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今度現れた時は、何か違う行動を起こしてくれないかと思いながら、正也は待った。
そして前回よりもさらに時間が経ったと思われる頃、陽介の車の横に再びあのスポーツカーが現れた。
そして助手席の男が中でなにかを叫んでいるようだ。
これも今までに何度も繰り返されたことだ。
――また同じなのか?
正也がそう思いながら見ていると、唐突にドアが開き、助手席の男が車から降りてきた。
続いて運転席の男も。
運転席の男は初めて見たが、助手席の男に負けず劣らず、狂暴と言うか、やばい奴と言うか、そういう風貌だ。
そして驚いたことに、さらに二人の男が車から降りてきたのだ。
四人とも、街を歩けば前から来た人が全員避けるような、見た目をしている。
四人が四人ともに、正也がこれまでに見たことがないような危険な雰囲気を、体中から出しているのだ。
――やっぱり近づかないほうがいいぞ、こいつら。
正也がそう思っていると、運転席の男と助手席の男が車の中を探っているかと思うと、なにかを取り出した。
それは金属バットだった。
どう見ても野球なんかするようには見えない四人だ。
それなのになぜ車の中に人数分の金属バットがあるのか。
その金属バットを、いったいなにに使うつもりなのか。
見ていると、なんと四人はその金属バットで、陽介の車をぶっ叩き始めたのだ。
――ええっ!
それなりの体格がある四人だ。
それが金属バットを振り上げて、中古の軽自動車を何度となく叩いている。
陽介の車は窓は割れ、ドアミラーは吹っ飛び、ボディのいたるところがぼこぼこになってゆく。
みまが言った。
「あいつら、いったいなにをしているのかしら?」
その疑問は当然だ。
正也も考えたが、どう考えてもただの八つ当たりとしか思えなかった。
それが正しいとするならば、ただの八つ当たりで見知らぬ他人の車をぼこぼこにするやから。
おまけに車の中に人数分の金属バットを用意しているような連中。
やっぱりこいつらとは絡まない方がいいと正也は思った。
陽介の車がどんどん壊されていくが、あの車にはもうガソリンはないし、村を脱出するのには役に立ちそうにない。
だから正也もはるみもみまも止めなかった。
だいたい今、あの四人を止めるのは、大げさでもなんでもなく、命がけになりそうだ。
男性としては少し小さめで、文科系の正也には無理だ。
そして女の子の中でも華奢なからだのみまは論外だし、武道を習っているはるみにしても、喧嘩慣れしていると思われる金属バットを持った男四人が相手では、さすがに分が悪いだろう。
そのまま見ているしかなかった。
そして陽介の車が見るも無残なものになり果てた頃、四人の暴行が止まった。
少しは気が晴れたのか。
ただ飽きてしまったのか。
これからあいつらなにをするのだろうと見ていると、四人で同じ方向を見ながら、なにか話をしている。
四人が見ていたのは、二台の車から一番近くにある民家だった。
四人はまるで喧嘩をしているような雰囲気で話をしていたが、やがて民家の方に向かって歩き出した。
「追うわよ」
なんて大胆な女なんだ。
あの狂気と言ってもいい四人の暴行を見たばかりだと言うのに。
しかしはるみは背をかがめて歩き出した。
正也とみまもそれにしたがった。
したがうしかないだろう。
はるみを一人で行かせるわけにはいかない。
四人に気がつかれないように近づき、民家の塀に隠れながら見ていると、四人はその家に向かってなにかを言っていた。
声は大きいのだが、四人同時にほぼ叫んでいるような状態なので、なにを言っているかはわからなかった。
すると声に反応して、家から人が出てきた。
正也も数度会ったことのある、初老の女性だ。
四人と女が話を始めた。
そして話が進むにつれて、四人がだんだんといら立ち、そのいら立ちがどんどんと加速度的に増していく様子が、正也にもよくわかった。
四人とも狂暴そのもの顔つきになったが、初老の女は相変わらず能面のような顔のままだ。
話の内容もあるだろうが、その顔が四人を余計にいら立たせているように見える。
――いったいどうなるんだ。あのばあさん、大丈夫か?
正也が幽霊の安否を心配しながら見ていると、運転席の男が叫んだ。
「このクソばばあ!」
それははっきりと聞こえた。
すると運転席の男は、なんと初老の女を金属バットで殴り始めたのだ。
――えええっ!
正也がそのあまりの展開に文字通り固まっていると、残りの三人も、女を金蔵バットで殴り始めた。
さすがにこれはまずいのではと正也が思っていると、それを察知したのか、はるみが言った。
「大丈夫よ。金属バットで、幽霊は殺されないわ」
そう言われてみれば、そうだ。
あの初老の女はすでに死んでいるのだから。
それにしても四人は、女が幽霊だとは知らないはずだ。
いくら女の対応にいら立ったからと言って、四人がかりで金属バットで殴りかかるなんて。
白昼堂々と殺人行為を行っていることになる。
見た目もこれ以上ないくらいにやばいが、やっていることはそれ以上にやばい。
とことんやばいやつらなのだ。
よくも今まで警察に捕まることもなく過ごしてきたものだ。




