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7:旧婚約者の真実

 時が止まったかのようだった。

 いつの間にか息も止めてしまっていたのか、レイアルーテは苦しくなって息を吐き出す。……貴族令嬢としての教育では動揺一つで足元を掬われるから心を常に穏やかで落ち着いたものに心掛けなさい、と先生から教わっていたというのに。

 などと、今、フォンダーから聞いた言葉を現実のものだ、と受け止められずに現実逃避をするレイアルーテ。


「大丈夫か」


 フォンダーはさすがに直接過ぎたか、とちょっとだけ後悔する。


「あ、す、すみません。ええと、フォンダー様が仰ったことが聞き取れなくて」


 レイアルーテは、ハッと現実に戻る。聞いてなかったからもう一度、と口籠もりつつ尋ねる。殿方の話を聞いていなかったなど、本当に淑女失格だ……と己に項垂れながら。


「レイアルーテ。事実だ。聞き間違いなどではない。君の前の婚約者であるテレンス・ワイドには、隠し子が居る」


 レイアルーテが現実逃避をしていることに気づいたフォンダーは、ゆっくりと且つはっきりと現実を突き付ける。

 レイアルーテはその身を震わせた。


「そ、そんな」


「信じられないだろう。信じたくないだろう。私と信頼関係も出来ていないのに、とも思うだろうが」


 ここで一旦言葉を切ったフォンダーは、仮面越しにレイアルーテの目をジッと見る。レイアルーテも仮面の奥から強い視線を感じてもう一度身を震わせた。


「ーー事実だ」


「そ、んな」


 壊れたように繰り返すレイアルーテ。


「何故、レイアルーテにこのことを話すのか。それは既に社交場で噂が広まりつつあるからだ」


 重く強い口調から出る噂が広まりつつある、という言葉にレイアルーテは目眩を起こしそうになる。


「君が社交場に戻った時、噂で聞くよりも君の父であるテフロン伯爵か、私の口から事実を伝えておく方がいいだろう、ということになった」


 先程の父との話し合いは、このことか……とどこか他人事のようにレイアルーテは思う。

 そしてレイアルーテはそれだけで父が知っていたことを理解してしまった。


「噂に……なってしまっている、と……」


 レイアルーテの問う声音が震えている。

 フォンダーは無言で、けれどはっきりと分かるように強く頷く。


「君の……レイアルーテの伯母上は社交界の赤薔薇と称されるゾラス侯爵夫人だ」


「はい」


 レイアルーテの父の姉に当たるのがゾラス侯爵夫人・ロゼーヌという。

 尚、父の兄は公爵だった。不幸な事故により従兄が現在のウィステリア公爵位を継いでいる。

 その公爵家が所有していた伯爵位をレイアルーテの父が譲り受けていた。


「そのことを覚えている者は賢いから口を噤んでいるが、賢くない者達は口性無く(くちさがなく)囀るもの。そしてその囀りが噂として広まる。……それも聡い君のことだ、分かっているな?」


 レイアルーテは噂の怖さを知っている。

 昨年、友人の一人であるアニーが伯爵子息から交際を申し込まれたのに関わらず、レイアルーテやアニーと友人付き合いをしていたはずの子爵令嬢に声をかけられてあっさりと其方に乗り換えたばかりか、アニーが男性を立てられない令嬢だ、などと恥知らずにもアニーを貶める噂を伯爵子息が流していたから。

 あんな友人だったことを後悔するような子爵令嬢も、アニーのことを悪く噂し貶めた伯爵子息も、きっと報いを受けるはずだ。

 レイアルーテはそう信じているが、兎に角、噂の広まりは面白そうなもの程、他人の不幸であるもの程早いことを知っている。

 ということは……もうかなりの早さで広まっているだろうとレイアルーテは予測出来た。


「噂になっている、ということは……そのように誤解されることがあった、ということですね」


 レイアルーテはまだ信じられない気持ちなので、現実から逃げてしまいたくなるが、伯母のロゼーヌの名前が出てきた時点で現実だとぼんやりと受け入れ始めていた。

お読み頂きまして、ありがとうございました。


友人・アニーは【夫と契約婚します。〜元々政略結婚ですけどね】のヒロインです。

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