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英雄たちの復活、そして旅団の復活

 冬の近い小さなアクスムの町、そのオベリスクの頂上から高い男の声が響く。

「私は啓典の主の面前の庭にいたのだぞ。バアルよ、アシェラよ、そしてバアルとアシェラとを眷属とする者よ。主の面前の庭から私たち英雄を拉致するとは、その神聖なる庭を汚したその罪を、啓典の主は御許しにならない。必ずや・・・・・」

 その叫びを嘲るように太い声が響く。

「ギデオンよ。私は、お前が愛するムラの民をやっとここに突き止めたぜ。お前はわれらを何度も冒涜した。お前は私の祭壇を破壊し、わが連れ合いのアシェルを汚したんだぜ。偶像を壊し、祈りを捧げぬものなど、滅べばいいのだ。ゆえにギデオン。お前のこの罪万死に値する。そうだ、お前の民たちの前でさらし者にして見せしめの死を与えてやるぜ」

「あんたたちは、そのようにしてムラの民たちを寂静に押し込むつもりだろう。無駄だ。わかっているはずだ。ここの民はもともと私の同胞のイスラエルの民、啓典の民。それゆえ、啓典の主に忠実なもの。そして私は小さき民の中でさらに小さき者だった。この私をここでさらし者にしても民たちは同情こそすれ、意気消沈などするはずもない」

 その叫びを遮ってしわがれた女の声が響く。

「黙れ、わが(あるじ)、トランシルバニア総督の力を見よ。そしてあきらめよ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ヤザンとジェロニモは、春の訪れとともにナイル川、アトバラ川、テケゼ川を遡上していった。今はもう冬が近い。長い旅程の末の眼前には、霧の中にそびえたつシミエン山が見えてきた。


 シミエン山中の聖杯城跡は、破壊の跡が著しかった。穴だらけの城壁跡は無人。冬の近いことを示す風が吹きすさぶと無数の穴から通気音が不協和音を奏でる。無人だった。

 だが、ヤザンの手元の颪鎌を介して結界がわかった。しかも異なるベクトルの二重結界。一つはシミエン山地を含む広大な地域を強く封じ込める渦動結界。そして、もう一つは近くにいる神邇(ジニ)によるもの。と言うことであれば、颪鎌の検出動作によって乱れる結界を介して、ヤザンたち二人がその神邇ジニたちに見つかるのも時間の問題だった。


 ヤザンたちは、外郭、そして内郭へと入り込んでいった。外郭の戦いの後は古く、内郭の破壊の跡は真新しい。この数日の間に、内郭で何かの戦いがあったのだろうか。


「あんたたち、ここで何をしている?」

 問いただしたのは、林聖煕。その後ろに怪物のような神邇(ジニ)ハルマンが控えていた。ヤザンたちから見ると、二人は神邇(ジニ)と帝国戦士士に見えた。ヤザンは颪鎌の動きから、兵士の背後に控えているのが神邇(ジニ)であると推定した。それは、その怪物の動きが結界の動きと同調しているからだった。渦動結界の発動者はすなわち神邇(ジニ)のはずだった、

「わたしたちですか?」

 とつぜん、その帝国軍兵士は詠唱を口にした。それと同時に、短剣、大剣、やり、などが一度にヤザンたちを襲った。

「こっ、これはアサシンだ」

 ジェロニモが叫んだ。それは、ヤザンにとってそれは初めてのアサシンとの遭遇だった。

「つ、強い。ヤザン、お前は逃げろ」

 ジェロニモは銃剣を構えたが、襲い来る剣などを叩き落すのがやっと。ヤザンは暗器を構える暇もなく、ジェロニモの後ろから内郭の奥へと走りこんだ。続いてジェロニモも物陰へ。それでも林聖煕は攻撃の手を緩めない。彼の霊剣操の前に、ヤザンとジェロニモは反撃する間もなく内郭の奥から奥へと追い込まれていった。

 内郭の奥に、隠れ家のような空間が開いていた。二人はその部屋に飛び込むと、入り口を閉塞させることが出来た。

 なにもない無人の空間。だが、その空間に達するところで、全て依頼してくる剣や槍などが、勢いを失って落下した。結界が消え去っているのではなく、二重の結界が重なって互いに打ち消し合っている。いわば結界の中立化が生じていた。

