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スカーレットの魔法譚  作者: Minty オーロラ
第一章 緋色の三日間
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プロローグ

『世界は五百年後に滅びる』


 そんな夢を彼女はよく見る。


『夢』と呼ばれるのは、それが睡眠中に見る幻想だからだ。


 けれど、その中の場面や出来事が現実に起こったなら、それはもはや幻想の領域を超え、『予言』と称えるべきものとなる。


 ならば、彼女が見たものは単純な夢ではなかった。


 世界の片隅、霧に包まれた森の中。

 裸足の女は巨石の後ろに身を潜め、口元の血を拭い、息を潜めていた。危険がまだ近づいてこないことを確認し、激しい心拍が徐々に落ち着いていく。


「あのスカーレットの残党は近くにいるはずだ! 早く探せ!」


 附近、帝国から来た追手が、森全体を隈なく捜索している。狩る対象はたった一人――逃亡中の虚弱な魔女。


 千人規模の捜索隊は、鉄兜と短剣を装備した騎士団の精鋭と訓練された魔物で構成される。人海戦術を前に、見つかるのは時間の問題だ。


 だが、そのわずかな時間こそ、彼女が求めたものである。


「ふぅ……平和な未来のために……」


 血塗れの黒いマントを脱ぎ捨て、足を組んで地面から一メートルの高さまでゆっくりと浮遊した。


 傷だらけの左腕を辛うじて持ち上げると、瞬時に、掌から放たれた緋色の光線が空気中で凝縮し、半透明のバリアを形成して彼女と外界を隔離する。

 そして、血の気の失せた唇を開き、


「エル・ルーデン・クリムゾン・ミカ――」


 唱えられる呪文が微弱な金光を放ち、花弁のように足元に舞い降りた。

 地面と融合しながら、徐々に大きな円形がその輪郭を現す。


「見つけたぞ! ここだぁー!」


 隠れ場所は兵士の喚声によって露見し、一瞬で四辺を騎兵が囲む。


「躊躇するな! その場で処刑しろ!」


 命令を受け、兵士たちは武器を高く掲げ、一斉に襲いかかった。が、バリアは薄青く揺らめき、見えない壁そのものだ。

 触れた刃先は、無音で鉄壁に当たったかのように跳ね返る。


「突破できない?! なんの魔法だよ、これは!」

「あの女、何か変な儀式をしてるぞ!」

「早く止めろ!」


 新たな攻撃の始まり。無策で、ただ力任せに相手の頑強な防御を突破しようとする。


「……マンク・ルリ・カンワ」


 詠唱最後の音声が終わると、残りの呪文が地面に描かれた模様と結びついた。その瞬間、女は魔法陣から放射された光輝に包まれる。


 同時に、数十本の槍がバリアを破壊し、彼女の身体を貫く。


 一縷の悲鳴も、抵抗もない。痛みは一瞬のうちに消え去った。


 風がその乱れた長い髪を吹き上げ、凄惨な死に様を見せつける。ただ、血に染まった顔面に浮かぶのは、驚くほど穏やかな微笑だった。まるで、平然と全てを受け入れられる運命であるかのように。


 何故か。


 幾度も繰り返される夢の中で、死は終焉ではなく、この世界の終わりも一直線の絶望ではなかった。そこには書き換えの余地がある。希望へと繋がる道筋が、いままさに幕を開けようとしている。


 魔法は完遂されて、肉体が朽ち果てる際、意識は既に脱出したのだ。

 人類歴史の時間線上にある中世のこの時空から。

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