だから。

 もう慣れてしまった。


 ……


 ………………


 ………………………………なのに、鏡中の自分は、なぜ泣いている?


 敵に生け捕られたことで消極的になったせいか。

 目の前を走馬灯のように過去がよぎり、悔やんでいるのか。

 長年追い続けた仇を討てぬまま、一生がここで途切れてしまうからなのか。

 さっぱり分からない。


(……たん)


 別れの時が近づいて、生涯を振り返り、後悔したのか。

 ありえない。そんなことをしたら、今まで貫いてきた自分のすべてを否定することになる。


(……ミ……たん)


 では、理由は何なのだろう。

 考えるのは正直、面倒でしかない。

 けれど、もし向こうへ行けたら、父上、母上、兄上に、もう一度会えるのだろうか。再会した時、どんな顔をして、彼らはどんな反応をするのだろう。

 駄目だ。全然、想像が追いつかない。


(ねえ、ミーたん! 聞こえる?! 目、開けて!)

(……え?)


 耳に届いた、聞き覚えのある声。

 焦りと、同時にどこか切実な心配の色がにじんでいる。


(……まさか。誰が危険を冒して、SMPの拠点まで私を助けに――)


 ふと、澪音の顔が脳裏を横切って、独り言が途切れた。

 同時に、温かな流れと柔らかな触れ心地が肌を撫で、意識はまた朧に沈み、さっきまでの思考が幻覚だったかのように遠のいていく。


「……私、どうしたの……?」


 か細い声が漏れる。

 差し込む光に目を慣らしながら、ミスティーはゆっくりと眠たげな瞳を開いた。

 その温もりは、予想していた人物からのものではなかった。

 彼女の身体を支え、研究所の長い廊下を一歩一歩進んでいるのは――山木秋風、その人だった。


「あっ、よかった! やっと起きた! どう? 大丈夫か?」


 秋風の熱い気遣いに、ミスティーは初めて拒絶を感じなかった。むしろ、少しだけ胸が動いた。

 とはいえ身体機能はやっと覚醒したばかりで、「うん、なんとか……」と力なく返すのが精一杯だった。

 その間にも、半開きの両目はすぐに、前方を駆けるもう一つの見知らぬ背中を捉える。


「あなたは……?」

「初めまして、ミスティー・セラフィン。俺は一組の黒雪榛。今回は雨夜さんと一緒に、あなたの救出に来ました」


 振り返った榛の顔を見た瞬間、ミスティーの眉が跳ね上がる。

 まともに話すのは確かに初めてだが、体育祭の時に彼を見て、曖昧な記憶の底にまだ輪郭が残った。

 ただ、その『よく知らない』相手が澪音と共に行動する姿は、どうしても素直には飲み込めない。故に目を細め、瞳の奥に疑念を走らせる。


「……なんで私が捕まったって知ってるの?」


 そう問いながら、視線を秋風の横顔へと移し、


「それに、あなたも。ここに来るって、どういう意味か分かってるの? まさか……これも幻なの?」