「ま、まずい。以前強制された反対渦動をそのまま利用していたのが裏目に出た…・」

 ハルマンのつぶやきと同時に、ヤザンたちは中立化エリアで態勢を整えた。ヤザンとジェロニモはすかさず聖煕に剣で打ちかかった。ジェロニモはヤザンに目配せすると、彼は剣技で聖煕に襲い掛かった。他方、ヤザンは神邇(ジニ)ハルマンを追い詰めていく。次の瞬間、ヤザンは颪鎌によってハルマンを封じ込めてしまった。

 驚いた聖煕はヤザンに向かって声を発した。

「お前たちは、何者? 旅団の手先か? どうやってハルマンを? 吹颪の大剣か?」

「旅団? また『旅団』の名を聞くね。私たちは旅団とは無関係さ。その『大剣』と呼ばれるものも持っていないぜ」

「ではどうやって?」

「さて、どうやるんだろうね」

 ヤザンは微笑みながら聖煕を追い詰めた。さらに、ジェロニモは聖煕を剣技によってさらに追い詰める。聖煕は武器や装備のすべてを捨て去り、ハルマンを見捨てて逃げ出すしかなかった。

 ヤザンが気付くと、ジェロニモの足元に真新しい魔石ガーネットで構成された太極が残されていた。

「これが魔石・・・」

 ヤザンの指摘にジェロニモはそのガーネットを見つめた。


 封じたハルマンのシートを持ち出し、シミエン山地から山麓に降りると、道がくねくねと山の上を南へつづいていた。ハルマンの結界が消えたものの、広大な地域を強く封じ込める渦動結界のゆえに、辺りは寂静の中に抑え込まれている。そのせいなのだろうか、道行く人間はいない。だが、手元の太極は怪しく光を放っている。ヤザンはそれを眺めながらその道筋を南下していった。

 道のある台地の眼下に広大な谷が広がる。それを見下ろしながら、ヤザンたちはアクスム近郊に至った。


「それは邪悪な太極・・・・。おそらく、あの魔女の持ついくつかの邪悪な太極の一つだ。昔の太極は、そんなに邪悪じゃなかった・・・・」

 道端から係る幼い声。そこには、三人の兄妹が立っていた。

 その三人の声掛けに、ヤザンは驚いて声を上げた。

「え? 邪悪な太極? それとも使い手が邪悪なのでは?・・・」

 言葉にならないヤザンたちに向かって、その兄妹たちはつづけた。

「旅団を滅ぼした後、帝国にはその邪悪な魔女が出現したのです。同時にアーレスと呼ばれる屈強で邪悪な兵士たち。彼女の名前は知らない。だが、彼女の使う太極の技は、今までの太極の技とは規模が100倍も違う。アーレスと呼ばれる部隊が攻め込むと同時に、その魔女は強い力をさらにつよくして空間をゆがめ、シムーン熱風を引き起こせる。それによって前面のすべてを熱殺粉砕してしまう・・・・」

 ヤザンとジェロニモはその指摘に驚いた。

「なぜそんなことを知っているのか。なぜ私たちにそれを教えるのか?」

「旅団は滅びてしまい、出現した魔女に対抗する者はいなかった・・・・邪悪な兵士たちと魔女によって、欧州やアフリカの民は征服されたのです」

「君たちは?」

「私たちは、征服された民の一つ、ジベタの民」

 その名前にヤザンは反射的に大声を上げた。

「ジベタの民・・・・。私の母親の出来しゅったいの民・・・・」

 ヤザンの目の前にいたのは、伝説のアクスムに住むジベタの民に受け入れられたペルシャ人アルアラビー家の若い3人の兄妹アサーラ、ザイナブ、アイシャだった。ヤザンの母親と同じように、ジベタの民はジベタンコーラルからなるロザリオを首にかけている。3人とも典型的なジベタの民だった。


