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深き水の底に沈む  作者: ツヨシ
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どれくらい川の中にいただろうか。

朝から川に入ったが、もう日が高くなっている。

「もうこんな時間ね。それじゃあ、いったん戻ろうか」

突然はるみが言った。

何かを探さないといけないし、大きな穴にも気をつけなければならない。

そしてひざ下とは言え、川の流れに逆らって動くのは結構きつい。

みんなもう疲れていた。

五人全員がはるみの意見に同意する。

川を出た。

正也は気づいた。

川から出てほんの数秒で、ズボンがすっかり乾いていた。

ずぶずぶだった靴も靴下も全く水気がなくなっている。

さやかを見ていたのである程度予想はついていたのだが、実際に自分の身に起きると、やはり不思議だ。

他の四人も何か言いながら自分のズボンを触っている。

二度目であるはずのさやかでさえも。

「やっぱりここはあれこれと時間の流れが狂っているようね。のども乾かないしお腹もすかないのはありがたいけど。とにかくいったん帰りましょう」

はるみがそう言い、歩き出す。

そして四人がついて行く。

無言のままで。

水の中ではこれといったものが見つかることはなかった。

もしかしたら大事ななにかがあったのかもしれないが、気がつかなかった、あるいは見てもそれとわからなかったという可能性もあるにはあるのだが。いずれにしても川の中に村から出るための大事なヒントとかなにかがあると言う保証はない。

しかしないとも言い切れないのだ。

はっきりしていることは、何か行動を起こさなければ村から出ることはかなわず、いずれあの化け物に喰われてしまうと言うことだ。

とにかく動き回らなければならない。

戦場では動きが止まった時が死ぬ時だと言う話を聞いたことがあるが、まさにそんな感じだ。

正也はそう考えた。

考えながら歩いていると、そのうちに洞窟に着いた。

いつの間にか五人が落ち着ける場所が決まっている。

正也とみま、陽介とさやかは左右に分かれて二人ずつ並んでいる。

そして少し奥の二組の間に、はるみがいた。

「さすがに疲れたわね。とりあえず休みましょうか」

はるみがそう言い、みなが同意する。

それでも黙って座っているだけだ。

世間話や冗談を言う空気では、まるでない。

かと言ってこの村のことも、特にこれと言って話すことはない。

どうやったら村から出られるのか、どうすれば化け物に喰われずに済むのか、まるでわからないからだ。

黙って座っていても時間は止まることなく過ぎてゆく。

川を上がったのは正午ぐらいのはずだったのだが、気づけば洞窟から見える空が赤く染まりはじめている。

「今日はさすがに疲れたわね。私もう寝るから。みんなは好きにしていてね」

おそらくまだ午後六時くらいだろう。

時計はわざわざ見なかったが。

でもはるみはそう言って、横になった。

正也はしばらくはるみを見ていたが、やがて同じく横になった。

みまも正也に次いで横になる。

陽介とさやかは二人でなにかしらぶつぶつと言っていたが、そのうちの二人とも横になった。

横になってもそのままぐじぐじ言っていたが、やがて静かになった。

横になったものの、正也はすぐには寝られなかった。

しばらくしてみまを見て見ると、みまも目を開けて洞窟の天井を見ていた。

正也はそのままみまを見ていたが、みまは正也の視線に気づかないのか、相変わらず天井を見つめている。

まるで今自分が見ている天井が、人生最大の重要物でもあるかのように。この天井に村から出るヒントが隠されていると確信しているかのように。

だがそのうちにみまは目を閉じた。

一度も正也の方に目を向けることなく。

正也もみまを見るのを止めて天井に視線を移したが、やがて目をとじた。

そしてそのまま眠りについた。


目覚めると、外はまだ夜だった。

何時間寝たのかはわからないが、眠りについたのが早かったからだろう。

見ればはるみは目を閉じてはいるが、上半身を起こしていた。

みまはまだ寝ているようだ。

陽介とさやかも眠っていた。

気配を感じたのか、はるみが目を開けて正也を見た。

「おはよう」

「おはよう」

いつものあいさつは済んだ。

それ以上の会話はない。

そのうちにみまが起き、そのすぐあと陽介とさやかがほぼ同時に起きてきた。

やっぱりこの二人には、なんだかのテレパシーのようなものがあるのではないのかと、正也は思った。

「おはよう」

「おはよう」

「おはよう」

「おはよう」

「おはよう」

誰かが目覚めるたびに、起きている全員であいさつをかわす。

しかしやはりそれ以上の会話はない。

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