 警戒の本能から、ミスティーは秋風を押しのけた。

 まだおぼつかない足取りで、それでも無理やり自力で立ち上がると、数歩後ろへと下がる。


 迷者である秋風がSMP組織の拠点にいるという状況が、まず不自然だ。

 おまけに、黒雪榛という少年の素性については何一つ知らない。彼らの言葉を鵜呑みにできるはずがなかった。


「本当だよ、ミスティー。二人とも、雨夜君が君を助け出すために頼んだ味方。心配しないで」


 けれど、その疑念はすぐに、安心感のある女性の声があっさりと打ち消した。

 榛の背後から花蓮が顔を出し、潤んだ目を瞬かせながら、翼でミスティーの愛剣『深海幽霊(ファントム)』を掲げ、目の前でひらりと揺らす。


「ほら、ちゃんと君の剣も取り返しておいたよ。あとは一刻も早く、ここから抜け出さないとね」


 フェニックスの指示を受けた花蓮は、障害物を悉く無視しながら研究所の地下一階へ突入し、秋風・榛の小隊と合流した。

 霊体の優勢を活かして各部屋を巡り、克哉に奪われた武器の回収にも成功する。

 今はテレパシーで外へ待機しているフェニックスとカリナに状況を伝え、撤退ルートを確認するところだった。


「ちょっと、花蓮さん!」


 状況説明を聞き終えても、ミスティーの顔には『助かった』の安堵の色は浮かばない。

 むしろ、困惑を滲ませたように眉をさらに寄せる。


「なんで迷者の前に姿を見せているの! 私たちが守るべきルール、忘れたの?」


『魔法使いの不文律(ルール)』の中でも最も重い、第一条――迷者に魔法の存在を知られてはならない。

 この規則は魔法使いに限らず、精霊種も従うべきものだ。それを迷者である秋風の前で破った以上、これは明白な違反だった。


「そう言うと思った……」


 予想通りの叱責に、花蓮は呆れたため息を落とした。だが次の瞬間、彼女はこれまでにないほど真剣な眼差しを返す。


「長話はしない。王室は、あなたの救出をすべて禁じた。雨夜くんは人手を集めてあなたを連れ戻すために、山木くんと有栖さんに全部話した」

「澪音が、自分から――」

「フェーくんが頼んだの。全部、あなたを助けるため」


 一直線の説明が、ミスティーの反論を喉元で止めた。

 生涯ずっと『正義の実行』と『規則の遵守』の道を歩き、規則の枠内で生きることだけが正道だと信じてきた。――けれど、いまこの瞬間、その長年の信念が真正面から揺さぶられる。


「私のために、澪音は不文律を破った……?」


 小声で、ミスティーの両手が震えた。

 澪音の動機を知って、嬉しくない、感動しないと言うなら、それは嘘だ。誰かに気にかけられ、必要とされ、置き去りにされない――結局それは、『一人ではない』という感触で、あまりにも久しく触れていなかった温度。

