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深き水の底に沈む  作者: ツヨシ
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7

陽介が運転席に盛り込むと、三人がそれに続いた。

再びの沈黙。

しかししばらくして陽介がそれを破った。

「聞いたぜ。お望みどおりに。でもどうやら無駄だったようだな」

みまが返す。

「わかったわよ。でもそんなけんか腰でいわなくてもいいでしょ。けんかしている暇はないって言ったばかりでしょ。村の人に話を聞いても無駄だとわかっただけでも、少しは前に進んだのよ」

「わかった、わかった。で、次はどうするよ」

「そう言われても」

みまが困っていると、正也が言った。

「とにかく誰かなにか思いついたら、それを言ってみる。みんながそれに納得したら、とにかくやってみる。それを繰り返すんだ。家に帰れるまでずっとだ。と言ったところでどうだろうか」

みんな無言だったが、しばらくしてみまが言った。

「そうね。とりあえずといったらなんだけど、今のところはそんな感じかしらね。二人はどう思うの」

「今はそれくらいしかないかな」

「どうでもいいけど、早くなんとかしてよ。さっさと。早く家に帰りたいわ」

なんとかするのはお前もだろう、と正也は思ったが、口には出さなかった。

言えばさやかともめるとわかっていたからだ。

みまの言う通り、今は仲間内で争っている場合ではないのだから。

しかし誰もなにも思いつかないようで、ただ静寂の時が流れるばかり。

結構長い間。

正也も懸命に考えたが、駄目だった。

その時みまが言った。

「今、もうお昼はとうに過ぎているわ」

「なんだって。それがどうしたと言うんだ」

そう言う陽介にみまが答える。

「私、朝ごはん食べたの、朝の七時くらいなの。それ以降は全然飲み食いはしていないわ。でものども乾かないし、おなかもすかない。おまけにトイレにも行っていない。それなのに全然行きたいとは思わないの。もうかなりの時間、トイレに行ってないのに」

そう言えば正也も朝ご飯は七時くらいに食べた。

トイレもそのすぐ後に行ったきりだ。

それなのにこの時間になるまでトイレにも行かず、飲み食いもしないのに、のどは乾かないし腹もすかない。

そしてトイレにも行きたくないのだ。

まるで朝から自分の体の時間が止まっているかのようだ。

「そう言えば俺も同じだ」

「私もそうよ」

正也が言った。

「俺も全く同じだ」

みまが続ける。

「やっぱりこの村と言うよりもこの空間、なにかおかしいんだわ。想像を絶するくらいに」

三人ともそれには答えなかったが、心の中では同意していた。

しばらくの沈黙の後に、陽介が小さく言った。

「で、これからどうする?」

みまが言う。

「とりあえず提案があるわ。みんなでこの村を調べない」

「なにを、どうやって?」

「ガソリンはあとどのくらいあるの?」

「もうほとんどない。走っても数キロくらいしかもたないんじゃないかな」

「それじゃあみんなで歩いて、この村を調べましょうよ」

「うーん、それはねえ」

しぶる陽介にみまが言った。

「それじゃあ何もしないでこのまま車の中にいると言うの。そんなんじゃ一生家に帰れないわよ。それだけはわたしにもはっきりとわかるわよ。そうしたいの。それがいいの。どうなの」

「わかったよ。言うとおりにする」

陽介はそう言うと、車から降りた。

みま、正也、さやかの順にそれに続く。

「で、いったいどこから調べるんだ?」

「そんなの自分で考えなさいよ。陽介だって家に帰りたいでしょう。とは言っても、私もなにかあてがあるわけではないわ。こうなったら手あたり次第ね。今はそれしかないわ」

「うーん、手あたり次第ねえ」

陽介の声は明らかに不服そうだった。

みまはそれには当然気づいていたが、あえて無視した。

正也もそうした。

「そう手あたり次第。わかった。それでいきましょう」

反論するものはいなかった。

反論するだけの意見がないからだ。

そこからはまさに手あたり次第となった。

どこでなにをどう探せばいいのか、まるで見当がつかなかったが、今はそんなこと言っている場合ではない。

みんなでかたまった方がいいと言うみまの提案で、四人で集まって行動した。

最初は二十軒ほどある民家の周りから始めた。

とりあえず人工的なものから探したほうがいいのではと言う正也の提案があったからだ。

これも反論する者はいない。

そのままそれをやり始める。

さすがに家の中には入れないので、家の周りを見て回ることになった。

なにかはわからないが、なにかあるかもしれないと思いつつ、四人は家の周りを歩き回った。

一軒ずつ慎重に調べる。

見知らぬ他人の家の周りを。結構な時間をかけて調べたのだが、結果としてすべての家が同じだった。

どこからいくらどう見ても、ただの田舎の家。

納屋があったりなかったり、二階建てだったり平屋だったり、庭に小さな池があったりなかったり。

家ごとに少しばかりの違いはあったが、全てなんの変哲もない田舎の民家であることには変わりがない。

目に着いたなにか特別なもの、変なもの、目立つものと言ったものは、なに一つ見つからなかった。

そして奇妙なことに、何軒かの家で、家の周りをうろついている四人を、家の中から眺めている人がいたが、そのいずれもただ四人を見ているだけだった。

見知らぬ若い四人の男女が、自分の家の周りをあちらこちらじろじろと見ながらうろついていると言うのに、それにたいして特にこれと言った反応がない。

興味があるのかないのかわからないような目で、感情が全く読み取れない顔でただ見ているだけなのだ。

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