 ジベタの民は、もともとイシュマエルの民だった。それがイスラエルとの共同体となり、今ではパシュトン人、ペルシア人を受け入れた混合の民の共同体となっていた。彼らは啓典の民の中で失われし民と言われたが、混血と言う形で再び歴史のおもてに表れた人々だった。ジャラール・アルアラビーや彼が率いていたパシュトン人ペルシア人の傭兵たちがメソポタミア戦線から撤退したとき、彼らは同じようにこの地に逃げ込んだイシュマエルのジベタの民たちに合流してのちに、ムラの民たちに受け入れられていたのだった。その後、帝国が圧倒的戦力で攻め入って来たという。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 小さなアクスムの町に高い声の叫びと太い声のあざけりが響いている。

「オベリスクの頂上から聞こえる高い声はギデオンです。そして太い嘲りは神邇(ジニ)のバアル。しわがれた女の声はアシェラ…」

 アサーラがつぶやいた。

「ここアクスムには、啓典の民であるムラが住み続けてきました。私たちジベタの民たちがここに受け入れてもらって以来、私たちと彼らはみな寂静に表面的に従い、神邇(ジニ)がバアルとアシェラが気ままに動くことも許しているんです」

「それをいいことに、神邇(ジニ)の二人は私たちやムラの民たちを従わせるための見せしめと称して、ムラの民の先祖である英雄ギデオンを転生させて、ああしてオベリスクの頂上につるしているんです」

 ザイナブ、アイシャも同じように答えた。ヤザンはここにもアサシンがいることを想定した。今のままではアサシンには勝てない。ヤザンは、ジベタの民と言う三人の兄妹たちに尋ねた。

「どうすれば、彼を解放できる?」

「今は、まだその時ではないと言われています。今は私たちについてきてください」


 ヤザンとジェロニモは、三人に薄明りの地下神殿へと導かれた。伝説のアクスムの、二人にとっては未知の地下神殿跡。そこに張り巡らされているものは、中立化渦動とよんでもよいもの。いわば、全ての全方位の外界からの渦動や力を吸収中立化する多方向多位相多周波数重畳渦動とでもいうべきものだろうか。ヤザンの有する颪鎌が今まで感じていた広範な渦動結界を、この領域内だけ中立化していることを検出していた。


 奥にその中立化渦動を発している神邇(ジニ)と似た者がみえた。

「この重畳渦動は、私の技の応用・・・・。以前は太極の10の欠片を手の指に嵌めていた。それによって移動できる結界のベクトルを変換したことによって作り上げたんだぜ」

神邇(ジニ)? 移動できる結界のベクトルを変換?」

 ヤザンは反射的に暗器を構えた。

「彼は神邇(ジニ)ではありません」

 慌てたようにアサーラがつくろった。ジェロニモはヤザンを抑えて用心深く観察した。

「俺はオンゼナ。今は祀ろう神爾ジニだ」

「移動できる結界のベクトルを変換?」

「俺は、その変換のわざのために、いまでは太極に代えてアラベスクを与えられた。さらには、俺を守護に導いた彼から教えられた言葉を、背中に刻んでもらったのさ。この刻んだ言葉によって、俺自身も祀ろう神爾じにとなり、移動できる渦動結界を自由に変形させて重畳渦動として作り上げることができる…・」

