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12:新婚約者との婚約発表

 レイアルーテとフォンダーの婚約発表がバイク侯爵家で開催された夜会で行われた。

 ランプ伯爵と夫人……つまりテレンスの両親はそれなりに人目のある所で離婚宣言をしていたので、ランプ伯爵が夫人と離婚しないと、ランプ伯爵が夫人に縋っているように見受けられることもあってスムーズに離婚していた。

 それに伴い、テレンスの子を産んだ娼婦にそこそこの金を支払って子だけを取り上げた。もし金が無くなったからと言って子の前に現れるなりランプ伯爵家を訪ねるなりした場合は、手切れ金として渡した金の倍額を請求する、という念書も書かせて。

 土壇場になって漸く貴族らしい対応をしてみせたことでランプ伯爵家の醜聞は収まった……と対外的には言えるが、二歳という手のかかる子どもをランプ伯爵が育てられるとは思えず、乳母を探し家庭教師を雇って何とかなっているのが現状のようだ。

 そんなゴタゴタなランプ伯爵家だったために、バイク侯爵・フォンダーとテフロン伯爵令嬢・レイアルーテの婚約をかなり後で知ったが、夜会を開いて発表したタイミングを考えるに、その前に招待状を客に出していたことを踏まえれば、ランプ伯爵がフォンダーに味方をしてくれ、と懇願したあの夜会の時には既に水面下でレイアルーテとの婚約が決まっていたことに気付いた。

 断ってきた理由は、考え直しても正当な断り文句ではあるが、婚約者となったレイアルーテの醜聞に関わるような事態に自分が巻き込まれることは嫌だったのではないか、とフォンダーの心境に気づいたが、今となっては想像でしかない。

 そしてテレンスの服喪期間が明けての夜会であれだけランプ伯爵家の醜聞が噂で流れてしまったのは、自分が娼婦とその子をテレンスの葬儀に参列させていたという自業自得の結果だとランプ伯爵は理解した。

 テフロン伯爵がレイアルーテを先に葬儀会場である教会から帰らせた後でこっそりとランプ伯爵に抗議したのを軽く往なし、テフロン伯爵が娼婦を厳しく問い詰めた時点で、自分はテフロン伯爵との友情を彼に切らせたのだろう、と判断し、以降ランプ伯爵はテフロン伯爵にもバイク侯爵にも近づくことはしなかった。

 ……何とか判断出来る思考があった、と見るべきなのだろう。

 その後のランプ伯爵家がどうなるのか、それはテレンスが作ってしまったという子が成長するまでは分からない。


「あら。フォンダー、あなた、婚約が出来たのね。まぁお相手が傷心令嬢なのは、あなたにはその程度の令嬢がお似合いという事かしら。傷痕侯爵と傷心令嬢なんてとてもお似合いよ」


 婚約発表の夜会にて、多くの貴族は内心はどうであれ、フォンダーとレイアルーテを祝福していたと言うのに真っ向からこのように煽る発言をして来たのは、フォンダーの前の婚約者だったマリネル夫人だ。

 マリネルはフォンダーが侯爵子息だった頃の婚約者で間接的にフォンダーが仮面を被る事になる原因を作ったというのに、この言い草である。

 三年前にフォンダーと同じ侯爵位を継いだ相手と結婚して夫人になっていた。


「まぁ! エルゾン侯爵夫人では有りませんか。今夜は私とフォンダー様との婚約発表の夜会にいらして下さり、ありがとう存じます。エルゾン侯爵はどちらですの?」


 此処で対応をしたのは、レイアルーテだ。

 フォンダーは自分が仮面を被る事になった原因である元の婚約者に煽られて言葉を詰まらせてしまい、対応が遅れた。その遅れを取り戻すようにレイアルーテがにこやかに笑みを浮かべてフォンダーの腕にそっと手を添えていただけのエスコートから、その腕に腕を絡ませる親密なエスコートを更には見せ付ける。