 口にしなくても、自分の胸に問いかければ答えは決まっている。――悪くない、と。


「私が、間違ってたの……?」

「間違いとか正解とか、そういう話じゃない。雨夜くんだって、きっと是非を証明したくて、あなたを助けに来たわけじゃないよ」


 少女の珍しい自己反省の気配に、花蓮の態度も柔らかくなり、口調は優しい姉の諭しへ変わる。


「今度こそ、絶対にあなたを一人にしないって」

「……えっ?」


 奇談でも聞いたかのように顔を上げ、ミスティーは信じられないという表情を隠せない。


「なんで澪音はこんなことを……私は一度も、自分の過去を彼に話してないのに……」

「私にも分からない。でも、その覚悟で彼は親友たちに真実を告げて、SMPの拠点に乗り込むって決めた。たぶん……あなたたち、どこか似てるんじゃないかな」


 花蓮の言葉に、思案するように頷いた。だが同時に、周囲を一瞥して気づく。話題の中心であるはずの少年が、ここにいない。


「澪音……澪音は?」

「マ、マスターなら……まだ地下三層で、組織の人間と戦ってる……」


 答えと共に、背後から一人と一体の精霊が、全員の視界へ入ってきた。

 必死に身体を支え、月渚は歯を食いしばって一歩一歩近づく。気力を振り絞った澪奈はその横で、ようやく仲間の無事な姿を目にし、張り詰めていた神経を少しだけ緩めた。


「澪奈ちゃん! 月渚ちゃん!」


 二人の痛々しい様子に、真っ先に反応したのは秋風だった。

 精霊少女の腕から疲れ切った幼馴染を引き取ると、不安げな眼差しでその傷を確かめる。


「組織の人間と戦うって……澪音一人で?!」

「うん……私たちが逃げる時間を稼ぐために、マスターは自分から残った」


 ミスティーの露骨な焦りに比べて、澪奈の声は異様なほど冷静だ。

 しかし、その平静は『信頼』ではない。

 結末が読めてしまうがゆえに、無理やり受け入れているだけだった。――恐らく、無事で済む可能性は限りなく低い。

 たとえ克哉を倒せたとしても、この研究所から生還できる確率は、ほとんどゼロに等しい。


「なんで……そこまで……」


 声は、もう嗚咽に近かった。

 ミスティーの双眸には、自分でも気づかないうちに涙が滲んでいた。

 雨夜澪音――出会った当初から抱いていた印象は、臆病で、事なかれ主義で、どこまでも弱気な少年。

 そんな彼が自分の命を賭けてまで助けに来る存在だと、想像したことは一度もなかった。


『じゃ、私が危険に遭ったら、澪音は、どうするの……?』


『遠くから応援するよ。セラフィンさんでも敵わない相手に僕が勝てるわけないじゃない? ならば、精神的な応援をした方がましさ』


 商店街からの帰り道、彼がそう答えたことを、ミスティーは覚えている。

 冗談めかした言葉の裏に、実は澪音なりの本音が隠れていることくらい、心のどこかで理解した。

 それでも、まさかその『もしも』が現実になったとき、今まで臆病だと思った彼が、ここまで頼りになる存在だとは――夢にも思わなかった。


「出発前、マスターは『せめて、君を一人にしたくない』って言ってた」


 そっとミスティーの肩に手を置き、澪奈は一拍置いてから、静かに言葉を紡ぐ。


「私には分かる。マスターの奥底には、言いようのない空虚が隠れてる」

「……寂しさ?」

「たぶんな。あなたの心境を感じ取れたからこそ、マスターは迷わずそうすることを選んだと思う。<赤羽>が<銀月>に不利だって知ってもな」


 澪奈の推測は、先ほどの花蓮の言葉とも重なる。

 最後まで聞いたミスティーは、澪音が勇気を振り絞った理由をようやく呑み込めた。

 そして、普段は友人とも呼びにくいほど不器用で、同居してからも衝突ばかりだった二人が、なぜお互いを理解し合えるに至ったのか――その答えが、霧の中の灯台みたいに、少しずつ形を持ち始める。


 多分、それは共感なのだと、ミスティーは思う。


 そっと<明鏡>を発動させ、掌ほどの小さな鏡を一枚生み出す。

 鏡面に映るやつれた顔には、涙痕が目尻から顎まで伸びていた。あまりに鮮明で、あまりに苦い。


 家族を失って以来、どれほど久しく他者のために泣いていなかったか、どれほど久しく自分以外のことで心が大きく動揺しなかったか。


 おそらく、長い年月の中で初めてのことだった。


「……駄目。駄目だ! 澪音の終点がこんな場所であってたまるものか!」


 泣き叫ぶような声だった。

 ミスティーはいつもの沈着な装いをかなぐり捨て、周囲の視線など構わずに、勢いよく振り返る。皆の顔を一人一人見つめ、全員へ意思を求める。


「この状況を招いたのは、全部わたしのせいだ! ここまで来て置いていけるわけがない! 澪音に私の罪を背負わせるわけにはいかない! そう思わないの?!」


 秋風と月渚は沈黙した。

 誰より澪音の無事を望むのは、十数年の親友である二人だ。そして花蓮も、彼らの胸中を察しているからこそ、どうしても安易に賛成の一言を投げられない。


 だが、そんな静寂の中で、榛の「僕は反対」はあまりにも耳に刺さった。瞬間、視線が一斉に彼へ集まる。


「僕たちがここへ来た最終目標は、他の誰でもない、あなた――ミスティ・セラフィンを救い出すことだ。さっき、あなた言葉は、皆を説得して……いや、自分自身を説得して、雨夜さんのところへ戻ろうとしているだけ。違う?」