 オンゼナは自らのオーラを回動させながら背中を見せた。

『理曰闇と淵の水の面を聖霊動ずるところに、光を生じ一気発動し闇に勝て万物を生ず。刀を直に立るは渾沌未分の形光有て万象を生ず。故に是を刀生れと云う。・・・。』

 そこには、ヤザンやジェロニモの見たことのない霊刀操の全文が刻まれていた。

「それはどういう意味なのだろうか?」


 ジェロニモはさらに観察をすると、神殿の奥には、寝かされている老人とそれを囲む人々がいる。

「あの奥では何が起きているんだ?」

「あれは旅団の司令だったジャクランが亡くなったのです」

「旅団? ジャクラン?」

 ヤザンとジェロニモは同時に叫んだ。そしてジェロニモはさらに続けた。

「『旅団の司令ジャクラン』とは、オーギュスタン・ジャクラン?」

 その名前に老人の周囲の人々がジェロニモに振り返った。

「そうです。この老人は、旅団の司令ジャクランです。本名はオーギュスタン・ジャクランです」

「俺の祖父が生きていたのか」

 ジェロニモは思わず叫んで中に駆け込んだ。タエが彼をいぶかしげに見つめながら質してきた。

「祖父? あんたの祖父だというのですか」

「そうだ、ドンジャクランと言う名前だ」

 タエはドンジャクランという呼び名を聞いて、改めてジェロニモの顔を見つめた。

「いま、ここに・・・まさか・・・・。でも残念ながら・・・・・今しがた息を引き取ったのです。失礼ですが、あなたたちの名前は?」

 タエの驚いた顔を見つめながら、ジェロニモは落ち着きを取り戻すようにゆっくり語った。

「俺は、ジャクラン一族のジェロニモ・ジャクラン。コロンビア南北連邦に落ち延びたカトリックの民だ。カトリックの民でありオーギュスタン・ジャクランの孫だ。そして、彼はヤザン、俺の孫だ。では、あなたたちは?」

 驚いて口を開けたままのタエに代わって、アキーが質問に答えた。

「ここにいる皆は、過去に「旅団」と呼ばれた組織のメンバーたちです。そのうち、私はヒディ・アキー(Hakeem)。そして、これは私の娘であり、オーギュスタンジャクランに育てられたタエ(touaille)です」

 ヤザンはアキーの首に下げられた皮の袋を目にした途端、はじけたようにアキーに質問をぶつけた。

「あなたの首に下げているもの。それを教えてほしい。それは・・・・『選びの際の啓典の主の御言葉』では?」

「これは、私とタエとをお選びになった際の『啓典の主の御言葉』です。あなた方は啓典の民ではないのに、それをお尋ねになるのですか?」

 ヤザンは、思い出したように語った。

「ジャクラン一族に教えられていたのです。民たちの希望である二人の英雄は『啓典の主の御言葉』を持っていると・・・・」

 ジェロニモがアキーを見つめると、アキーは足元を見ながら自分の心を励ますように、また改めて確認するように独り言を言った。

「民たちの希望・・・・二人の英雄・・・・」

そして、アキーは考えをまとめつつヤザンを見つめて説明した。

「僕とタエとがここに至るまで見えた民たちは、僕たちが民の希望だと言っていました。そして、ジャクランが遺言として私たち二人に向かって指摘したこともまた、私たち自身が希望だと・・・・」

 アキーは、二人に羊皮紙の言葉を示した。

『あなた達は私が示す地に行きなさい。あなた達の行く手に立ちはだかるものはないであろう。私は、モーセとともに居たようにあなたとともにいる。あなたを見放すことも、見捨てることもない。強く、雄々しくあれ』

 ヤザンは、アキーとタエを見つめて言った。

「これだ。これだ。とすると、あなたたちは確かに黙示録に言う『二人の証人』・・・・・」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 外では、いまだにバアルとアシェラの神邇(ジニ)による愚弄が続いていた。ギデオンはもう声を上げていない。その神邇(ジニ)たちに向けてアキーが声を上げた。

「バアル、そしてアシェラ。啓典の民を、そしてギデオンを愚弄し続ける愚かな神邇(ジニ)たちよ」

 それを聞いたアシェラがアキーたちに振り返った。

「またも我らを愚弄する者がいるのか」

 アキーとタエは大剣を構え、ジェロニモも大剣を手にした。他方、ヤザンは颪鎌を懐に暗器として忍ばせ、三人の後に続いた。

「ほほう。昔の旅団の典型的な戦法を使うのかね。吹颪の大剣とやらを…。ということは、お前たちはこの一帯に逃げ込んだ旅団の中心的なメンバーの仲間だな・・・・。この一帯、おそらく我々の知らない地下神殿があるのだろう。そこががお前たちの隠れ家だったのだな。」

 神邇(ジニ)たちの後ろから現れたのは、一人の剣士。腕には、太極となるガーネットを擁した金剛腕盾(バックラー)を有し、大剣を振り回している。タエとアキーは一目見てそれがアサシンであることを見切り、走り出した。

