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深き水の底に沈む  作者: ツヨシ
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「わかりました。いろいろとお話を聞かせていただき、ありがとうございます。それでなにかありましたら、また来たいと思いますので、その時はまたお話を聞かせてもらえないでしょうか」

「ええ、私でよければ。いつでもよろしいですよ。お待ちしております」

「では、本当にありがとうございました」

「いえいえ。なんとか村から出られることを願っております」

「はい、がんばります」

はるみはそう言うと立ち上がり、頭を下げて寺を出た。

四人が続く。

正也とみまも頭を下げたが、陽介とさやかはふてくされたような顔で頭を下げることなく、寺を出た。

もちろんあいさつなどなしだ。


寺を出て獣道を歩いていると、陽介がはるみに声をかけた。

「なあ、あのおっさん、肝心なこと、何も知らねえじゃねえか。とんだ役立たずだぜ。期待して損したぜ。それなのにまたやって来るなんて言って、いったいどういうつもりだよ」

はるみがわずかに語気を強める。

「あの人は、いわばこの村の生き証人なのよ。もう死んでるけど。おまけに私たちの味方だわ。私たちが知らないことも、まだなにか知っているはずだし。幽霊だから生きている人間にはできないことができるかもしれないし。なにかあった時に会って話をするのは、少なくとも損をすることはないと思うわね」

「でも損はしなくても、話して得になることがなかったら、それこそ無駄ってもんだぜ。そんなの疲れるだけだ」

「そうよ、あんな役立たずのおっさん。ほっときゃいいのよ。会う必要なんかないわ。時間の無駄よ」

さやかが同意する。

それにたいしてはるみがかなり強い口調で言った。

「その話はあとよ。いったん洞窟に戻るわ」

それについては陽介もさやかも反対しなかった。


洞窟に入っても陽介とさやかはまだなにかぶつぶつと言っていたが、正也もはるみもみまもそれを無視した。

そんなものは聞きたくもない。

正也は考えた。

村を出る方法も知らなければ、四十八人の村人に負けていわば捕らわれの身のようになっている僧侶。

しかし明らかに正也たちの味方なのだ。

それにこの村や村人については正也たちよりも当然詳しいだろう。

はるみの言う通り、なにかあったら話を聞くのも悪くはないかもしれない。

そんなことを考えていると、みまが小声で言った。

「あのお坊さん、ひょっとしたらなにかの時に頼りになるかもしれないわね」

「そうだな。そうなるといいな。期待しておこう」

みまも同じ考えのようだ。

もちろんはるみもそうだろう。

陽介とさやかは違うようだが。

もうあの二人は無視しておくに限ると正也は思った。

からんでも有益なことはなに一つもないだろう。

その日は、朝に寺を訪ねたきりで、結局なにもしなかった。

行動派のはるみも、ひとりずっと考え事をしていたようだ。

その点については正也も同じだ。

あまり話はしていないが、みまも同じような感じだった。

陽介とさやかは、愚痴、文句、泣き言を言うのに忙しかった。

うるさいにもほどがあるが、だれも相手をしなかった。

あれだけしゃべって、疲れないのだろうかと思うほどだ。

いくらしゃべっても、のども乾かなければお腹もすかないのだが。

そのうちに外が暗くなってきた。

二つのランタンに灯りがともされる。

何も言わないまま一人一人横になりはじめた。

横になっても陽介とさやかはまだぶつくさと文句を言っていたが、正也はやはり相手にしなかった。

相手にする気になんか、なれるわけがない。

うるさく思っていた正也だが、いつの間にか眠りについた。


目覚めると朝になっていた。はるみはもう起きている。みまはまだ寝ていた。

「おはよう」

「おはよう」

そのうちにみまが起きてきた。

「おはよう」

「おはよう」

「おはよう」

一通りのあいさつはかわすのだが、それ以外は誰も口を開かない。

ただじっと座っているだけだ。

しばらくすると、陽介とさやかがほぼ同時に起きてきた。

この二人、似た者同士には違いないが、それだけではなく、なにかテレパシーのようなものでもあるのではないかと正也は思い始めた。

例えば一卵性双生児のような。

「おはよう」

「おはよう」

「おはよう」

三人はあいさつしたのだが、陽介とさやかからはなにも返ってこなかった。

こんな時でもあいさつぐらい返せよ、と正也は思った。

しばらくすると、はるみが言った。

「ここでじっとしていても、なに一つ変わらないわ。外に出ましょう」

「外に出て、なにするって言うんだよ」

そんな陽介にはるみが言った。

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