 つまり、レイアルーテとフォンダーの仲の良さをマリネルに見せつけているのだ。

 この行動にマリネルは盛大に顔を痙攣らせたし、フォンダーは仮面の下でとても驚いた。

 レイアルーテはテレンスが亡くなり確かに傷心していたが、テフロン伯爵に育てられた娘である。元々は勝気で売られたケンカは笑顔で買い取り更に勝つことしか考えていない。

 つまりまぁ、侯爵どころか公爵夫人でもやっていけるだけの胆力と強かさと賢さと狡賢さを持っていた。令嬢達の足の引っ張り合いを華麗に蹴散らすくらいはやって退けるし殿方に守って貰わなくては生きて行けないか弱い娘でもない。

 これにはフォンダーもバイク侯爵家の使用人達も気付かなかった。

 この遣り取りを見ていたバイク侯爵家の家令はフォンダーに相応しい夫人となれそうなことに安堵すると共に、レイアルーテに対する評価を見直し、自分の目もまだまだ節穴だったことを恥じたのは、また別の話である。


「お、夫は本日の夜会に出席出来ないから私が代わりに出席したのよ」


 声も動揺しているマリネルに笑顔でそうですか、とレイアルーテは対応しつつ、周囲に聞こえるか聞こえないか分からないくらいに声量を調整してマリネルに告げた。


「そういえば、エルゾン侯爵様は確か白菊をご寵愛だとか? 白菊の花から花弁が生まれ落ちるようですわね?」


 マリネルは瞬時に顔を真っ赤にして怒りを見せたが、さすがに自分が侯爵夫人だということを覚えていたのか怒鳴り散らすこともなく、用を思い出した、と帰って行った。

 見事にレイアルーテはフォンダーの前の婚約者に勝利してみせたのである。

 序でにレイアルーテが結婚前から侯爵夫人らしき強かさを周囲にも見せ付けられたので、誰からも異議は出ないだろう。

 それに。


「相変わらず、お転婆ねぇ、レイアルーテ」


「伯母様! いらしてくれたのね!」


 社交界の赤薔薇ことゾラス侯爵夫人・ロゼーヌが親しげに声をかけたのを見て、ランプ伯爵家のテフロン子息が亡くなった後で出て来た醜聞に際して、レイアルーテのことまで噂していた貴族達は、ようやくレイアルーテが誰と親戚だったのか思い出した。

 これでこの婚約に文句を言う者達は一切出なくなったと見て良いだろう。

 社交界を牽引している赤薔薇に夫人方も令嬢方も睨まれたくないのであるのだから。


「今日の夜会は趣向も良いわね」


「ありがとう。フォンダー様にお強請りして私が夜会のコンセプトを考えたのよ」


 おまけに今夜の夜会は、流行りの菓子だけでなく一流の楽隊を招いて演奏させ控えめながらも香りの良い花が彼方此方で飾られて更に庭も間接照明で雰囲気の良いモノになっていたが、その手配をレイアルーテが取り仕切ったと聞いて、その手腕にも夫人方と令嬢方は恐れをなした。

 金も掛かっているだろうが、その金は侯爵家から出ているだろうが結婚もしていないうちから、侯爵家の使用人に指図出来なくては、こんな素晴らしい夜会など執り行う事など出来ない。つまり、既に侯爵夫人として使用人達を把握しているということに他ならないのだから。

 ……実際のところ、家令は侍女長から報告は受けていたもののあまり信じていなかったのだが、フォンダーと婚約して徐々に距離を縮めると共に、レイアルーテはバイク侯爵家を度々訪れて使用人達……特に侍女やメイドなど彼女と関わりが強くなる女性の使用人達に、手土産を持参していた。流行りの菓子だったり手荒れの酷い使用人にはハンドクリームだったりである。

 女性の使用人達は結婚すれば味方にしなくてはならないので、言い方は悪いが結婚前から懐柔していたわけである。

 侍女長も懐柔だと理解しつつも、女主人として使用人達と上手くやっていきたい、と素直に話すレイアルーテに心情は寄り添えたので今回の婚約発表の夜会準備は、レイアルーテのやりたいことを意見しながら受け入れた。

 結果、見事に夜会も成功させたレイアルーテ。

 今や家令も含めてバイク侯爵家使用人一同は、レイアルーテが嫁いで来るのを首を長くして待っている状態となった。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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