「お前はアサシン。それなら僕が相手だ」

「ほお、この私、袁元洪(えんげんこう)を相手にするのかね。あ、お前は聖煕の言っていたアサシン・アヤか? とすると、男は下男だな」

 ヤザンはアキーとタエが元洪(げんこうなど帝国のアサシンたちに名前が知られているのだろうと考えた。しかし、アキーが呆れたような怒ったような顔をしている。

「僕は下男ではない。あんたたちは間違って覚えているんだぜ。彼女も僕も旅団の工作員だ。」

 アキーはそう指摘した。元洪はタエとアキーが二人とも旅団の工作員であることを知ると、彼は反射的に霊剣操を操し、タエとアキーに向けて大剣・槍・等多数の刃の嵐を殺到させた。タエはすぐに元洪に対抗して霊剣操を操する。それと同時に、殺到してきた体験や槍などは途端に迷走をし始める。あっけにとられた元洪は凍り付き、そこへ二人は殺到し、彼を抑え込んでしまった。他方、ヤザンは颪鎌によって一瞬にしてバアルとアシェラを圧倒し、二次元に封じ込めてしまった。

「お前たち三人は、逃がすわけにいかないのでね」

 タエとアキーはそう言いながら袁元洪(えんげんこう)を睨みつけた。元洪もまた睨み返してくる。


 その光景を見ながら、ヤザンたちは、アサーラ、ザイナブ、アイシャとともにギデオン解放に向かった。

「あんたたちは誰なんだ」

 それにアサーラが答える。

「私たちは、ムラの民に受け入れられたジベタの民です」

「啓典の民たちか…・」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 解放されたギデオン、アキーとタエ、そしてヤザンたちは、これからのことを話し合ったのち、それぞれが旅立った。ギデオンが言うには、オバデアの預言書によって、彼をはじめとした転生せし英雄たち、つまり鳴沢の手先である神邇(ジニ)たちが転生させた啓典の地の英雄たちが、全て集められているという。ギデオンは各地を巡りながら、同志の英雄たちを集めつつ、その場所へ行くという。


「その場所とは?」

 アキーが訪ねると、ギデオンは思案顔で答えた。

「それは天の大軍の終結場所。まだ私も知らない。ただ導きのままに進めば、その地に至るはずだ。転生させられた英雄はすべてそこに結集しつつある、ただ、その始まりはすでに始まっている。そうあんたたちが動き始めた欧州だよ。そこからすでに始まっている。」

「それなら、皆で欧州へ戻りましょう」

 話しを今まで黙って聞いていたジェロニモは、考えをまとめるようにしてゆっくり語った。

「俺はコロンビアに戻るよ。行方不明者は先ずは連邦政府に現在の状況を報告しなければならないからね。また、コロンビアの俺の一族にオーギュスタンジャクランの事、ジャクラン一族のことも知らせないと。それに、この老体には少し休憩が必要だからな」

 ヤザンが言葉を繋いだ。

「そうですか。あの船で私たちと欧州に戻りましょう。そのあとで、爺様はコロンビア連邦政府に連絡を取ってください。暗号で、迎えが来ることになってます。その後の報告はお任せします。私は啓典の主によって命じられたと思われることを実現しなければなりません。アキーとタエの二人に力を貸して、アカバの地にある帝国の何らかの秘密を探り、その帝国の秘密を粉砕すること・・・それが、今の僕の使命だから・・・・」

「私たち二人は、欧州から始めて各地の啓典の民たちから工作員を選んでいきます。ここの地で選んでいる工作員たちと同様に、そこで選ぶ者たちも、導きによって与えられる者たちとなるのです」

 こうして、英雄たちは集結の地に向かい、旅団の各員は各方面にちらばり、活動を開始することとなった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・


 鳴沢は、謎の工作員が伝説のアクスムへに向かったことを、聖杯城跡の警備から逃げ出した林聖煕や、周辺の地から逃げ出した神邇(ジニ)の報告で知った。おそらくは、謎の工作員たちと聖杯城跡地から脱出したメンバーとが合流したことは濃厚だった。それは、啓典の民たちすべてが再び一つとなったことを意味する。また、転生した欧州、アラブ、アフリカの啓典の民の勇者達は再び天へと帰るまえに、天の万軍に加わることは予想された。まさにオバデアの預言書の通りだった。

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