「……はい……」

「それは雨夜さんが選んだ決断だ。今戻れば、彼の覚悟を無意味にしてしまうだけじゃない。全員を危険に晒すことになる。それは、非常に無責任な行動だ」


 空気を読まない直言でも、榛の論は理性的だった。ミスティーも落ち着いた途端に小さく頷き、認める。


「……その通り。ごめんなさい、焦ってた」


 ただ、澪音も救いたいという想いは、理屈では消えない。

 たとえわずかな可能性であっても、そこに希望があるなら、必死に手を伸ばして掴みたくなる。

 ミスティーにとって、十二年前の夜がもう一度やり直せるのなら、あらゆるものを賭けてでも、悲劇を止めようとしただろう。


 ――父上、母上、兄上なら、きっと『諦めるな』と背中を押してくれるのだろうか。


 鏡に映る自分をじっと見つめながら、ミスティーはそう思う。澪音を助けたいという信念はさらに強くなった。

 そして、澪奈の前まで歩み寄り、手にした鏡を差し出す。


「大局を無視するようなことは、もう言わない。一緒に逃げる、約束する。でも澪奈、お願い。どうしても、この鏡を澪音に届けて。きっと、彼の力になるから」


 思いつく限り唯一、最後の手段だった。残る希望を、全部、精霊少女に託す。

 フェニックスと共に過ごした彼女なら知った――契約精霊とマスターは、運命共同体と言っていいほど強く結びついていることを。

 だから、『澪音を無事に帰らせたい』という澪奈の意志が、自分と同じだと賭けた。


「……戻る、よね?」


 真剣な眼差しを受け、数秒の沈黙ののち、澪奈は小さく「うん」と肯定する。

 実際、澪音を見捨てる気など最初からなかった。『月渚と皆を合流させる』の約束を果たしたら、すぐ支援に戻るつもりだった。が、さっきの空気では言い出す隙がなかっただけで、ミスティーの頼みを口実に、その考えを表へ出せた。


 ――その同時刻。


「見つけたぞ! ここだ! 全員捕らえろ!」


 突然、廊下の奥から大勢の警備兵が雪崩れ込んできた。

 数十人の圧で、黒い警棒を武器にした者たちが左右から瞬時に包囲を完成させた。


「SMPの増援だ! 澪奈ちゃん、雨夜くんのところへ急いで!」

「分かった!」


 花蓮の催促に背中を押され、澪奈はすぐに澪音と同じ形の双翼を広げた。

 小柄な体と飛行能力を活かし、天井際を滑るように飛び抜けて、警備の包囲網を一瞬で突破する。


「どう、ミスティー? 戦闘できそうか?」

「普段ほどじゃないけど、体の感覚は戻ってきてる。問題ないわ!」

「ふふん、やっと元気出たね~それでこそ、私が知ってる強い子だ!」


 ミスティーの愛剣『深海幽霊』を持ち主へ放り返し、花蓮は翼をはためかせて滞空する。次の瞬間、


「人の姿で行く! <真顕(リアル・フォーム)人間(ヒューマン)>!」


 緋色の光が花蓮の身体を包み込む。

 足元には魔法陣が浮かび上がり、『鳥』の姿が変容を始めた。

 翼、羽毛、鉤爪――鳥類としての特徴は光の中へ溶け、小さかった輪郭が一気に膨らんでいく。


 光線がほどけると、斜め半身で立つ花蓮が現れた。

 緋色のドレスは胸元から腰へかけてきゅっと絞られ、金の意匠が曲線をなぞって高貴さを刻む。肩口には白い羽毛が襟のように重なり、喉元の赤い宝石が小さく灯る。


 細身ながら芯のある体つきで、くびれは強く、脚は長い。

 袖の布は腕の動きに合わせて羽ばたきの残響みたいに揺れ、『鳥だった名残』が、人の姿のまま優雅に主張する。


「うわっ! 花蓮さんの人間形態、めちゃ美人じゃん……!」

「ふふ、そういう素直なタイプを、お姉さんが好きだよ」


 秋風の賛美に、花蓮は唇を結んで見惚れるほどの笑みを返す。

 視界の端では、榛も以心伝心のように察して、<逢獣(クロスビースト)>を発動し、両腕を獅子の形へ変じさせた。

 少年の構えを見ると、花蓮は秋風と月渚を背へ庇い、持ち上げた右の掌には赤紅の魔法陣が浮かび、烈火の余熱が迸る。


「山木くん、有栖さん、私たちから離れないで! そしてミスティー、黒雪くん、突破するぞ!」

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