6:新婚約者は暴露する
「レイアルーテ」
「はい」
「本日は君の父上と話をするが、その後君の時間を取ってもらっても大丈夫か?」
「大丈夫です。畏まりました」
レイアルーテの亡くなった元婚約者の噂を夜会で聞いた次の日には、フォンダーがテフロン伯爵家に先触れを出し、予定を調整した本日、テフロン伯爵家をフォンダーが訪れていた。
あまりフォンダーが他家を訪れることが無い上に仮面侯爵のことは広く社交場で知られている。彼がテフロン伯爵家を訪れたことを見た者が居れば噂にはなるだろうが、レイアルーテの元婚約者が亡くなってから三ヶ月以上経つ。勘のいい者は気付くだろう。
新たな婚約者がバイク侯爵であると。
既に国王陛下から承認も取れているのは、フォンダーに結婚を急かしていたことの表れだろう。
正式な婚約発表もバイク侯爵家で夜会を開催する時に一緒に行う予定で、その夜会も来月には行うことが決まって招待状も厳選して送っている。参加の旨を皆が快く返信している。
公爵家も侯爵家も含まれる夜会で、婚約発表をするから覆ることもない。だから噂が先行しようと問題ない、とフォンダーは判断していた。
「これはバイク侯爵」
「お時間を頂き感謝する」
上客を持てなすための応接室にフォンダーを案内した執事がノックをすると伯爵自らがドアを開けて迎え入れる。挨拶を交わしながらドアの向こうへ消えて行った二人だがお互いに腹の探り合いもせずに率直に話を終えたのか、あっという間にフォンダーは応接室から出て来た。
何を話していたのか執事も知らないが、分かるのは自分が持って行こうと思っていたお茶すら出す間もなかった、ということ。
「そのお茶はこの後、レイアルーテとバイク侯爵が話をするからそこへ持って行け」
フォンダーを見送っていた伯爵は執事に命じて自分は執務室へ向かう、そこに改めて自分のお茶を持って来るように告げて向かってしまった。
執事は有能だが素っ気ない主人の命に頭を下げる。あちらがこちらを見ていなくても、頭を下げて命を聞くことは、彼の執事としての誇りのようなものだから、常にそうしている。
その彼の誇りを、あの主人に育てられたにしては素直に育ったと思う娘である令嬢はよく知っていて、執事はよくぞ素直に育ってくれた、と密かに安堵している。まぁ貴族令嬢としては、裏表が無いことはやや不安ではあるが。
そんなことを思いながら、執事はフォンダーとレイアルーテが居るはずの中庭へとお茶が冷めないうちに、と足を向けた。
「レイアルーテ」
「まぁフォンダー様。もうお父様とのお話は終わりましたの?」
中庭で待つレイアルーテは、あまりにも早いフォンダーの登場に驚く。直ぐに終わるかもしれないし、時間がかかるかもしれないと言っていたが、どうやら直ぐに終わる方だったようだ。
「ああ私の意思と伯爵の意思の確認をしただけだからな。考えが違うと話し合いが長引くかと思ったが、伯爵も同じ気持ちだったらしく、スムーズに終えた」
「まぁ! それはようございました」
父とフォンダーは似たような考え方であるのかもしれない、とレイアルーテは呑気に考えていて。
だから次に言われた言葉に、レイアルーテは自分を取り繕う事すら出来なかった。
「レイアルーテ。君には残酷なことを告げなければならない」
「残酷なこと、でしょうか?」
残酷と言われる内容に心辺りが全く無いので、レイアルーテは首を傾げた。
「心して聞くように。君の亡くなった前の婚約者、ランプ伯爵家のテレンス・ワイドのことなのだが」
「テレンスが、なにか?」
「彼は生前、ある女性との間に子を生していた」
フォンダーの言われたことが理解出来なくて、レイアルーテは暫く首を傾げたまま、指一本も動かせられなかった。
お読み頂きまして、ありがとうございました。