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2:新婚約者との顔合わせ

 噂通り、仮面を付けたバイク侯爵・フォンダーを見てレイアルーテは少し恐ろしく感じた。……その仮面が目と口以外顔の全てを覆っているからだ。

 フォンダーはレイアルーテの怯えを感じ取ったかのように挨拶もせず、名乗った後で仮面について口を開いた。


「噂で知っているだろう。この仮面は人前では絶対取らない。あなたと婚約しようが結婚しようが取ることはない。早く慣れろ」


 この時、フォンダーとしては仮面を付けた自分に怯えていると思っての発言だったが、レイアルーテが怯えたのは少々違う意味であった。

 そして、淑女は男性の言葉に逆らわずに聞くべき、と育てられたレイアルーテなので早く慣れるつもりでもいるし、取らないのならそれも了承するつもりでいるが、それと恐ろしく思うことは別なので、どうしても尋ねたかった。


「あの。バイク侯爵様」


「フォンダーでよい」


「フォンダー様。その、このようなことは初対面で尋ねることが淑女ではないかもしれませんが」


「なんだ。仮面の下の素顔について知りたいか」


「いいえ」


 フォンダーは、侯爵という爵位から仮面を付けていてもその素顔が気になる、と令嬢達に群がられることも屢々あった。

 それが鬱陶しくて傷だらけの顔が見たいのか、と一言言えば去って行くので、レイアルーテもそうだと思っていたのに、素顔について、ではないようで、少し興味が惹かれた。髪の毛三本分くらいだが。


「では、なんだ」


「その、あの、その仮面……。鼻まで隠れていますが息は出来るのでしょうか? 息がし辛いのは苦しそうで怖いのですが」


 レイアルーテは、思い切って恐ろしく感じた原因を尋ねた。叱られるかもしれない、と目を閉じていたため、フォンダーが目をパチパチと瞬いたことを、レイアルーテは知らない。……そして口元が軽く緩んだことも。


「これは、息が出来るような構造になっているから問題ない」


「あ、そうなんですね! 良かった!」


「よかった、とは?」


 フォンダーは良かったと言われたことに驚き尋ね返す。


「えっ? 息をするのが苦しいのでは口から息をしていることになるでしょうし、そうすると喉が渇きそうだと思いまして」


 なるほど、と納得してしまう。

 それから婚約して欲しいと頭を下げたレイアルーテの父を思い出した。

 ーーあれは確か。

 レイアルーテの婚約者が亡くなって直ぐの夜会。レイアルーテは参加してなかったが、その父は参加していた。元々フォンダーとレイアルーテの父であるテフロン伯爵は事業提携をしていて他の貴族達より絆があった。


「婚約者を亡くしたばかりのご令嬢を妻にして欲しい、と?」


 この伯爵は考え方が古く、男尊女卑のような発言をすることは多々あった。その娘の育ち方もテフロン伯爵を見ればなんとなく分かるようなもの。

 だが、それにしても前婚約者が流行り病に罹ってしまい亡くなってから直ぐの打診。

 テフロン伯爵の常日頃からの発言で娘を政略結婚の駒にしたがることは納得いくが、それでもこんなに早く、それも自分に、ということにフォンダーは鼻白む。

 どれだけ侯爵家との繋がりが欲しいのか、と。


「まだ婚約者を亡くしたばかりのご令嬢でしょう。気持ちの整理が付いていないのではないですか」


 だから断る、とは口にしないが意味は分かるだろう。

 そう思ったフォンダーの耳に場所を変えて内密な話を、と告げてくる伯爵に更に鼻白む。

 そんなものは聞きたくない、と話を打ち切りたかったが、男尊女卑の考え方のある古い貴族の伯爵は、裏を返せば当主同士の腹の探り合いで空気か読める。

 だから当然、自分の目上の爵位を持つフォンダーが話を打ち切りたいことに気付いているはずなのに、珍しく食い下がった。

 仕方なく付き合ってやることにした。

 聞いてやればいいだろう、と。

 ーーそして聞かされた話は聞かなければ良かった、と後悔するものだった。

 併し聞いてしまったからには無かったことにも出来ず、フォンダーは噂される程冷たい男でもなく。仕方なくこの婚約を受け入れた。

 フォンダー自身も仮面侯爵と揶揄する癖にそれでも侯爵夫人という地位に目の晦んだ女性達を躱すのにちょうどいいという事情もあった。

 ……だが、こうして初めて顔を合わせて、仮面姿のフォンダーに怯えることもなく、かといって素顔を見せろと迫ることなく、気にしたのは呼吸がし難いことはないのか、という疑問。

 そんなことを気にした令嬢は……令嬢だけでなく……誰一人として居なかった。


(あの父親に育てられた娘にしては、随分と真っ直ぐに育ったな)


 それがバイク侯爵・フォンダー・スネイルの率直なレイアルーテに対する感想だった。

 フォンダー自身も気づいてないが、レイアルーテにかなり強い興味を持った瞬間でもあった。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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