この世界とは
深夜遅く、日付も変わったであろう時刻に事は起きていた。
街の中で、男一人を円状に取り囲むように大勢が多種多様な武器を構えていた。
「ヤツは、たった一人だ!武警団の威信にかけてここで打ち取れーー!」
この集団ーー武警団と名乗る集団のリーダーらしき男が声を張り上げると大勢が一斉に囲まれている男に攻めようとしていた。
しかし、囲まれている男は慌てることもなく落ち着いた様子で腰に差している刀を抜いた。
すると攻めてこようとしてきた奴らの足が止まる。
「人に武器を向けるということは命を懸ける覚悟があるということだな。今立ち去れば貴様らの命は取らないでおこう。さあ、どうする?」
「ここで引いたら末代までの恥、覚悟!」そういいながら武警団の一人が突撃して行った。
囲まれている男は相手の攻撃を最小限の動きでかわし、斬りすてる。
「ぐはぁっ!」
男に突撃して行った武警団は勢いそのままに地面に倒れて行く。
周りの奴らは最初の数秒は、速すぎて何が起きたか理解出来てない様子だったが、倒れた仲間をみて全て理解したのだろう。
ここら一帯の空気が殺気で覆われた。
次の瞬間、男目掛けて全員が突撃したーー。
しかし、十秒後には男を取り囲んでいた武警団は全員倒れていた。
男には傷一つついておらず、服に付いているのは返り血のみ。
男はゆっくり武警団のリーダーの方に歩き出す。
「……な、そんなばかな。私の武警団を瞬殺だと!?」
「まだ、こんなくだらねぇことするか?」
そう言いながら睨み付けると、相手と目が合う。
「そ、その目。まさか……おまえは!?」
「思い出す必要はねぇさ。今回ばかしは相手が悪かったな」
男はそういい、次の瞬間武警団の首を切り落としたーー。
※ ※ ※
「……まとさん。……大和さん!起きてください。いつまで寝てるんですか。もう昼ですよ」
女性の元気に溢れている声で大和は起きた。いや、起こされた。と言った方が適切だろう。
時計を見ると時刻は、十一時を指しており太陽がギラギラと大和を照りつけていた。
「ふぁ〜あ。おはよう、朱音。別にいいじゃねえか休みの日くらいゆっくりさせてくれよ」
そう言って大和は二度寝を決め込もうとしたが、朱音によってそうは行かなかった。
寝ようとした大和を無理矢理起こして突然ーー。
「今日何の日か知ってますか?」
真剣な顔でそういいカレンダーの方を指差すと。
「……知ってると思うか?」
「今日はですね、私たちが出会って一ヶ月記念の日なんですよ。という事で今晩は夕食を豪華にしたいので一緒に買い物に行きましょう!」
「もう、そんなに経つのか。早いもんだな。分かった、分かった。今準備してくる」
大和はそう言うと、急いで寝間着から外出用の服に着替えて、玄関に移動した朱音の所に向かう。
雨宮朱音ーーこの家の住人で俺はとある出来事を機に住ませてもらわせている。朱音はショートヘアーで性格は几帳面なため、記念日などはよく祝おうとしてくる面がある。そして一番の特徴は体躯にある。とても18歳とは思えないほどのメリハリのある体つきと透き通るほどの白い肌が自慢だろう。まぁ、本人は何とも思ってないが。
「すまん、待たせたな」
「大丈夫です。そんなに待ってなかったですし、というかこんな時でもそれ持っていくんですね」
朱音が「それ」と言って指さしたものは、大和の腰に差してある刀のことだった。
大和が差している刀は、刃長が2尺以上ある「打刀」と呼ばれる代物だった。
「まぁ一応だよ、一応。今の世の中自分の身は自分で守らないといけないからな」
朱音は玄関を閉めつつ昔の出来事を思い出すように語り出した。
「……確かに少し前の時代、政府の民間に対する政策がズボラすぎて民間による対政府への反抗運動のようなものが起きましたからね」
「そうだな、しかも内乱が起きたとまで聞いている。そのせいで民間側と政府側の仲は酷いらしい」
「あぁ、それ聞いたことがありますよ。内乱中先陣斬って戦った人たちがいるんですよね。すごいですよね」
「ああ」
朱音は尊敬の眼差しだった。何がそんなにすごいのかよく分からないが彼女の眼差しを汚さまいとなにも言わなかった。
「そして、その数年後に追い打ちをかけるように西洋の国が極秘に開発していた『魔法』という技術が完成され、この国に持ち運ばれたんですよね。そして、持ち運ばれた際真っ先に政府に交渉しに行き、技術の一部を提供する代わりにいつでも魔法を使えるよう法律を緩めてほしいと半ば脅しで言ってきた。と、町の人が言ってましたよ」
「……その通りだ。魔法により更に文化は発展したが、銃刀法は無くなり、一般の人でも刀や拳銃を持ち運んでいても捕まることはない。つまり逆に言えばみんなが凶器を常に持っていられる時代になってしまったということ。このことに対しても当時も今もまだ政府や西洋の奴らに反感を持っているものは大勢いる。だから、気をつけろよ」
「分かり……ました」
やはり朱音はどこか不安そうな表情で返事をする。先ほどまで晴れていた天気がいつの間にか曇天に変わっていた。まるで朱音の心を映しているみたいだった。
もしかしたら出会った時のことを思い出してしまったのかもしれない。
「そんな顔するな。命に代えても守ってやるから」
大和はそう言い朱音の頭に手を置く。
朱音はその手をすぐ振りほどきこちらに微笑みかけて。
「その言葉一か月前もいっていましたね」
「あぁ、そうだったか」と言いながら大和は一か月前の朱音の出会った日の事を思い出していた。
ーーそして、話は一か月ほど前に遡る。
大和と朱音が出会ったあの時まで……。
更新は気分屋