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3:新婚約者の疑問

 それは、婚約が決まってから六十日目に行われた五回目の交流日のこと。レイアルーテはフォンダーから前の婚約者について尋ねられた。


「えっ……。テレンスのこと、ですか」


「亡くなってから一ヶ月で私と婚約し、それから二ヶ月。未だ三ヶ月しか経っていない。……気持ちの整理がついた、とは思えない。違うか」


「それは……正直に申し上げますなら、整理出来ていません」


「そうだろう。だから少しでも話をすれば楽になるのではないか、と思ったまで」


 フォンダーの言葉は表情が見えないからか淡々としている。人によっては冷たく思えてしまうような響きに聞こえるだろう。

 けれどレイアルーテには違った。

 侍女のテーゼ以外では僅かな友人にしか胸の内を打ち明けられないが、だからこそ誰にも打ち明けて来られなかった。聞いて欲しいとは思う。

 けれど同時に同情されてしまうことが申し訳なくも思っていた。テーゼは専属侍女でずっと私に寄り添ってくれる。友人達もそっと寄り添い泣くレイアルーテを慰めてくれる。

 それはとても嬉しいし有り難かった。

 ただ。

 ただ話を聞いてくれる相手も欲しかった。

 我儘を言うようだけど他人事のように。

 話すレイアルーテに、ただ一言、そうか、と言ってくれるだけの人に胸の内を打ち明けたかった。

 今のレイアルーテにはそれだけで良かったから。


「ランプ伯爵子息のテレンス・ワイドは……幼い頃からの婚約者で。子どもの頃は結婚相手というより友達のような付き合いでした。成長するに従い、私はテレンスのことを男性として意識して好きになりました。それを打ち明けたらテレンスも同じだ、と。好きだ、と言ってくれて。思い合う関係になれました。……でも流行り病に罹り、結婚目前であっという間にテレンスはあの世へと旅立ってしまいました」


 レイアルーテはポツポツとテレンスとのことを話すにつれて感極まって涙を溢す。

 まだ三ヶ月しか経ってないのだから無理もない。


「君は……葬儀には参加したのだろう?」


「はい。ただ……」


「ただ?」


「最後までは居られなかったのです」


「……そうか。では最後まで見送れず心残りなのだな」


「はい」


 フォンダーは、レイアルーテの父親が娘には話していないと言ったことを思い出した。この様子では知らないのは確かだろうが、果たして噂にならないと言えるだろうか。

 もしも噂になったとしたら……

 面白おかしく噂を掻き立てるだろう貴族達。

 情報は新鮮さが命だし、情報が入らないことは身の危険もあることだが。

 それ以上に他人の不幸を楽しむのが貴族という世界だ。

 足元を掬われないように振る舞いながら生き馬の目を抜くことを考える者達が居る。それが貴族。

 それに合わない者は淘汰される。若しくは自ら踠いて自滅する。或いは……喰われる。それも貴族。

 あの父親に育てられたはずなのに真っ直ぐに育ったこの娘が貴族達に嘲笑されるのは気に入らない。喰われるのも気に入らない。

 ……先に教えておくべきだろうか。

 少し考えたフォンダーは未だ周囲にはレイアルーテと婚約したことを発表していないことを踏まえて、先に自分だけ社交に赴き周囲の様子を見てから、レイアルーテの父親と共に判断しよう、と保留にした。


「君との縁談は君の父親から頼まれたもので、正直なところ私に利は無い」


 レイアルーテは、そうだろうな、と納得する。

 仮面侯爵と揶揄され、その仮面の下の素顔は傷痕があると言われている。尤もそれを他人に見せることはない、ということなので実際のところは知らない。

 ただ、そんなバイク侯爵だが侯爵当主の手腕は確かで、領地は豊かで領民も当主を慕っているという。だから懸命に働いた結果、更に領地は豊かになり富んでいるので、贅沢をしたい令嬢などは夫人の座を狙っている、とレイアルーテは聞き及んでいた。

 そんな令嬢達を袖にして来たフォンダーが何故レイアルーテと婚約したのか、レイアルーテ自身が疑問だった。

 女性避け、と言うかもしれないが既に女性達を払い避けてきた実績のあるお方にとって今更でしかない、とレイアルーテは思っていたから。

 自分の父が高位貴族と繋がりを得たいがために、フォンダーに話しただろうことは推測出来る。けれどフォンダーがこの婚約を受け入れる理由も利益も無いのは、レイアルーテじゃなくても、子どもでも理解出来るはず。

 ……一体どんな意図があってこの婚約を受け入れたのか、レイアルーテは知りたいような知りたくないような気持ちになった。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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